よく知られるように、2.0系のサービス開発では、俗に「LAMP」(Linux,Apache,MySQL,Pearl(or PHP))と言われるオープンソースのソフトウェアを使うのが一般的になり、従来よりもその開発コストは大幅に下がった。では医療IT分野ではどうだろうか?。EHR(Electronic Health Records)のオープンソース・ソフト”WorldVistA“が、米国で注目され始めている。
“WorldVistA”とは何か?
「ビスタ」といえば先ごろ発売されたマイクロソフト「WindowsVista」のことが思い浮かぶが、この”WorldVistA”はそれとはまったく別もの。この前身にあたるただの”VistA”は、”Veterans Health Information Systems and Technology Architecture”という長ったらしいフルネームを持つ。
(名称をめぐり、”WorldVistA”グループはマイクロソフトの“Vista”使用に抗議している)
これは実は米国政府機関の復員軍人援護局(略称VA)がその医療部門のために開発したソフトであり、米国では政府開発ソフトのうち最も成功した成果の一つであるとも言われているようだ。10年前にVAの医療機関にこの”VistA”を導入して以来、目に見えてVA医療機関のパフォーマンスは向上しているらしい。
たとえば医療費を取ってみても、VA病院ではこの10年間に患者一人当たり医療費が32%下がっている。これはこの期間に、全米平均で患者一人当たり医療費が50%上昇していることを考えると、大変なコスト削減効果といえるだろう。また、患者満足度でもVA病院は、8年間継続して全米民間病院平均を上回る実績を示している
“VistA”から”WorldVistA”へ
“VistA”は、当初から当然パブリック・ドメインのソフトであり無料だったが、それを他の医療機関にVAがインストールしたり運用したりすることは、VAの専管業域規定に抵触するためできなかった。
そこで2002年、”VistA”開発プログラマーとオープンソース支援者が協同し”WorldVistA”コミュニティをつくり、簡単に医療機関が導入できるオープンソース・ソフトとして新たにスタートしたのである。そして今年の4月、”WorldVistA”はCCHIT(医療情報技術認証委員会)の規準をクリアし技術認証を受けた。
大手ベンダー系EHRとの競争へ
CCHITの認証を受けたということは、”WorldVistA”が他の大手ITベンダーが提供するEHRシステムと、技術の堅牢性や信頼性などの諸規準で少なくとも対等に立つことを意味する。これをもって「EHR市場でもプロプライエタリなソフトの時代は終わった」と論じる者も少なからず出てきている。たしかに導入コストをとると、”WorldVistA”は大手ベンダーEHRシステムの「10分の1」という報告もある。
この圧倒的なコスト優位性をもって、”WorldVistA”は大手ベンダーを蹴散らし、EHRの”LAMP”となるのであろうか?。どうもそう簡単にはいかないようだ。スタンダード・フィーチャー、機能、セキュリティ、パフォーマンス指標などでは大手ベンダー系EHRと同等であるが、まず、”WorldVistA”を専門に扱う顧客サポートの経験を積んだベンダーがまだ存在しない。つまり優れた製品はあるが、販売・サポート体制が弱い。これは市場競争では致命的だ。また、基本機能以外の病院業務フローが充実していなかったり、という問題も指摘されている。
とは言え、やがてこれらの問題は時間が解決するだろう。だが、政府機関が開発したオープンソース・ソフトなのだから、これは一種の「民業圧迫」にならぬのかしら?。というより、既存大手ベンダーがもっと努力すべきなのか?。
Source: The New York Times, May 30 2007
< 関連情報>
もう一つのオープンソースEHR、RPMS
三宅 啓 INITIATIVE INC.