PHRは、なぜ動かないか

Google Health

天候不順のせいかあまり体調が良くない。一昨日、Yahoo!Newsの方に記事を書いたわけだが、ずいぶん久しぶりにPHR(Personal Health Record)のことを考えた。もっともこのブログのカテゴリー欄を見てもわかるように、これまで95件もPHR関連エントリを公開している。自分にとっては、Helth2.0と共に、一番力を入れて考えてきた分野がPHRだったと言えるだろう。

このブログを始めたころは、医療ITといえばEMRやEHRが中心的な話題であったが、どうもそれらの議論は、患者が不在のままに「政府とITゼネコン」ベースで進められているように思えたのである。だから海外ブログを漁っているうちにPHRという言葉を発見したとき、「個人」をベースに考えるというその新鮮な発想に共感したものだ。やがてGoogle Healthの噂が伝わってきたが、医療とITに関心を持つものなら、みんな本当に「これで医療が変わるのではないか」という期待を持っていたと思う。

今、PHRの実現を主張している人たちも、やはり同じような期待感に高揚しているに違いない。それらの期待感やチャレンジに水を注すのはやはり心苦しいのだが、それでもGoogle Healthが失敗したという事実から目をそらすわけにはいかない。すでにその失敗の事実を知っている私たちは、それに口を閉ざすことなく、そこから何かを学び取って、これからの自分たちのビジョンを再考する責任があるのだ。 続きを読む

アダム・ボズワース、「Google Healthの失敗」を語る


プロジェクト凍結の可能性が強いGoogleHealthだが、この件について、なんと元の開発責任者だったあのアダム・ボズワースがインタビューに応じている。思えば2007年夏の終り頃だったか、突然、アダム・ボズワースはGoogleを去ったのだった。その直前にはNew York Timesの求めに応じ、初めてGoogleHealthの全貌を紹介していただけに、なんとも唐突感を否めなかった。

シリコンバレーでもカリスマ・プログラマと一目置かれているアダム・ボズワースだけに、彼がGoogleHelthプロジェクトを去った衝撃は大きかった。それから半年が経った翌2008年春、GoogleHealthはエリック・シュミットCEOによって大々的に紹介されたが、期待が大きかっただけに、その失望もまた小さくなかったのだ。それは、目新しい新機軸が何も見当たらない「フツウのPHR」だったからだ。

なぜ、あの時アダム・ボズワースはGoogleを去ったのか、いまだに謎だが、その後彼が公開したkeas、そしてこのインタビューなどを見ると、なんとなく彼がGoogleHealthに飽きたりなかった理由がわかるような気もする。

「彼ら(Google)は基本的にデータをストアする場所を提供した。われわれの資料によれば、人々はデータを保存する場所自体を望んでいるわけではない。人々は何か面白いもの、魅力のあるものを求めている。Google Healthは面白くないし、ソーシャルでもない。なぜそんなものを、人々がしようとするだろうか?」(アダム・ボズワース)

三宅 啓  INITIATIVE INC.

PHRと消費者ニーズ


この前のエントリでも触れたが、GoogleHealthはどうやらプロジェクト凍結が決定されたようだ。Google自身の公式発表はないものの、プロジェクト離脱者の証言などからそう考えて間違いなさそうだ。しかし3年前、あれほど華々しくエリック・シュミットみずから全世界に発表したこともあってか、いきなり中止するわけにもいかないのだろう。ここは「生かさず、殺さず」、徐々にフェードアウトさせていくのだろうが、何かやり方が日本的だ。

凍結の理由は、ユーザーを獲得できなかったことにつきる。

これをめぐって米国ではさまざまに議論されているが、その主たるものは次の三点だ。

  1. 患者・消費者は、自分の医療情報を預けるほどGoogleHealthなどPHRを信用していない。
  2. PHRやPHP(Personal Health Platform)などは、患者・消費者が欲しいと考えているサービス、たとえば診療予約だとか処方箋レフィル請求などのサービスを提供すれば、いずれ市場を支配するだろう。
  3. PHRやPHP等、何と呼んでもよいのだが、とにかくそれらに関心を示すのは人生を変えるほどの病気と闘っている人々だけだ。

まず1の意見だが、Googleのようなメジャーブランドがきちんとした説明をすれば、信用を得ることはそんなにむつかしいことではない。一方、2と3については、PHRをはじめ医療情報サービスに対する患者・消費者ニーズをどう洞察するかという、非常に大切な問題を含んでいる。 続きを読む

浸透してきたTOBYOプロジェクト

ajisai

新宿御苑では紫陽花が咲き始め、ホトトギスが鳴いている。6月。早いもので、もう今年も一年の半分が過ぎようとしている。だが、振り返って懐かしい過去などベンチャーにはない。ひたすら前へ、全速前進であれ匍匐前進であれ、とにかく前進しなければならない。

「闘病体験の共有と傾聴」を旗印とする私たちのTOBYOプロジェクトは、いよいよdimensionsの来月サービスインへ向け秒読み段階だ。しかし、この時期に来てプログラマがダウンしてしまい入院。早い回復を祈るのみだが、残りの工程は見えているので、予定通り来月サービスインするつもりだ。

最近いろいろな人から聞くのだが、どうやらTOBYOがビジネス界とくに製薬業界でかなり知られてきているらしく、TOBYOを仕事に利用している方も多いとのことである。うれしいことである。それもTOBYOがというよりも、TOBYOを介して、闘病ユニバースに公開された闘病体験ドキュメントに対する関心が高まっていることがうれしい。これらドキュメントは本来、闘病者のみならず、医療関係者にとっても非常に高い価値をもつデータでありながら、これまで効率よく利用する手段がなかったのである。私たちが着目したのはこの「手段」を何らかの形で提供することであった。そして、TOBYOは闘病者のために闘病体験を共有する手段であり、dimensionsはプロフェッショナルの方々のための闘病体験を傾聴する手段なのである。 続きを読む

Google Healthはどうなる?

Shadow

昨日、久しぶりに新宿御苑を散策した。例年ならこの時期、花見客で混雑するのだが、寒風が吹き渡る苑内の桜はまだほとんど開花していなかった。地震のせいでもあるまいが、今年の春は遅い。それでも苑内を歩き回ってみると、春の息吹をあちこちに感じ取れた。そして今朝通勤途上、新宿御苑の遊歩道を歩いていると春風が頬を撫でた。たった一日で季節が変わったのだ。

来月4月4日、Googleはエリック・シュミットに代わり、共同ファウンダーの一人であるラリー・ペイジがCEOに就任する。このことによって、GoogleHealthが事業縮小されるのではないかと米国では言われ始めている。3月26日付Wall Street Journalに掲載された記事”At Google, Page Aims to Clear Red Tape” によれば、ラリー・ペイジはGoogleの官僚化した組織とプロジェクトを見直し、スタートアップらしさ、つまりベンチャー精神を取りもどしたい意向のようだ。

あのGoogleでさえ、ここ10年ほどの成功体験によって組織内部の官僚化や保守化が起きているのかと驚くが、たとえファウンダーが現場復帰しても、再び創業時のベンチャー精神を取り戻すのは容易ではないだろう。それにしても、その事業見直しでGoogleHealthが矢面に立たされている。残念なことだが、ある意味では当然の成り行きかもしれないと言われている。 続きを読む