進化する医療情報システム: PatientFusion

先月は、PHRの話題を久しぶりに取り上げたが、医療情報システムをめぐる状況は大きく変わりつつある。下のグラフはGoogleTrendで米国における検索ワードの推移を見たものだが、青線の患者ポータル(Patient Portal)の伸長が著しく、PHRを追い越しそうな勢いである。(赤:PHR、オレンジ:EHR)。この患者ポータルの登場によって、従来明確であったPHRやEHRという医療情報システムの区分が、揺らいできているとも言われている。PHRやEHRを区分する線上に位置するようなマージナルなシステム、それが患者ポータルなのである。境界線は溶け始めだしたのだ。


昔、ドイツなどヨーロッパのPHRを調べていて、それがEHRと表裏一体の関係にあることに気づいた。「EHRから消費者向けの閲覧ページを作成すれば、PHRになるのでは・・・・・・」と考えたわけだが、それが患者ポータルという独自の形態へ進化してきたわけである。つまり、まず医療機関のEHRのデータを患者向けに編集し、新たに診察予約、処方箋リフィル発行、医療者とのコミュニケーションなどを機能付加してできあがったものが患者ポータルであり、病院ウェブサイトに併設される。

だがこれだけではない。Intuit Healthやマイクロソフト社のHealth VaultなどはPHRとなっているが、実は医療情報の標準プロトコルであるCCRを介して、医療機関のEHRと交信し、患者に自分の医療情報を見せている。これは、ある意味でPHRをベースにした患者ポータルと見ることもできる。そして最近、増えてきているのが、単独サイトで、主に複数の診療クリニックへサービスを提供する患者ポータル・プロバイダーである。WEBeDoctorなどがあるが、最近、最も注目されているのはPatientFusionである。

実はこれを患者ポータルと呼ぶべきかどうか、少し躊躇するのだが、どうやらこのPatientFusionが、非常に強力な医療情報ビジネスになるのは間違いなさそうだ。PatientFusionは、無料EMRサービスで大成功した、あのPracticeFusionが今春ローンチした新サービスである。医師検索、診療予約、患者による医師評価、そしてPracticeFusionのEMRにある自分の医療情報へのアクセスと、ZOCDOCと患者ポータルのハイブリッド版とでもいうべきスタイルになっている。このシステムを支えるバックボーンは、現在、全米15万人の医師が使っている、クラウド・ベースの無料EMRに蓄積された診療データであり、すでに6000万人の患者データがあるといわれる。登録ユーザーは、システムに蓄積された自分の医療データを使って、どこの登録医師にも診察してもらえるから、自分の医療情報を一箇所に集約するPHRと同じようなメリットがあるわけだ。また、医師評価レビューも、実際にその医師に診察してもらった患者だけが評価するから、他の医師レビューよりも、より確かな評価情報であると見られている。

ベストセラー「FREE」の中で、クリス・アンダーソンはPracticeFusionを取り上げ、かつてティム・オライリーが”What is Web2.0”で述べた「Data is Next “Intel Inside”」を引用し、医療情報サービスにおけるデータの重要性を強調していたが、後継サービスPatientFusionもまた、実は医療データ収集のための強力なツールなのである。データが集まると、提供するサービスのレパートリーは広がり、質も上がる。そしてサービスのレパートリーと質が、さらにデータを集めるのである。

このように見てくると、医療情報システムはさまざまな淘汰・競争・分科を経て、非常に早いスピードで進化していると思える。だから、いつまでもPHRにこだわる必要はない。PHRよりも患者ポータルのほうが、はるかに簡便に作れそうである。日本の大病院にはほとんどEHRが導入済みであるから、蓄積されたデータを患者向けにアレンジし、その上に診療予約などの機能を付加すれば、病院ウェブサイト上に簡単に患者ポータルを設置できそうだ。現在、日本の病院サイトはどこも画一的であり、ユーザーが「使う」という機能が皆無である。だが、患者が通う病院サイトで自分の診療データが見られるとなると、これまで静的であった病院サイトが一挙に「使えるサイト」になるのだ。ネックは役所筋の「規制」である。「どこでもMy病院」みたいな大風呂敷ではなく、患者ポータル推進のような現実的で実現可能な施策を役所は考えるべきだ。規制緩和がされれば、大きな市場が生まれることは間違いないし、患者側にも医療者側にもメリットが出てくるだろう。

だが本命は、PracticeFusionのようなクラウドEHRと患者ポータルの合体サービスだろう。会員を集めるのではなく、データを集めることがウェブ医療情報サービスの中心課題になりつつある。

三宅 啓   INITIATIVE INC.

 


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