国際薬剤疫学会でTOBYOが紹介されます

国際薬剤疫学会(ISPE)主催の第32回ICPE(国際薬剤疫学と危機管理会議)が今月25日からアイルランドの首都ダブリンで開催される。その最終日28日(日)、コンベンションセンター・ダブリン・オーディトリアムにおいて、日本から「Analysis of Patient Narratives in Disease Blog」と題する研究発表が実施されることが決まった。

このプレゼンテーションはTOBYOデータベースに蓄積された患者体験データに基づき、中外製薬のプロジェクトチーム「EpiMAX」の皆さんによって行われる。EpiMAXの皆さんは、TOBYOに蓄積された患者体験データがいわゆる「リアルワールドデータ」の一つであり、ファーマコビジランスに役立つ有用なデータであると考察されている。

率直に言って、このような視点は私達にとって意外ではあったが、従来の患者体験データ観に再定義をもたらす重要な示唆を含むものであった。従来、ともすれば「闘病記」という特殊性を重んじる観点、さらに「当事者性」を過度に評価する観点から、患者体験を論じる風潮が強かったのだが、今回、データそれ自体として闘病体験を分析し、ファーマコビジランスに活用する道が提起され、国際学会で研究報告されることはまさに画期的である。そして、それが日本から世界へ報告されるということも、たいへん誇らしいことである。

ここ数年、製薬業界を中心としてRWD(リアルワールドデータ)という言葉が語られる場面が多くなっている。これはレセプトやDPCのデータのように、データベースに蓄積された診療情報、診療報酬情報、特定健診情報、薬局調剤情報、介護保険など、実診療に関わるデータのことを指している。つまり従来の臨床試験や市販後調査ではなく、既に存在する「実世界」のデータを積極的に活用していこうとする機運がにわかに高まってきているわけだ。

もちろん、「リアルワールド」は一つのデータベースによってすべて網羅されるはずはなく、現存する様々なデータベースを相互に補完し、組み合わせ、その結果として全体像が構成されてくるものである。その意味でTOBYOの患者体験データは「リアルワールドデータ」を構成するものの一つであり、他のデータベースにリアルな患者体験データを付加する役割を期待されていると言えよう。

今回、国際学会で日本から新しいファーマコビジランスの取り組みが提起され、TOBYOが紹介されるのはたいへん光栄であり誇りに思う。

中外製薬EpiMAXの皆さんには深く感謝したい。

三宅 啓  INITIATIVE INC.

d2をファーマコビジランスに活かす

WEB-RADR

ヨーロッパのファーマコビジランス・プロジェクトWEB-RADR。

前回エントリが昨年11月だから、ずいぶんブログ更新が滞ってしまった。暮れ、正月はとっくに越し、すでに立春を過ぎたわけだが、2月というのに今日など異常な高温である。なんだか季節がハッキリしないのだが、とにかく当方は仕事を続けてきた。

昨年秋、患者ブログ調査プラットフォーム「d2」(ディーツー)をリリースしたが、まだ世の中に周知させる前から広く関心を頂戴し、成約もいただき、幸先良いスタートを切ることが出来た。関係者の皆さんに深く感謝している。

d2の用途と利用阻害要因

さて、いろいろな反応を頂戴する中で、最近とりわけ深く感銘を受けそして驚いたのが表題にある「ファーマコビジランス」である。d2開発の過程で、当然さまざまにユーザーの用途を想定していたのだが、このことだけは我々の盲点になっていた。否、正直に言えば、むしろd2のように患者の声を直接届けるサービスにとって、ファーマコビジランス、そして一般に有害事象(AE)報告関連にかかわる諸規制は、むしろ阻害要因になるのではないかと考えていた。

これまで製薬会社の方々からd2について、「d2で患者の声を直接聞きたいとは思うが、有害事象報告の件が・・・・」と言葉を濁されることがたびたびあった。それゆえに、有害事象関連情報を見ないですむような仕組みが必要かとも考え、実際にd2上のツールにそのような機能の実装を考えたり、あるいは他の方法で有害事象関連情報を回避することも検討した。 続きを読む

ワンストップ・プラットフォーム「d2」


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23andMe社が新薬開発へ進出

23andMe CEO and Founder Anne Wojcicki,Forbes

「製薬企業は消費者との直接の関係を持っていない。消費者はいつも被験者だった。彼ら消費者に参加してもらい、『あなたがこの研究に貢献し、あなたがこの研究を実現したのだ』と称揚することで、私達はこれまでと違うやり方でものごとを達成できるだろう。」 (23andMe社CEOアン・ウォイッキ氏,The Verge)

3月12日、米国23andMe社は新薬開発事業に進出することを発表した。23andMeといえば、かつてゼロ年代に台頭したHealth2.0ムーブメントから登場したスタートアップであり、Googleのグループ会社として、さらにはCEOのアン・ウォイッキ氏がGoogleファウンダーのセルゲイ・ブリン氏の妻であったことも手伝い、ひときわ大きな注目を浴びた企業だ。

99ドルで遺伝子解析キットを直接消費者に販売し、回収・解析の上、疾患罹患リスク予測や先祖推定などを提供するこのサービスは、はじめ順調に軌道に乗るかと思われたが、一昨年、米国FDAの解析キット販売停止勧告により、その前途は一挙に視界不良となった。(当ブログ「イノベーションと規制」参照)。「もう23andMeは終わりかもね」とさえ言われたが、今回の「転進」は、同社にとって起死回生の新戦略になる可能性がある。 続きを読む

TOBYO dimensionsの新バージョン

クリックで拡大。Analysisの「DATA」出力。

TOBYOプロジェクトのプロフェッショナル向け患者体験可視化システム「TOBYO dimensions」が、新しく再デビューします。

TOBYO dimensions」は、患者体験トラッキング・ツール「ディスティラー」と拡張検索エンジン「X-サーチ」からなる患者体験可視化システムとして、2011年からサービスを開始してきました。このプロジェクト自体が、まったくの未踏領域だったこともあり、これまで試行錯誤の連続でした。

振り返ると、これまでのdimensionsは、当初から検索エンジン技術に基礎を置いたシステムであったわけですが、昨年から、自然言語処理技術を新たにシステムのコアに位置づけようと、様々な試行を繰り返してきました。その途上で、袋小路に迷いこむような経験もしたわけですが、そのあたりは、このブログの昨年エントリを読んでもらえば、なんとなくご想像していただけることでしょう。

ちょうど一年前には「患者体験を典型的な文に収斂する」という目標を立てて、研究開発を進めていました。しかし、ウェブ上に公開された患者ドキュメントの性質をあらためて考えてみると、それらに表出された患者体験と感情は多様であり、何らかの「結論」へ収斂するようなものではないということに、改めて気づかされました。

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