Google Health、ついに公式発表

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昨日28日、フロリダはオーランドで開催されている米国医療情報界最大の年次イベントHIMSS2008 で、GoogleのCEOエリック・シュミット氏がキイノート・スピーチをおこない、同社PHRシステム「Google Health」のローンチを公式に発表した。シュミット氏は「Google Health」が現在の医療実務を根本的に変革するものになることを公約し、「個人医療データを、医療機関やペイヤーのデータベースから解放し、患者に従うようにする」と述べた。

このスピーチ内容を読んで、「しかしエリック・シュミットも、ずいぶん思い切った言い方をしているな」と思うのだが、実は「本来のPHR」の勘所はここにあると当方は考えている。これまでも当ブログで書き散らかして来たのだが、本来、PHRはEHRをはじめ他の医療システムの上位に立ち、これらを統合する中心的な医療情報システムであるはずだ。つまり、他のシステムに分散したすべての個人医療情報をユーザーの手元へ集約統合し、ユーザーの意思に基づいてデータ運用するシステムであるはずだ。これはアダム・ボスワース氏以来、「Google Health」の指導的な開発原理となっていたが、現在もGoogle内部で継続されていることは喜ばしいことである。

このエリック・シュミット氏の発表と同時に、Googleの公式ブログでも「Google Health, a first look」というエントリが、「Google Health」担当のマリッサ・メイヤーVPによって公開されている。従来のPHRと「Google Health」の違いについて、このエントリでマリッサ・メイヤー氏は、次の四ポイントを指摘している。

・プライバシー&セキュリティ

Google Healthに格納されるデータの機密性、個人的性質に鑑み、われわれは、すべての他のわれわれのサービスに、ユーザーが期待するのと同じプライバシー、セキュリティ、そして誠実さを実行する必要がある。Google Healthは、あなたのデータに対する完全なコントロールをあなたに与えることによって、あなたの医療情報のプライバシーを守る。われわれは決して、あなたの明確なパーミションなしで、あなたのデータを売ったり共有したりすることはない。われわれのプライバシー・ポリシーと実務は、「Google Healthアドバイザリー委員会」のエキスパートの思慮深い協力を得て開発されている。

・プラットフォーム

Google Healthの最もエキサイティングでイノベイティブな部分は、われわれのプラットフォーム戦略である。われわれはGoogle Healthと相互運用するサードパーティのディレクトリを集めている。現時点では、このことはあなたが将来、あなたの医師の記録、あなたの処方箋記録、そして検査記録のような情報を、Google Healthへ自動的にインポートできるようになることを意味している。そして簡単にあなたのデータにアクセスし、それをコントロールすることができるようになる。やがて、このプラットフォーム戦略は、あなたがサービスやツールと簡単に情報をやり取りすることを可能にし、アポイントメント、処方箋発行、そして新しいウエルネス・ツールを使い始めるようなこともできるだろう。

・ポータビリティ

結局インターネットの存在によって、Google Healthを使えば、どこからでもあなたはデータにアクセスしコントロールすることができるようになるだろう。クリーブランド・クリニックとのパイロットテストによって、われわれは既に多数のGoogle Healthの使用ケースを見つけ出している。たとえば、一年のうち6ヵ月をオハイオで過ごし、あとの6ヵ月をフロリダかアリゾナで過ごす人は、今後、様々な医療機関の間で医療データをシームレスに、そしてユーザー・コントロールの下に移動することができるようになる。以前なら、これをやるためには、紙の記録をあちこちへ持っていくことが要求された。Google Healthを使えば、ユーザーはそれぞれの医療施設から簡単にデータをインポートし、そしてどのデータを他の医療施設と共有するかを選択することができる。このようなデータ・ポータビリティの進歩は、医療の品質にも実際的な効果を生み出すと、われわれは考えている。あなたの健康に関する情報が、よりクリアでより包括的であればあるほど、あなたが受け取るケアはより良いものになるのだ。

・ユーザー焦点

われわれは医師でもなければ医療エキスパートでもない。だがGoogleは一つのことができる。それは、あなたの医療情報をわかりやすく簡単に管理する、クリーンで使いやすいユーザー体験を創造することである。(後略)

