映画「ソーシャルネットワーク」を見て

SNS

映画「ソーシャルネットワーク」を見た。昨年秋から、いろいろなところでこの映画について目にする機会が多く、いわば予備知識過剰状態で映画館の座席に座ったが、それなりに面白く見た。映画は、世界最大のSNSをめぐる創業関係者の葛藤、友情、そして裏切りのエピソードを軸として、今日のベンチャー・ビジネス・シーンの実相に迫ろうとしている。

いくつか印象に残ったシーンがあるが、双子のウィンクルボス兄弟が、自分たちのアイデアをザッカーバーグが盗用したとハーバード大学学長に訴える場面では、学長が「アイデアを真似されたなどとつまらないことを言うな。自分たちで新しいプロジェクトを始めればよいではないか。ハーバードは学生に創造的であることを求める」と一喝するところがあった。我が意を得たりだ。そのとおりで、自分たちの独創的なプロジェクトを創造すること以外に、ベンチャーをやる意味などないのだ。他人のプロジェクトをあれこれ評論するようなことではなく、とにかくアイデアを作って自分のプロジェクトを立ち上げなければ話しにならない。自分自身のプロジェクトを持たなければ、どんなイノベーションも変革も、この社会に実現することはできないのだ。 続きを読む

dimensionsのアンバンドリング

dimensions_mypage

先日、TOBYO収録の乳がんサイト数は2,000件を越えたが、こうなるとこれら乳がん闘病サイトだけを対象にした検索エンジンが欲しくなる。乳がん闘病ドキュメント専用のバーティカル検索エンジンである。実はこれは、TOBYOプロジェクトの当初からあった構想なのだが、とにかく量(収録サイト数)が一定の規模以上にならならければあまりメリットはない。

しかし、既にTOBYOでは「乳がん」や「うつ病」のようにサイト数2,000件を越える病名が出てきており、また収録サイト数100件を越えるものは58病名に達している。そろそろ当初構想していた「単一病名バーティカル検索エンジン」を作っても良い段階に来たと思う。

この「単一病名バーティカル検索エンジン」だが、TOBYOプロジェクトの新規サービスdimensions(ディメンションズ)の拡張検索エンジン「Xサーチ」で実現されている機能である。本来はdimensionsの有料ユーザーだけに提供することになっていたが、これら機能を病名ごとに切りだし、APIを公開することで広く使ってもらいたいと考えている。

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医療の両義性

SageCommons

昨年末から話題になっている近藤誠医師の「抗がん剤は効かない」。このタイトルに強い既視感があったのだが、さてどこで目にしたのか、とっさには思いつかなかった。しかし、ふとしたはずみに昨年ポストしたエントリ「医療分野におけるデータ公開・共有の新展開 」を思い出した。昨年4月サンフランシスコで開催されたSage Bionetworks の”Sage Commons Congress”の冒頭プレゼンテーション・スライド(上図)には

“75% of cancer drugs don’t work.”

と記されていたのである。Sageにはファイザーやメルクが支援しているので「ここまで言っていいものか?」と強く印象に残ったのである。

ところで五年前、私の父が胃癌の診断を受け医師から全摘手術をすすめられていた頃のことだが、近藤医師の「がんもどき理論」をネットで知り、それに父が強く惹かれていたことがあった。無理に外科的切除をするよりも、がんとのいわば「共存」を説くようなその「理論」は、患者に取って新鮮で魅力的に見えたのであろう。私はその「理論」が10年前の90年代に発表された古いものであることを父に告げ、医師のすすめる全摘手術を早く受けるように言った。父は逡巡の末、全摘手術に同意したが、結局手術の失敗のために命をなくし病室から帰ることはなかった。結果論だが、もしも手術を拒否し「がんとの共存」を選択していたとすれば、あと2-3年は生存できたかも知れない。否、できなかったかもしれない。 続きを読む

TOBYO収録の乳がん闘病サイトが2,000件に

TOBYO’s

本日、TOBYO収録の乳がん闘病サイト件数は2,000件を越えた。これで2,000人の乳がん体験者の貴重なドキュメントを、誰でも、いつでも、どこからでも、即座にアクセスし、読むことができるようになった。この文字通り国内最大の乳がん体験データベースを、患者と家族をはじめ、様々な関係者の方々の活動にどうか活用していただきたい。

TOBYOプロジェクトは「ネット上の全ての闘病体験を可視化しアクセス可能にする」とのミッションのもとに、引き続き闘病体験データの構造化に取り組んでいきたい。すでにTOBYOは2万5千件を越える闘病ドキュメントを可視化しているが、ワイドでオープンなウェブの特徴を活かし、より利便性の高い闘病体験データベースへの進化を目指している。

その一つの取組みが、今年公開する新規サービス「dimensions」(ディメンションズ)である。昨年末に基本システムは完成し、現在、数百万ページのTOBYO検索インデックス・データを処理している。これによって闘病体験を薬品、医療機関、治療法などの各次元(ディメンションズ)にスライスし、次元ごとの固有名詞をキイとして、膨大なデータを効率的に利用出来るようになる。今までにないこの新しいツールによって、患者が体験した事実に基づく医療改善が可能になると期待している。

三宅 啓  INITIATIVE INC.

医療ITイノベーションと危機

IMS

二十年ほど前から、米国ではPLD(prescriber-level data)というビジネスが開始された。これは処方箋データを薬局から買い取りデータベース化し、さらに医師資格データをAMA(米国医師会)から買い取りデータベース化し、これら二つのデータベースを結び合わせた上で、新たにデータを生成し製薬会社などに販売するものだ。

最初にこのビジネスモデルを開発したのはIMS Health社で、このPLDデータを製薬会社、医療機器会社、行政などに販売し大きな利益を獲得した。特にPLDデータをマイニング処理することにより、従来得られなかった医療に関する新鮮な知見が得られるようになったことが大きい。たとえばインフルエンザのアウトブレイクやそれへの医師の対応状況の把握、あるいは製薬メーカーのマーケティングへの活用など、PLDの活用領域は非常に広いものがあった。

IMSは全米の処方箋の70%をデータベース化し、やがて彼らのデータベースは米国の患者動向や医療実態を十分に把握できる規模に達した。それに伴い売り上げは2007年には22億ドルになり、直近の時価総額は50億ドルといわれる。これは医療分野では異例の急成長ビジネスである。 続きを読む