高まる医療ゲーミフィケーションへの期待

先のエントリで製薬会社ベーリンガー・インゲルハイムの話題のゲーム「Syrum」を取り上げたが、最近、ゲーミフィケーションを医療のアプリやサービスの開発に導入する動きが活発化している。Syrumの場合、どちらかと言えば新薬開発のためのマーケティングを目的としていると考えられるが、もとよりゲームは、消費者あるいは患者が楽しく遊びながら自らのエンゲージメントやモチベーションを高め、生活習慣を自然に変えることができる優れた方法である。

たとえば運動習慣を生活に取り入れようとジョギングを始める人は多い。でもなかなか日々の習慣にするまでには至らず、挫折する人も多いのではないだろうか。こんな人には“Zombies Run !”だ。”Zombies Run !”は、ただ走るのではなく「ゾンビ集団から逃げる」という緊迫した状況設定を日々のジョギングに付与し、さらに「街づくり」など達成感のあるゲームストーリーにプレイヤーを巻き込んでいくスマホ・アプリだ。いわばリアルのランニングとヴァーチャルのゲームを一体化して、プレイヤーのランニング・モチベーションを高めるエンターテインメントに仕上がっている。これと似たようなゲーム性のあるジョギング・アプリとしては“Superbetter”も人気がある。

これらよりもう少し医療寄りのゲーム・アプリとしては、アルツハイマー病の予防を目指した“BrainApp”が話題になっている。YouTube Preview Imageオーストラリアのアルツハイマー病協会“Your Brain Matter” と医療NPO“Bupa” が共同開発したこの”BrainyApp”は、個々の生活習慣やゲーム結果からアルツハイマー病にかかる可能性を予測したり、疾患予防のための生活習慣改善を啓発するゲーム・アプリである。これまで「疾患啓発」といえば、テキストやイラストやビデオで医療情報を一方的に伝えるというやり方が一般的であった。これらは一方的に消費者に医療情報を「学習させる」ことを強いるものであった。これに対しゲームは、人々が楽しく遊びながら自然に医療情報を学ぶことができる。ゲームに参加する中で、ひとりでに自らのエンゲージメントやモチベーションを高めることができるのである。どちらが優れた方法であるかは論を待たないだろう。

今後、たとえば製薬会社のD2C疾患啓発活動や、医療行政の疾患予防キャンペーン、あるいは医療機関の患者エンゲージメント強化活動などにゲーム・アプリがどんどん積極的に取り入れられるのは間違いない。また、これまで日本ではウェブ医療ベンチャー企業の登場が圧倒的に少なかったのだが、これからはこれら医療ゲーム市場に挑戦するベンチャー企業が増えるのではないだろうか。これまでにない新しい医療IT市場が生成されることを強く期待したい。

三宅 啓  INITIATIVE INC.


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