以上四点だが、まず2番目の「プラットフォーム」に注目しておきたい。なぜならこれまで「Google Health」に関して、プラットフォームという言葉が使われるのは、おそらくこれが初めてだからだ。これはやはり、先行するマイクロソフトの「HealthVault」そしてインテルの「DOSSIA」が、両者そろって「プラットフォーム」を明言していることへの対抗上、どうしても必要な戦略的措置なのだろう。かくして「Google Health」は、三番目のPHRプラットフォーム参入プレイヤーとなったわけだ。だが、プラットフォームである以上、そこに多数のパートナーを参加させなければならない。その第一号はクリーブランド・クリニックであったのだが、すでに大手医療機関や医療団体や医療保険とのパートナーづくりで先行しているマイクロソフトに対し、後発Googleとしては先行者との差別化を考えなければならない。そこでGoogleが注目したのが、なんとRHIOであるようだ。

キイノート・スピーチ後のプレス・コンファレンス席上、エリック・シュミットCEOはGoogleがRHIOに興味を示しており、少なくとも理屈の上から言えば、「Google Health」はRHIOがアクセスできる患者データ・レポジトリとして機能する可能性があることを指摘し、「彼ら(RHIO)のゴールはわれわれのゴールでもある」とさえ述べた。ただ、これもユーザーのパーミションがある場合に限ることを再び付け加えた。

しかし、昨年来、全米のRHIOビジネスモデルが破綻していることは、すでに米国医療界の誰もが承知していることである。今さらそこへアプローチすることが、いったいどのような可能性を持っているか、決して楽観できることではない。だが逆に言えば、Googleから支援の手が差し伸べられれば、経営難のRHIOにとっては「渡りに舟」である。つまりGoogleが全米のRHIOを自陣へ取り込むこと自体は、極めて容易なのだ。そう考えると、これはGoogleにとって悪くない戦略オプションなのかも知れない。

また、「プライバシー&セキュリティ」についてシュミット氏は、GoogleがHIPAA関連規制に該当するいかなる活動にも関与していないと主張し、「Google Healthはおそらく(HIPAA基準以上に)セキュアだろう。なぜならGoogle Healthでは、データにアクセスするためには、ユーザーの明確なパーミションが必要だからだ。」と述べている。上記公式ブログ「四点」においても、「プライバシー&セキュリティ」が最初に取り上げられているところなど、Googleとしても、この問題に相当慎重に対応しようとしているのが見て取れる。さらに興味を引かれるのは、先日の「世界プライバシー・フォーラム」レポートで指摘された「HIPAA適用除外」の問題をむしろ逆手にとり、Googleが「HIPAAとは無関係」という立場を主張している点だ。のみならず、「通常の他のGoogleサービスにおけるプライバシー&セキュリティ対策で充分」とし、「むしろHIPAA基準よりもセキュアだ」とさえシュミット氏は発言しているところが注目される。ちなみに公式ブログで触れられている「Google Healthアドバイザリー委員会」とは、昨年夏、当方ブログのこのエントリで取り上げた「医療諮問委員会」のことである。

最後に「Google Health」のビジネスモデルだが、シュミット氏はGoogle Healthがマネタイズのためのどんな方策も持っていないとし、「Google Healthは、Googleの『この世界をより良い場所にする』という企業モットーに一致している。Google Healthのユーザーは多分、より一層Googleの検索機能を使ってくれるだろう。そしてそのことが会社全体の売上を強化する。」と触れた。また、たとえばデータを匿名化してマーケティングや調査研究に使用するなど、将来の各種データ利用の可能性を否定した上でシュミット氏は、「われわれは、ユーザーのパーミションを第一にしなければならない」と再び強調した。

<Source>
“Google unveils more information on health initiative”,02/28/08,HealthcareITNews
“Google to offer Health Records on the Web”,02/28/08,The Wall Street Journal
“Google Health, a first look”,02/28/08,The Official Google Blog

三宅 啓  INITIATIVE INC.


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