ゲームで新薬開発!BIの”Syrum”発進。

先月、製薬会社のBI(ベーリンガー・インゲルハイム)がFacebook上で動くソーシャルゲーム“Syrum”を公開し、欧米では大変な話題となっている。現在”Syrum”はヨーロッパのFacebookユーザーだけに公開されているようだが、わざわざアメリカからヨーロッパへ”Syrum”をプレーしに行った人もいるようだ。

製薬会社のゲームはこれまでにもたくさんリリースされていたが、”Syrum”が話題になっているのはその題材ゆえである。

同社によれば『Syrum』は製薬会社による初の「薬作りゲーム」とのこと。ユーザーは製薬会社に所属する研究者となり、次々と発生する様々な世界的伝染病と戦うため研究を行い新薬を開発して患者に配り、自分の製薬会社を成長させていく。また薬を開発しやすくするため、Facebook上の友達と合成物を交換し合うソーシャル要素もあるという。
「ドイツの製薬会社、フェイスブックにて新薬開発のソーシャルゲーム『Syrum』をリリース」,GameBusiness.JP)

このゲームを開発した意図として、BIの担当者は「製薬会社が、新薬開発でどれだけの時間、資金、知識を投入しているかを知ってほしい」と社会的な理解形成をめざす広報および教育をあげている。だが欧米の製薬マーケティング業界の一部では、このゲームが単なる広報・教育のために作られたものではなく、新手のゲーミフィケーションのリサーチツールではないかと指摘する向きもある。

まずFacebook上のゲームであるから、登録ゲームプレイヤーの個人情報は筒抜けであり、被験者属性を細かく特定することができる。さらにBIは、このゲームを「どの分野の、どんな新薬を開発すればよいか」など製品開発アイデアを集める、一種のクラウドソーシング・ツールとして利用しようとしているのではないかとも言われている。つまり「消費者の集合知」へアクセスする手法として、ゲームほど自然に消費者の関与を引き出すリサーチツールはないというわけだ。

近頃、欧米の主要製薬企業は、これまでのプロプライエタリな新薬開発や特許・知財戦略を大幅に変更しようとしているらしい。「オープンデータ」とか「クラウドソーシング」、果ては「特許ではなくCreative Commonsだ」などという言説が、欧米の製薬業界で頻繁に使われているのを見ると思わず我が目を疑う。

「クラウドソーシング、マスコラボレーションで新薬開発」という主張は「ウィキノミクス マスコラボレーションによる開発・生産の世紀へ 」などですでに数年前からあったが、ようやく実践段階に来たようだ。どうやら「オープンソースの風」が製薬業界にも吹き始めだしたようだ。”Syrum”はその一端を象徴するものだが、同時多発で様々な動きが欧米の製薬業界で始まっている。このブログでは、これからそのいくつかの事例を紹介していきたい。

ところで「オープンソースとしての医療」という考え方は、本来のHealth2.0の世界観であるはずだが、いつのまにやら特にここ日本ではすっかり忘却されてしまった。製薬業界のこれらの新しい動きともシンクロして、Health2.0をもう一度日本でやり直さなければならないと思う。もっとオープンに、もっと技術にリスペクトを払い、もっとビジョンドリブンに。

三宅 啓  INITIATIVE INC.


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