EHRを各種ソリューションのプラットフォームへ


厳寒のせいだろう、新宿御苑の梅はまだ硬い蕾で例年よりも開花は遅れている。

前回エントリでEHRの新たな可能性について触れたが、これに関連し、他にもさまざまな方向からのアプローチがあることがその後わかってきた。その中の一つは、EHR上に医療情報サービスの統合プラットフォームを提供しようとするもの。そして今一つは、それぞれのEHRの仕様の違いを越えて患者データをアグリゲートするものである。

上に掲出したCMのDr.Firstは前者のサービスである。もともとこの会社はEHRベンダー各社に対し電子処方箋サービスを提供してきたが、今日ではより広くEHRをプラットフォームとした各種ソリューションの提供をめざしている。たとえば薬剤コンプライアンス・プログラム、患者教育プログラム、薬剤共同購入ディスカウント・サービス、さらには患者の薬歴を集約し医療機関や検査ラボに提供するサービスなどである。 続きを読む

EHRは医薬品情報配信の新たなチャネルになるのか?

このブログではEHRの話題はずいぶんご無沙汰だったが、オバマ政権誕生以来、米国では政府の強力な導入促進政策が功を奏して、EHRは急速に全米の医療機関に導入されつつある。

ところで普通EHRというと、これまで診療記録など、各種医療情報記録のためのデータベースということが主たる利用イメージであった。しかしEHRの普及が進むに連れ、せっかくほとんどの診療現場がEHRで結びつけられようとしているのだから、単なる記録用データベース以上の使い方をしても良いのではないか、という声が昨春あたりから起き、新しい模索が始まったのである。現在、政府FDA、製薬企業、EHRベンダー、ペイヤー、医療情報サービス企業などが、これら新しいEHR利用の研究に乗り出している。従来、EHRとはほとんど縁のなかった製薬企業などが関心を示し始めたのだ。

EHRの新しい用途として考えられているのは、診療現場へダイレクトに情報を配信する情報チャネルとしてEHRを利用しようというものだ。たとえば、FDAの各種規制情報や医薬品副作用情報の配信、製薬企業の医薬品情報配信やマーケティング・チャネルなどへの利用が検討されている。 続きを読む

夏、EHR、そしてTOBYO

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先週、梅雨明け。三連休。墓参、読書、音楽。いきなりの酷暑。蝉、鳴き始める。いよいよ本格的な夏。

先週、7月13日、米国政府はEHR導入促進プログラム”HITEC Act”の「意義ある利用」ルールのファイナル・バージョンを公開した。同時にONC(The Office of the National Coordinator for Health Information Technology)のデビッド・ブルーメンソール局長は、同日付“The New England Journal of Medicine”にこのファイナル・バージョン要約と解説を発表している。昨年来、米国医療IT業界を震撼させたこの「意義ある利用」問題にも、やっと一応の決着がつけられたことになる。

一方、日本のこれまでの医療情報化議論というもの振り返ると、総じて「極めて低調であった」としか言いようがない。例によって何度も役所主導の「検討会」が編成されたはずだが、何一つ社会的コンセンサス形成を果たした形跡はない。おそらくアジェンダ設定に問題があったのだろう。

やはり先週、TOBYOの収録サイト数は2万2千サイトに達した。最近の闘病ユニバースだが、ウェブ上で闘病体験を公開しようというユーザーの意欲は今年に入ってますます高まっているような気がする。当初、その規模をおよそ三万サイトと推定した闘病ユニバースだが、その後、規模は膨張していると見て間違いないだろう。ブログで自分の闘病体験を社会的に公開することは広く定着してきている。またツイッターで体験を公開する闘病者も増えているが、これらをTOBYOプロジェクトでどう扱うかは今後の課題である。 続きを読む

医療情報システムと消費者・患者参加

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米国政府は医療IT化刺激策“HITECH Act”で病院のEHR導入を促進しようとしているが、最近これに関連する広報活動について、PR代理店Ketchumと二年間で2,600万ドルの契約を結んだ。昨年来、”HITECH Act”やEHRの「意義ある利用」について、政府や医療IT業界で盛んに議論が行われてきたのだが、一方では、これら議論から消費者や患者がほとんど除外されていることが問題視されるようになってきている。各種調査を見ても、消費者や患者の医療IT導入問題に対する認知や関心はかなり低いことがあきらかにされている。今回の契約は、このような現状に対する広報活動の必要性が認識されたためだとされている。

先月ワシントンDCで開かれたHealth2.0コンファレンスにおいても、いくつかの患者支援団体から、政府の医療IT導入計画に消費者・患者が参加することの必要性が強く指摘されたようである。これら「消費者、患者の不在」という批判は、従来から医療機関で進められてきたEMRやEHRの導入にも向けられはじめている。これまでこれらシステム導入の計画段階で患者視点が盛り込まれることはなく、また出来上がった医療情報システムから患者向けサービスが提供されることもほとんどなかったわけだ。 続きを読む

政府の「どこでもMY病院」構想とは?

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先のエントリでマイクロソフト社のPHR「HealthVault」の国際戦略を取り上げたが、国内では去る5月11日、政府の高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部(IT戦略本部)の「新たな情報通信技術戦略」において「どこでもMY病院」構想が、続いて6月22日にはその「工程表」が発表されている。

この1年を振り返ると、政権交代によってIT戦略本部の取り組み方に微妙な変化がある。昨年6月30日発表の「i-Japan 戦略 2015」(IT 戦略の今後の在り方に関する専門調査会)では「三大重点分野」を次のように提起していた。

①電子政府・電子自治体分野
②医療・健康分野
③教育・人財分野

これに対し、今回の「新たな情報通信技術戦略」における重点分野は「3つの柱と目標」として次のように変えられている。

1.国民本位の電子行政の実現
2.地域の絆の再生
3.新市場の創出と国際展開

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