「大型連休」とは言っても、当方なんだかんだと仕事を続け、結局、完璧に休んだのは二日だけだった。ここ数か月継続して取り組んできたPDRプロジェクトが、いよいよ最終局面に来たからだ。年初に始めたころはまさに暗中模索だったが、ここへきて視界は一気に開けてきている。開発コンセプト「患者の言葉を数量化する」を貫いてきたが、今から思い返してみても、結局この方法しかなかったのだと思う。そして最終的に「患者評価指標」というものにたどり着いた。これは今後のPDRプロジェクトにとって、決定的なアイデアであり、核心的な役割を担うことになると考えている。ネーミングは素直に”Patient Assessment Index”を「PAI」と略した。「パイ」と呼んでいただきたい。
前回エントリでも触れたように、患者は病院、薬剤、治療法、医療者などに対し、主として形容詞や形容動詞で自分の感想を表現している。たとえば薬剤Aに関連する形容詞・形容動詞だけを抽出し、その出現度数、出現確率、対象となる固有名詞との出現類似性等を計算すれば、それぞれの形容詞・形容動詞がどの程度強く薬剤Aと結びついているかを数値化できる。
次に薬剤Aに関連する評価ワード(形容詞・形容動詞)を関連度の強い順番で、100語ほどリスト化する。リスト化された薬剤A評価ワードを、ポジティブ、ネガティブ、ニュートラルに機械で自動分類し、自動算出したそれぞれのワードの関連度係数(Jaccard係数)に、ポジティブ・ワードはプラス、ネガティブ・ワードにはマイナス、ニュートラル・ワードにはゼロの値を与える。こうして得られたすべての評価ワードの関連度係数を足し上げると、その総和が「薬剤Aの患者評価指標」となる。つまり、関連する形容詞・形容動詞それぞれを数値化することによって、薬剤Aについての評価を一つの数値で指標化することができる。「薬剤Aの患者評価指標は-0.02。薬剤Bの患者評価指標は-0.03。」というように。このようにして、あらゆる薬剤、医療機関、治療法、医療機器、医療機器などを、患者の言葉を数値化することによってPAI(患者評価指標)を算出し、数値で評価することができるようになった。大げさではなく、これは医療評価におけるイノベーションだ。日が経つにつれ、ますます確信は深まっている。
そして前回エントリでも述べたが、私たちの患者意思決定モデルでは「感情エンジン」(情緒、満足、好悪)が大きな役割を担っている。これまで述べてきた評価ワードも、実はこの「感情エンジン」によって生成されるものである。そこでPAIのサブセットとして「情緒、満足、好悪」カテゴリーからなる「感情エンジン・チャート」を合わせて出力する予定である。これによって、一層多面的に、薬剤や病院に対する患者評価を明らかにできると考えている。
「言葉を数値化する」というと、何か違和感がある向きもあるだろう。しかし、これまで過去に延々実施されてきたアンケート調査のようなレガシー調査も、実は消費者の言葉を数値化するための一つの手法であったといえよう。つまりこれらレガシー調査は、最初から「いかに効率的に患者の考えや言葉を数値化するか」を意図して設計されていたはずだ。それに対し闘病ブログのようなドキュメントは、無論、「数値化の意図」など誰も考えるはずもなく生成されている。だが、調査票のような整理された合理的な形式ではないとしても、闘病ドキュメントにも、病院や医療者や薬剤に対する評価ワードはしっかり記載されているのである。ただ、それらを扱いやすい形で抽出する方法が、これまでなかったのである。
ほとんどの人は、「物語」として闘病ドキュメントを読んできたのであり、それらが貴重で有用な「データ」であることに気づいていなかった。従来の「本の闘病記」の延長線上で闘病ブログを見ていたのであり、それがまさにネット的な現象であり、既にデジタル化されたデータであるという事実を見過ごしていた。つまりほとんどの人は、ネット上の闘病ドキュメントの価値を過小評価していたのである。だからそこに「イノベーション」の余地があったのだ。
三宅 啓 INITIATIVE INC.
感情と数量化がどう結びつくのかと思っていましたが、なるほど謎が解けました。すごいことを考えたものですね。(これは全てポジティブワードです)