病院「イメージマップ」登場 =病院を患者の言葉で可視化する=

癌研有明病院に関する患者の言葉を可視化する。クリックすると拡大。

この夏から、TOBYOでは患者の話題を可視化する「TOBYOがんCHART」を公開しています。これは「病院、薬、検査・治療、症状、生活」の各ジャンルで、がん患者の言葉に基づいて作成したランキング・チャートです。実際にがん患者がネット上で話題にしているトピックを、一切加工せず、多いもの順にそのまま提供しています。各トピックの検索結果画面では、各種フィルターによって、いっそう詳しい情報を探索することができます。

そして今回、新たなコンテンツ「病院イメージマップ」を追加しました。これは「全がんTOP20病院」についてのがん患者の言葉を、計量化し統計処理した上で図解したものです。言葉を計量化し統計処理することを「テキストマイニング」と呼んでいますが、この手法によって大量のテキストデータの傾向を手際よく把握することができます。また、言葉をノード、言葉と言葉を結ぶ辺をエッジと捉えると、テキストデータをノードとエッジからなるネットワーク・グラフで表すことができます。

日本医科大学病院に対する患者の言葉。クリックすると拡大。

今回公開した「病院イメージマップ」は、それぞれの病院に対する患者の言葉とその関係を数量化し、ネットワーク・グラフで可視化したものです。言葉は出現度数ごとに大きさを変えたノードで表現され、言葉と言葉の関係は曲線でエッジとして表現されています。曲線で結ばれた言葉は、結びつきの強い言葉であり、その強さはエッジの太さと明度で表現されています。また、ノードは同じ性質のものを統計的にグループ化し色をつけています。これらによって、その病院について実際に患者が語っている言葉を、ひと目で確認することができます。

まだネットワーク・グラフ出力はテスト段階であり、様々な出力を試しています。今後、精度を上げて一層見やすく、わかりやすいものにしていきたいと考えています。TOBYOプロジェクトではこのイメージマップのような「患者の言葉の可視化」など「患者言語の研究」に取り組んでいます。4万6千サイト、800万ページ、60億語という膨大な「闘病の言葉の宇宙」から、患者、家族、社会に役立つ情報を抽出し届けていきます。ご期待ください。

Health2.0の7年。

スコット・シュリーブが作成した「医療の再定義」のコンセプトチャート。

今になってHealth2.0のことを語ろうとすると、なんだか「死んだ子の歳を数える」ようなニュアンスがつきまとい、いささか躊躇さえしてしまう。それだけ時がたったということだろう。そしてその過ぎ去った時を振り返るのは、ちょっとしたセンチメンタル・ジャーニーになってしまう。

Health2.0は終わってしまった。まだ米国では毎年、「Health2.0」カンファレンスが開催されてはいるが、それはビジネスショウの単なるタイトルに過ぎない。それ以上のインパクトも輝きも持ち得ないのが現状である。

このブログでは、2007年の春頃からHealth2.0の動向をウォッチングしてきた。米国をはじめ世界で大きな注目を浴びたHealth2.0だが、どんなムーブメントにも例外なく拡大期もあれば衰退期もある。そろそろ「総括」をする時期だと思う。 「総括」といってもポイントを絞って、Health2.0が一体何を提起し、何を変えようとしたのか、そして結局それは実現したのか、について考えたい。

まず「Health2.0」の理論的な枠組みであるが、最初にそれを考案したのは、Health2.0最大のビジョナリーと言っても良いスコット・シュリーブ医師であった。彼のビジョンは、おおまかに言ってしまうと、エリック・レイモンドの「伽藍とバザール」、そしてポーター&テイスバーグの「医療の再定義」(邦題「医療戦略の本質」日経BP社)を結びつけたものだった。つまりオープンソース運動とマーケティングの2つの視座から、従来の医療を批判的に検討し、その上でこれまでとは違う「ケア・サイクル」に基づく新しい医療を創造しようとする、極めて野心的なものであった。そして当然、そのゴールは医療制度改革であった。 続きを読む

