高まる医療ゲーミフィケーションへの期待

先のエントリで製薬会社ベーリンガー・インゲルハイムの話題のゲーム「Syrum」を取り上げたが、最近、ゲーミフィケーションを医療のアプリやサービスの開発に導入する動きが活発化している。Syrumの場合、どちらかと言えば新薬開発のためのマーケティングを目的としていると考えられるが、もとよりゲームは、消費者あるいは患者が楽しく遊びながら自らのエンゲージメントやモチベーションを高め、生活習慣を自然に変えることができる優れた方法である。

たとえば運動習慣を生活に取り入れようとジョギングを始める人は多い。でもなかなか日々の習慣にするまでには至らず、挫折する人も多いのではないだろうか。こんな人には“Zombies Run !”だ。”Zombies Run !”は、ただ走るのではなく「ゾンビ集団から逃げる」という緊迫した状況設定を日々のジョギングに付与し、さらに「街づくり」など達成感のあるゲームストーリーにプレイヤーを巻き込んでいくスマホ・アプリだ。いわばリアルのランニングとヴァーチャルのゲームを一体化して、プレイヤーのランニング・モチベーションを高めるエンターテインメントに仕上がっている。これと似たようなゲーム性のあるジョギング・アプリとしては“Superbetter”も人気がある。 続きを読む

Twitter上の「医師の声」をリスニングするMDigitalLife

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私たちのTOBYOプロジェクトは「ネット上のすべての患者体験を可視化し検索可能にする」とのミッションのもとに、主として闘病ブログなどで公開された「患者の声」を幅広く収集し、様々な人々に届けようと努力してきた。これと同様の発想で、「ネット上に公開された医師の声を集める」というプロジェクトがあっても良さそうだと思っていた。それが最近になって、どうやら米国で始まりそうだ。

昨年、Katherine Chretien医師 を中心とするグループが、Twitter上の医師の声を収集分析した調査報告書「Physicians on Twitter」をJAMAに発表し話題になった。この調査において、Chretien医師はTwitter上で医師が配信したと思われるTweetを収集した上で、523人の医師と推定されるユーザーを特定し、さらに最終的にそれを260人まで絞りこみ、それぞれ一人当たり20件ずつTweetを選び出し、最終的に全部で5,156件のTweetを分析した。ずいぶん手間のかかる調査方法である。

Twitterのようなソーシャルメディアを医師が利用することについては、従来から、医師が患者の情報をもらしたり、差別発言など不適切な発言をするのではと問題視されてきた。しかしこの調査報告によれば、それら問題となるTweetは全体の3%に過ぎなかった。この調査報告書の登場によって、米国医療界ではにわかに「Twitterを利用したオープンな医師の声の共有」という考え方や、「Twitterを医師調査プラットフォームに利用する」というアイデアのリアリティと受容性が高まったと言われている。 続きを読む

The Voice Of The Patients “Treato”


今のところ私たちのTOBYOプロジェクトの唯一のライバルであり、私たちとほぼ同じ方向感覚で、患者の声に基づく新しいサービスを開発してきたイスラエルのFirstLifeResearch社のことは、すでにこれまで何度かこのブログでも取り上げてきた。その後、社名変更したらしく、患者の声による医薬品評価サイト“Treato” をそのまま社名に使用している。

そのTreato社がここへ来てにわかに脚光を浴び始めている。まず8月にWorldOne社とのパートナーシップ契約 を発表した。WorldOneとは、Sermoを買収したあのグローバル医療リサーチ会社の”WorldOne”である。WorldOneは昨年から医薬品業界向けのリサーチ・プラットフォーム“MedLive” を起ち上げているが、これにTreatoが保有する患者体験と患者知覚に関するデータを統合することをめざしている。つまり医薬品に対する医療者の評価に患者の評価を合わせ、総合的な医薬品評価データを提供しようというわけだ。

そして今月、Treatoはプロフェッショナル向けの患者リスニング・サービス“Treato Pharma”をローンチしている。まだ詳しい中身はわからないが、サイトのデモを見る限りなかなか興味深いサービスだ。というか、これらは私たちがTOBYOプロジェクトでめざしていることとほとんど同じだ。私たちのTOBYOプロジェクトは、TOBYOを起点として、プロフェッショナル向けのdimensions、コンシューマー向けのCHART、V-SEARCHおよびそれらのAPIという順序で「患者の声」をさまざまな人の手に届けようとしてきたのだが、Treatoは消費者向けサービスから出発して、今回プロフェッショナル向けサービスを起ち上げ、さらにおそらくAPIを介してWorldOneなど他サイトへのデータ供与も開始しようとしている。 続きを読む

ゲームで新薬開発!BIの”Syrum”発進。

先月、製薬会社のBI(ベーリンガー・インゲルハイム)がFacebook上で動くソーシャルゲーム“Syrum”を公開し、欧米では大変な話題となっている。現在”Syrum”はヨーロッパのFacebookユーザーだけに公開されているようだが、わざわざアメリカからヨーロッパへ”Syrum”をプレーしに行った人もいるようだ。

製薬会社のゲームはこれまでにもたくさんリリースされていたが、”Syrum”が話題になっているのはその題材ゆえである。

同社によれば『Syrum』は製薬会社による初の「薬作りゲーム」とのこと。ユーザーは製薬会社に所属する研究者となり、次々と発生する様々な世界的伝染病と戦うため研究を行い新薬を開発して患者に配り、自分の製薬会社を成長させていく。また薬を開発しやすくするため、Facebook上の友達と合成物を交換し合うソーシャル要素もあるという。
「ドイツの製薬会社、フェイスブックにて新薬開発のソーシャルゲーム『Syrum』をリリース」,GameBusiness.JP)

このゲームを開発した意図として、BIの担当者は「製薬会社が、新薬開発でどれだけの時間、資金、知識を投入しているかを知ってほしい」と社会的な理解形成をめざす広報および教育をあげている。だが欧米の製薬マーケティング業界の一部では、このゲームが単なる広報・教育のために作られたものではなく、新手のゲーミフィケーションのリサーチツールではないかと指摘する向きもある。 続きを読む