パブリックという概念をめぐって

先日、英国の医療家系図による新サービス「MyFamilyHealth」を紹介したが、考えてみればこれは、数年前に米国HHS(保健社会福祉省)公衆衛生局と国立ヒトゲノム研究所が共同開発した「My Family Health Portrait」を焼きなおしたものと言えよう。家系図という分かりやすい概念を使って、遺伝子情報の公衆保健サービスへの利用を促進しようというこの米国政府プロジェクトは、今日から見てもたしかに先見の明があった。

ところで、このような遺伝子情報をベースにした医療家系図サービスを日本で実施するとしたらどうだろうか?。おそらく遺伝情報や家系情報などプライバシーにかかわる情報を「公衆衛生」という名のもとに利用することに対して、相当の反発が立ち上がるのではないだろうか。またこのことは、日本における最近の「GoogleMapsストリートビュー論争」などとも無関係ではないような気がする。 続きを読む

様々なる闘病記

このブログでは、これまで闘病サイトの現状やその傾向について何回か報告してきている。最近、あちこちウォッチングして感じるのは、まともな闘病サイトへ行きつくこと自体がだんだん困難になって来ているということである。ネット上にノイズが大量に発生しており、闘病サイトが見つけにくくなっているのだ。

その闘病サイトを取り巻くノイズだが、まず偽装闘病サイトあるいは「名ばかり闘病記」が増加している。「○○闘病記」などタイトルを見ただけでは、そのサイトが偽装サイトかどうかは判別しにくく、サイトへ行ってみて初めて偽装サイトであることが分かるケースが多い。こんな徒労を下手をすると何回も繰り返すことになり、貴重な時間を無駄に費消してしまう。これら偽装サイトは、闘病体験が一切記録されていない「名ばかりサイト」であったり、一見もっともらしい体験記に見えながらもあきらかに作話であったり、特定の健康食品や健康法へ誘導するものであったりする。特に「もっともらしい闘病体験」の体裁を偽装しているケースでは、ますますその偽装は巧妙を極め、かなり読み込んでみなければ判断がつかないものも多い。 続きを読む

横断的な知の結集

残暑厳しき折、一人の若者が当方を訪問してくれた。医療変革にかける彼の大きな志に接し、清涼な風に吹かれるような清々しい時間を持つことができた。まず、このことに感謝をしたい。Health2.0、PHRと意見交換したが、あらためて日本におけるこれらの可能性を問われてみると、まだ自分なりに決着のついていない問題も多いことに気づかされ、はたして充分に返答できたかどうか定かではない。

たとえばPHRであるが、いくつかの試行はあるものの、まだ日本では本格的なPHRは出現していない。その原因を説明するために、日本医療の現状からネガティブファクターをもっともらしく列挙するのは容易だろうが、それを言ってみたとことで現実的なソリューションを提起することにはならない。とどのつまり、リスク負担を覚悟する確信犯的なプレイヤーがまだ登場していないということではないのか。「確信犯的なプレイヤー」さえ舞台に上がれば、局面を打開するシナリオはなんとでも作案でき、それなりに舞台はブリコラージュとアドリブで進行するのだろう。 続きを読む

「完全無欠システム」から「ブリコラージュ」へ

先日、リチャード・マクマナスの「Read Write Web」に「PracticeFusion」の話題が取り上げられていた。当ブログでも昨春エントリで紹介してあるが、PracticeFusion社はGoogleの広告システムAdSenseをウェブベースのEMR(電子カルテシステム)に配信することによって、無料で診療所にEMRを提供するサービスを開始している。米国では、標準的な診療所に電子カルテシステムを導入しようとすると、約2万ドルかかるといわれている。これは経営規模の小さい診療所にとっては大きな負担であり、「医療IT化」が進まないのも導入コストが高すぎるせいだと指摘されてきた。

だが実はPractiseFusion社以外にも、RemedyMD社をはじめ無料のEMRあるいはEHRを提供するシステムベンダは存在する。大規模医療機関などにも対応できるオープンソースのEHRとしてはOpenVistARPMSが有名だ。このように今後の医療IT化は、PracticeFusion社のようなウェブベースの無料システムやOpenVistAのようなオープンソース利用がどんどん進むとみられている。システムの導入と運用にかかわるコストは医療コストに直結するものであるから、これを低く抑えることは国民医療費の削減にも寄与するはずだ。 続きを読む

家系図から家族の健康リスクを知る新サービス「MyFamilyHealth」

MyFamilyHealth

昨年あたりから、海外では個人の遺伝子解析サービスが、Googleの資本参加で注目される「23andMe」社をはじめ一斉に立ち上がった。遺伝子データを使って将来の個人別疾患リスクを予測しようというものだが、料金も各社1000ドル程度にまで下げてきており、今後の有望医療市場と目されている。ところで同じく遺伝子に着目しながらも、「家系による遺伝」という点にフォーカスした新しいサービスがイギリスから登場した。

MyFamilyHealth はオンライン家系図サービスとSNSを合体させ、これまでにない個人医療情報サービスを立ち上げた。「家系図は最も重要な遺伝子診断になった。すべての家族は何らかの疾患を持っている。そのことをより良く知るためには、より多くのツールを使って予防医学を実践しなければならない。あなた自身とあなたの子供たちのために。」とトップページには掲出されているが、このサービスはまず家系図を作成し医学的な情報を加えて提出すると、その「医療家系図」を元に、ユーザーとその家族に存在する遺伝的リスクを分析評価してくれるのである。 続きを読む