クチコミを隠蔽するパターナリズム(「ガラパゴス医療」批判序説)

英国NHSトラストのクチコミ評価サイト

パターナリズム(英: paternalism)とは、強い立場にある者が、弱い立場にある者の利益になるようにと、本人の意志に反して行動に介入・干渉することをいう。日本語では家父長主義、父権主義、温情主義などと訳される。語源はラテン語の pater(パテル、父)で、pattern(パターン)ではない。
社会生活のさまざまな局面において、こうした事例は観察されるが、とくに国家と個人の関係に即していうならば、パターナリズムとは、個人の利益を保護するためであるとして、国家が個人の生活に干渉し、あるいは、その自由・権利に制限を加えることを正当化する原理である。
( Wikipedia 「パターナリズム」)

先日のエントリで、クチコミ医療情報サービスについて基本的な考察をした。特に消費者・患者の病院や医師に対するネガティブ情報を排除・隠蔽するような「クチコミ・サービス」の問題を取り上げたのだが、それでは、これらの背景には一体何があるのだろう。一方でネガティブ情報を排除・隠蔽しながら、他方、自らを「クチコミ・メディア」であると主張すること自体、明らかに矛盾しているではないか。そのように矛盾しながらも、強弁せざるをえないのはなぜなのか。単純に考えられるのは、そこにビジネス上の必要というものがあるからだろう。

まず、ネガティブ情報を書かれた病院や医師からの苦情への対応、あるいは削除要求への処理などに要する人的時間的コストがばかにならないだろう。次に、たとえば製薬業界から広告やペイドパブを誘致するとして、「病院や医師から苦情の出るサイト」という風評が立てば、業界の保守的風土から見て、まず誘致は困難になる。

以上のようなビジネス上の問題が想定されるのだが、それだけではなく、そこにはあからさまに表面化されることのない、医療が抱える特殊な発想への迎合が見え隠れするように思う。それは端的に言ってパターナリズム(家父長主義)である。医療におけるパターナリズムについてWikipediaを引用しておこう。 続きを読む

進化する医療情報システム: PatientFusion

先月は、PHRの話題を久しぶりに取り上げたが、医療情報システムをめぐる状況は大きく変わりつつある。下のグラフはGoogleTrendで米国における検索ワードの推移を見たものだが、青線の患者ポータル(Patient Portal)の伸長が著しく、PHRを追い越しそうな勢いである。(赤:PHR、オレンジ:EHR)。この患者ポータルの登場によって、従来明確であったPHRやEHRという医療情報システムの区分が、揺らいできているとも言われている。PHRやEHRを区分する線上に位置するようなマージナルなシステム、それが患者ポータルなのである。境界線は溶け始めだしたのだ。

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患者による医療評価のイノベーション

Patient Assessment Index

「大型連休」とは言っても、当方なんだかんだと仕事を続け、結局、完璧に休んだのは二日だけだった。ここ数か月継続して取り組んできたPDRプロジェクトが、いよいよ最終局面に来たからだ。年初に始めたころはまさに暗中模索だったが、ここへきて視界は一気に開けてきている。開発コンセプト「患者の言葉を数量化する」を貫いてきたが、今から思い返してみても、結局この方法しかなかったのだと思う。そして最終的に「患者評価指標」というものにたどり着いた。これは今後のPDRプロジェクトにとって、決定的なアイデアであり、核心的な役割を担うことになると考えている。ネーミングは素直に”Patient Assessment Index”を「PAI」と略した。「パイ」と呼んでいただきたい。

前回エントリでも触れたように、患者は病院、薬剤、治療法、医療者などに対し、主として形容詞や形容動詞で自分の感想を表現している。たとえば薬剤Aに関連する形容詞・形容動詞だけを抽出し、その出現度数、出現確率、対象となる固有名詞との出現類似性等を計算すれば、それぞれの形容詞・形容動詞がどの程度強く薬剤Aと結びついているかを数値化できる。 続きを読む