政府の「どこでもMY病院」構想とは?

dokodemo_byoin

先のエントリでマイクロソフト社のPHR「HealthVault」の国際戦略を取り上げたが、国内では去る5月11日、政府の高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部(IT戦略本部)の「新たな情報通信技術戦略」において「どこでもMY病院」構想が、続いて6月22日にはその「工程表」が発表されている。

この1年を振り返ると、政権交代によってIT戦略本部の取り組み方に微妙な変化がある。昨年6月30日発表の「i-Japan 戦略 2015」(IT 戦略の今後の在り方に関する専門調査会)では「三大重点分野」を次のように提起していた。

①電子政府・電子自治体分野
②医療・健康分野
③教育・人財分野

これに対し、今回の「新たな情報通信技術戦略」における重点分野は「3つの柱と目標」として次のように変えられている。

1.国民本位の電子行政の実現
2.地域の絆の再生
3.新市場の創出と国際展開

比較すると前年の「医療・健康分野、教育・人財分野」が「地域の絆の再生」にまとめられ、新たに「新市場の創出と国際展開」が追加されている。医療は継続して重点分野に指定されているのだが、「i-Japan 戦略 2015」で打ち出された「日本版 EHR(仮称)の実現」が今回「新たな情報通信技術戦略」では「どこでもMY病院」構想に姿を変えている。前年「日本版 EHR(仮称)の実現」は、PHRとEHRの誤解の産物みたいな中途半端なものであったが、そのあたりがやや整理されたわけだ。しかしこれらを見ていると、「EMR、EHR、PHR」など、今日の基幹的な医療情報システムの基本概念理解が、日本の専門家の間で大幅に遅れているのではないかと危惧する。これら基本概念にかかわる理解形成の遅滞が、日本の医療IT行政計画に相当の混乱を及ぼしていると思える。

さて「どこでもMY病院」構想だが、次のような説明が付されている。

全国どこでも自らの医療・健康情報を電子的に管理・活用することを可能にする「どこでもMY病院」構想を実現することとし、遅くとも 2013 年までにその一部サービス(調剤情報管理等)を開始する。このため、2010 年度中に、診療明細書及び調剤情報の電子化方策や、こでもMY病院」構想を実現する上での運営主体、診療情報・健康情報等の帰属・取扱い等について結論を得る。また、本構想の実現に当たり、救急医療体制の強化にも資するよう検討する。
【内閣官房、総務省、厚生労働省、経済産業省等】
(前掲「新たな情報通信技術戦略」)

これを読む限り、一体これがEHRなのかPHRなのか定かではないのだが、他の記述なども加味すると、どうやらこの「どこでもMY病院」構想なるものはPHRを指しているようだ。たしかに「工程表」を隅から隅まで眺めてみると、「枠組み構築-実証事業」欄に小さくPHRの文言も見える。これら控えめなPHRの記述は、前年打ち出した「日本版EHR」との整合性を図るためなのかどうか不明だが、先ほど指摘した基本概念の理解形成という点において、このような中途半端であいまいな用語の扱い方は問題がある。

どのような医療IT行政計画であれ、EHRやPHRなど基本概念の社会的理解形成が前提であるにもかかわらず、それを「どこでもMY病院」などと、一見わかりやすそうで実際のところさっぱりわけのわからぬ文言を使用することが、結局、将来に禍根を残すことになりはしまいか。国民に対し正面から堂々と、今日のPHRの基本概念とその世界的動向、およびなぜそれが必要でどのようなメリットがあるかを、クリアに説明すべきである。

三宅 啓  INITIATIVE INC.


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