TDR:TOBYO Document Research

Gyoen_Bistrot

ようやく新宿にも春がきた。新宿御苑は梅が満開だが、ところどころ桜も咲き始めた。今なら、梅と桜を一挙両方観る贅沢が味わえる。昼休みにお弁当を持って行こう。

さて現在、先のエントリでも触れたように「がん闘病CHART」の開発を進めているが、実は同時に昨年来やり残していた仕事に再度取り組んでいる。dimensions開発の過程でカスタム・ソリューション・サービスを構想していたが、そのまま放置してしまっていたのだ。

dimensionsは、TOBYOプロジェクトで可視化した闘病ユニバースのデータをさまざまな観点から見ることができる汎用ツールである。ユーザーの目的に応じて、ユーザーがいろいろな使い方ができるように作ってあるのだが、「ツールよりも、結論をまとめたレポートが欲しい」という声もあちこちで耳にした。

また「ソーシャル・リスニング」ということ自体がまだ一般の企業には馴染みがなく、困惑する向きも少なくなかった。「リスニング」の基本文献であるステファン・ラパポートの”Listen First”だが、電通ソーシャルメディアラボが翻訳し、やっと来月4月12日に出ることになった。とにかくこういう基本テキストが出てくれなければ、なかなか社会的認知も進まないのであるが、だからと言って、これでただちに認知や理解が一挙に進むわけでもない。 続きを読む

患者学習ツール: 「がん闘病CHART」

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ある日突然、医師から「がん」を告知されたらあなたはどうするだろうか。まず突然の告知に驚き戸惑うだろう。その様子は「がん」のどの闘病ブログにも記されている。次に、あなたは医師から告げられた病名や病態や病期を調べるために、とりあえずそれらの言葉をGoogleで検索するだろう。あるいは、何をどのようなキイワードで検索すればよいかということ自体がわからず、途方にくれるかもしれない。そしてネット上には膨大な量の医療情報、闘病ドキュメントがあふれており、ひと通りそれらに目を通すだけで徹夜仕事になるかも知れない。そして次の日、あなたは書店や図書館で自分の病気のガイドブックを紐解くかも知れない。

おおむね、患者が最初に取る行動は以上のようなものだろう。これら一連の情報収集活動が何を意味するかを考えると、それらは「自分の病気についての学習行動」と言うこともできるだろう。さらにこの「学習行動」の中身をよく見てみると、その「学習」は自分の病気に関する医療分野の専門用語や固有名詞など「言葉の学習」であることに気づく。つまり患者は、最初にこのように自分の病気についての「基本単語の習得」という問題に直面するのだ。とにかく「基本単語」がわからなければ、Googleで検索することも、誰かに何かを訊ねることもできない。

この初期学習過程で十分な基本単語習得がなされなければ、患者は医療者とコミュニケーションすることができないし、自分の意向に沿った医療を選択することもできなくなる。つまりこの初期学習過程は、実は、その後の「患者の意思決定」のポテンシャルを決定する重要なファクターなのだ。そしてこの学習は、学習一般がそうであるように、誰かに代わってやってもらうことはできず、あくまで患者自身が自分でおこなわなければならない。

だが、患者に与えられた時間は少ない。治療方針を医師と協議するまでに、自分の病気の疾患概要、検査方法、治療法、薬剤など専門用語を習得し、自分の意向と選択方針を明確にしておかねばならない。しかもこれは、告知の衝撃さめやらぬ不安定な精神状態でおこなわれるだけに、余計に患者に取って大きな負担を強いることになろう。 続きを読む

続々開催される医療ITカンファレンス

Announcing Medicine X 2012 from Larry Chu on Vimeo.

