ファイザーがWebヴァーチャル治験を開始

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YouTube:マイトラス社「ヴァーチャル治験」ビデオ

製薬会社のファイザーは、ウェブとモバイル機器をベースに家庭で手軽に参加できる「ヴァーチャル治験」の実験を発表した。

これは、すでに2007年に伝統的手法を使って実施された過活動膀胱の薬品”Detrol”の治験を、今回あらためて全く新しい「ヴァーチャル治験」スタイルで実施し、その結果を比較しようというものだ。この「ヴァーチャル治験」にはマイトラス社のシステムが使用される。

ファイザーによれば、これまで伝統的治験のネックとされてきた時間的コスト、実施運用コストを大幅に下げることが可能という。また、消費者側から見れば家庭でいながらにして治験参加できるし、これまで参加を阻んでいた地理的、時間的制約など各種障害が取り払われる。これは治験参加対象者の拡大につながる。

これらを見て思いついたのは、たとえば「治験コミュニティ」のような、治験を軸とする新しい患者コミュニティである。単に人的交流サービスだけでない、新しいスタイルの患者コミュニティ、あるいは医療リサーチ・コミュニティのヒントがこのあたりにあるような気がする。

三宅 啓  INITIATIVE INC.

いよいよ7月4日から、dimensionsサービス開始

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紫陽花もそろそろ盛りを過ぎた。もう来週から7月だ。今年も半分が終わろうとしている。年明けから、初の闘病体験リスニング・ツール「dimensions」開発の最終段階の仕上げにとりかかってきたが、いくつか技術的な難問に直面しながらもなんとかこれらを乗り越え、やっとようやく来月からのサービスインが見えてきた。

この半年間に、リサーチ・イノベーションやソーシャル・リスニングなどの考察を通じ、dimensionsという、この全く新しいツールの今日的意義や果たすべき役割などについて、理論的基礎固めができたと思う。またTOBYO本体も可視化領域は約2万9千サイトに達し、当初の目標であった3万サイト可視化まであと少しのところまで来た。言うまでもなく、TOBYOの可視化領域の広さが、dimensionsのツール・パワーの源泉なのである。

今日は日曜日だが、最終段階に来たdimensions開発ミーティングを実施。7月4日(月)からのサービスイン開始を確認した。これにともない、4月からさまざまな方々にモニターしてもらっていたdimensionsデモバーションは、7月1日をもってテスト終了となる。

今後dimennsionsは、主として医療関連分野の企業ニーズに応えながら、さらに新規サービス領域の共同開発、応用分野の研究プロジェクトなど多方面の多様なニーズに対応し、できるだけオープンにコラボレーションする機会を作っていきたいと考えている。

三宅 啓  INITIATIVE INC.

講演会と新たな気づき

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昨日「医療の未来を考える会」のお招きにあずかり、「闘病体験の共有と傾聴」というテーマでおはなしをした。日曜午後という一週間で一番のんびりした時間帯にもかかわらず、たくさんの方々にお集まりいただいた。感謝。

会のメインテーマに「Health2.0で医療が変わる」とあったので、冒頭、駆け足でHealth2.0の概要を説明した。できるだけ手短に要約しようと今回あらためて考察してみたが、結局、Health2.0の原点は「伽藍とバザール」(1997)と「Cluetrain Manifesto」(1999)に行き着いてしまうと確認した次第。

エリック・レイモンドのオープンソースをめぐる古典的名作である「伽藍とバザール」を、スコット・シュリーブは第一回Health2.0カンファランス(2007)掉尾を飾るスピーチで引用している。伽藍的な知と技術の体系としての医療に対し、スコット・シュリーブは来るべきバザール型医療をビジョンとして提起したわけだ。ここから”User Generated Healthcare”や”Participatory Medicine”などのスローガンを導き出すのは容易だが、この「伽藍とバザール」という対比ほど明確にHealth2.0のビジョンを語る言葉はないと思う。

昨日もお話したが、「知の秩序・枠組みの変換期」という時代認識なしに、単にソーシャルメディア周辺のトピックスでお茶をにごすようなHealth2.0論では、本当に「医療を変える」ことなどできるわけもない。では医療は伽藍からバザールへ実際に移行するのかといえば、そんなに簡単には行かないだろう。おそらく巨大な変革モメンタムを必要とするに違いない。だが、医療を取り巻く状況は確実に動き始めている。
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アダム・ボズワース、「Google Healthの失敗」を語る


プロジェクト凍結の可能性が強いGoogleHealthだが、この件について、なんと元の開発責任者だったあのアダム・ボズワースがインタビューに応じている。思えば2007年夏の終り頃だったか、突然、アダム・ボズワースはGoogleを去ったのだった。その直前にはNew York Timesの求めに応じ、初めてGoogleHealthの全貌を紹介していただけに、なんとも唐突感を否めなかった。

シリコンバレーでもカリスマ・プログラマと一目置かれているアダム・ボズワースだけに、彼がGoogleHelthプロジェクトを去った衝撃は大きかった。それから半年が経った翌2008年春、GoogleHealthはエリック・シュミットCEOによって大々的に紹介されたが、期待が大きかっただけに、その失望もまた小さくなかったのだ。それは、目新しい新機軸が何も見当たらない「フツウのPHR」だったからだ。

なぜ、あの時アダム・ボズワースはGoogleを去ったのか、いまだに謎だが、その後彼が公開したkeas、そしてこのインタビューなどを見ると、なんとなく彼がGoogleHealthに飽きたりなかった理由がわかるような気もする。

「彼ら(Google)は基本的にデータをストアする場所を提供した。われわれの資料によれば、人々はデータを保存する場所自体を望んでいるわけではない。人々は何か面白いもの、魅力のあるものを求めている。Google Healthは面白くないし、ソーシャルでもない。なぜそんなものを、人々がしようとするだろうか?」(アダム・ボズワース)

三宅 啓  INITIATIVE INC.

PHRと消費者ニーズ


この前のエントリでも触れたが、GoogleHealthはどうやらプロジェクト凍結が決定されたようだ。Google自身の公式発表はないものの、プロジェクト離脱者の証言などからそう考えて間違いなさそうだ。しかし3年前、あれほど華々しくエリック・シュミットみずから全世界に発表したこともあってか、いきなり中止するわけにもいかないのだろう。ここは「生かさず、殺さず」、徐々にフェードアウトさせていくのだろうが、何かやり方が日本的だ。

凍結の理由は、ユーザーを獲得できなかったことにつきる。

これをめぐって米国ではさまざまに議論されているが、その主たるものは次の三点だ。

  1. 患者・消費者は、自分の医療情報を預けるほどGoogleHealthなどPHRを信用していない。
  2. PHRやPHP(Personal Health Platform)などは、患者・消費者が欲しいと考えているサービス、たとえば診療予約だとか処方箋レフィル請求などのサービスを提供すれば、いずれ市場を支配するだろう。
  3. PHRやPHP等、何と呼んでもよいのだが、とにかくそれらに関心を示すのは人生を変えるほどの病気と闘っている人々だけだ。

まず1の意見だが、Googleのようなメジャーブランドがきちんとした説明をすれば、信用を得ることはそんなにむつかしいことではない。一方、2と3については、PHRをはじめ医療情報サービスに対する患者・消費者ニーズをどう洞察するかという、非常に大切な問題を含んでいる。 続きを読む