ウェブ医療サービス時評 2012.3: パターナリズムを越えて

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3月になっても新宿御苑遊歩道の梅はまだ開花せず。しかし、昨日あたりからぐっと暖かくなってきた。もうすぐ春だ。写真は夜明けの石神井公園。

先週、厚生労働省の「医療情報の提供のあり方等に関する検討会」(座長=長谷川敏彦・日本医科大教授)が、医療機関や地方自治体がインターネットで提供する医療情報に関する報告書「医療情報の提供のあり方等に関する検討会報告書」を発表した。このニュースを聞いて正直「えっ!まだやっていたの?」と言う他なかった。名称は多少違うかもしれないが、厚労省の同様の「検討会」はおよそ10年前から断続的に続けられていたような記憶があるからだ。10年前には知人が検討会メンバーに入っていたこともあり、医療機関サイトが「広告ではなく広報」として扱われたこと、アウトカム情報公開がうやむやに先送りされたことなどが印象に残っている。

その後、小泉内閣の総合規制改革会議(宮内義彦議長)において、「株式会社の病院経営参入」や「混合診療」そして「広告規制緩和」などかなり思い切った試案が出されたが、それらはその後すべて次々に葬り去られたのである。そして今回の「検討会報告書」には、たとえば「ポジティブリストによる広告規制の継続」や「アウトカム情報公開の実質的なもみ消し」などがあるが、これでこの十年間様々に提起された「改革の芽」は最終的に潰えたと言えるだろう。否、10年経って、規制はむしろ強化されたのではないか。

10年前にも議論されたはずだが、米国では1990年代初頭から医療機関のアウトカム情報は次々に公開されてきており、米国民の医療機関選択に寄与している。すなわち、国民の医療機関選択における日米情報格差は広がる一方なのである。なぜこのような医療機関の品質に関わる、消費者が最も知りたいはずのアウトカム情報が日本では伏せられたままなのか理解に苦しむ。そして、アウトカム情報公開に消極的なのが医療提供側の厚労省と医療界の双方である。国民の医療情報ニーズと医療提供者意識の間にある乖離というものを、あらためて強く認識させられた次第である。

今回の「検討会報告書」を読んで、あいかわらず厚労省も医師会も「国民を子供扱いしている」ことがよくわかった。「アウトカム情報のようなものを与えても、国民はそれを理解できないだろうし、かえって混乱を招くだけだ」という双方の「ホンネ」が報告書からはっきりとうかがえるからだ。医療におけるパターナリズム(父権主義)はなにも医師だけの問題ではなかった。この国の政府もまたパターナリズムを発想基盤として国民を子供扱いし、おせっかいにも保護者然とした発言をしてはばからないのである。

またドナベディアンの「構造-過程-結果」という医療評価モデルにおいて、日本では医療機能評価機構さえもが「結果」(アウトカム)を最初から除外し、「構造-過程」しか取り扱ってこなかったのであるが、「結果」に対して責任を取らないという官僚文化の悪弊が、このように医療にも影響しはっきりと現れていると言わざるをえない。

Health2.0がめざしているはずの「患者のエンパワーメント」というビジョンから見れば、かかる日本医療の現実はまさに唾棄すべきものであるが、ではここからどう始めるか、自分たちでできることを考え抜き、しっかり実践するしかない。そしてそのようなビジョン・ドリブンな発想は、おそらくベンチャー企業にしか持つことはできないのだ。最近そんな思いが強い。「Health2.0の原点」へ回帰するのだ。

三宅 啓  INITIATIVE INC.


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