前エントリでも少し触れたように、ここのところ徐々に「Health2.0」という言葉は、単に特定のイベント興行ブランド・ネームへと格下げされたかのような感が強い。なぜ「格下げ」が起きたかというと、Health2.0以外に多数の医療ITカンファレンスが続々と実施され、さまざまなムーブメントも立ち上がってきているからだ。その中でも、若者中心のスタートアップ企業が大挙結集して注目を集めたのがRock Health主催の“Health Innovation Sumit” で、今年1月サンフランシスコで開催されている。

また、最近注目されているのがこの9月開催される“Stanford Medicine X”。プロモーションビデオ(上)が公開されているが、自分のICD(植え込み型除細動器)データへのアクセスを主張して話題になったe-PatientのHugo Campos氏も参加する予定。

ちなみに、夏までに開催が予定されている主な医療ITカンファレンスは下記の通り。

Healthcare Experience Design Conference

TEDMED

Sage Commons Congress

Innovations & Investments in Healthcare

Mobile Health 2012

Digital Health Summer Summit

Kauffman Life Science Ventures Summit

三宅 啓 INITIATIVE INC.

仮想対談: 「2.0」への苦言

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客) やっと暖かくなってきたが。

主) そうなんだ、やっと新宿御苑プロムナードの梅の花も咲き始めた。ところで、このエントリだが、なにか今までとスタイルがちがうな。「仮想対談」というのかな、こんな形式もはじめての試みだが。

客) 前から一度やってみたかったんだが、今日、吉本隆明死去のニュースを聞いて、早速やってみた次第だ。

主) 吉本さんの「情況への発言」だな。あれは面白かったな。毎回、進歩派知識人を「このバカ、死ね!」とメッタ斬りするところが痛快だった。仮想対談という形式でしか実現できない言説空間というものが、たしかにあるんだなと思ったね。

客) そう、あの「情況への発言」にあやかろうというわけだ。ところでまず、君はここのところ、医師コミュニティについてかなり批判的な発言をしているが、その真意は一体どこにあるのか。そのあたりから話してみよう。

主) 別にとりたてて「真意」というものもない。ただ、Sermoの現状などを見ていると「本当は、ちっとも成功などしていないのではないか?」という疑念が強まってきたわけだ。その一方で、QuantiaMDが会員数15万人に達し、Sermoを抜いて全米ナンバーワン医師コミュニティになったというニュースもあり、じゃ、SermoとQuantiaMDを比較すれば、医師コミュニティが本質的に抱える問題点というものが見えてくるだろうと考えたわけだ。

客) でも、それは君のTOBYOプロジェクトとは何の関係もないだろう。

主) いや、「Health2.0のビジネスモデル」というものを考える場合、医師コミュニティの成立与件の考察も役に立つんだ。以前、「患者コミュニティの考察」というエントリを出したが、これと今回の「医師コミュニティの考察」を合わせることで、Health2.0ビジネスモデル、特にコミュニティに共通する問題点がいくつか明らかになったと思うし、それはこちらのプロジェクトにもすごく役立った。 続きを読む

ウェブ医療サービス時評 2012.3: パターナリズムを越えて

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3月になっても新宿御苑遊歩道の梅はまだ開花せず。しかし、昨日あたりからぐっと暖かくなってきた。もうすぐ春だ。写真は夜明けの石神井公園。

先週、厚生労働省の「医療情報の提供のあり方等に関する検討会」(座長=長谷川敏彦・日本医科大教授)が、医療機関や地方自治体がインターネットで提供する医療情報に関する報告書「医療情報の提供のあり方等に関する検討会報告書」を発表した。このニュースを聞いて正直「えっ!まだやっていたの?」と言う他なかった。名称は多少違うかもしれないが、厚労省の同様の「検討会」はおよそ10年前から断続的に続けられていたような記憶があるからだ。10年前には知人が検討会メンバーに入っていたこともあり、医療機関サイトが「広告ではなく広報」として扱われたこと、アウトカム情報公開がうやむやに先送りされたことなどが印象に残っている。

その後、小泉内閣の総合規制改革会議(宮内義彦議長)において、「株式会社の病院経営参入」や「混合診療」そして「広告規制緩和」などかなり思い切った試案が出されたが、それらはその後すべて次々に葬り去られたのである。そして今回の「検討会報告書」には、たとえば「ポジティブリストによる広告規制の継続」や「アウトカム情報公開の実質的なもみ消し」などがあるが、これでこの十年間様々に提起された「改革の芽」は最終的に潰えたと言えるだろう。否、10年経って、規制はむしろ強化されたのではないか。 続きを読む