昨日、久しぶりに新宿御苑を散策した。例年ならこの時期、花見客で混雑するのだが、寒風が吹き渡る苑内の桜はまだほとんど開花していなかった。地震のせいでもあるまいが、今年の春は遅い。それでも苑内を歩き回ってみると、春の息吹をあちこちに感じ取れた。そして今朝通勤途上、新宿御苑の遊歩道を歩いていると春風が頬を撫でた。たった一日で季節が変わったのだ。
来月4月4日、Googleはエリック・シュミットに代わり、共同ファウンダーの一人であるラリー・ペイジがCEOに就任する。このことによって、GoogleHealthが事業縮小されるのではないかと米国では言われ始めている。3月26日付Wall Street Journalに掲載された記事”At Google, Page Aims to Clear Red Tape” によれば、ラリー・ペイジはGoogleの官僚化した組織とプロジェクトを見直し、スタートアップらしさ、つまりベンチャー精神を取りもどしたい意向のようだ。
あのGoogleでさえ、ここ10年ほどの成功体験によって組織内部の官僚化や保守化が起きているのかと驚くが、たとえファウンダーが現場復帰しても、再び創業時のベンチャー精神を取り戻すのは容易ではないだろう。それにしても、その事業見直しでGoogleHealthが矢面に立たされている。残念なことだが、ある意味では当然の成り行きかもしれないと言われている。
Google Helathは、2006年頃からアナウンスされて以来、医療IT分野でもっとも高い注目を集めてきた。他の産業分野に比し遅々として医療のIT化は進まず、「Googleならこの閉塞状況を打ち破ってくれるのではないか」という強い期待感が米国医療とその周辺の関係者にあったからだ。しかし2007年夏、Google Healthを陣頭指揮していたアダム・ボズワースが突然Googleを去り、プロジェクトはにわかに視界不良となった。ようやく2008年春に公開されたものの,その位置づけは地味であり、なおかつ明確なビジネスモデルはアナウンスされなかった。
ライバルのマイクロソフトHealthVaultの先行を許し、エコシステムづくりや医療機関との連携など戦略においても独自性を打ち出せていなかった。「技術的には素晴らしいのだが、戦略とエコシステムづくりに失敗したのではないか。マイクロソフトが千人をHealthVaultに投入しているのに、なぜGoogleHealthは数十人しかスタッフがいないのか。力が入っていない。」との酷評もブロゴスフィアでは散見された。また、「技術的な問題以前に、医療においては解決しなければならない問題がある」とPHR自体に再考を促す声もある。
このように、2008年春の公開以来、Google Healthはかんばしい成果を上げることはできず、Google自体の取り組みも中途半端に終始した。ひょっとすると、今回CEOに就任するラリー・ペイジがGoogle Healthに引導を渡すことになるかもしれない。だが、だからと言ってPHR自体の価値が下落するわけでもないと思う。医療全体の効率化とコストダウンのためにも、また医療情報における患者主権を樹立するためにも、依然として患者ごとの医療情報を集約するPHRは社会にとって必要な情報インフラである。理屈では極めてはっきりしていることだが、実はそれを実現するのは容易ではない。そのことが次第にわかってきたと解すべきか。
三宅 啓 INITIATIVE INC.