去る2月に開催されたHIMSSコンファレンスのキイノートスピーチで、エリック・シュミット氏自らが発表したGoogle Healthであるが、その後、クリーブランドクリニックとのテスト運用は実施されているはずだが、他にこれという話題も聞こえてこない。
Google Healthについては、そのサービス概要のみならず、やはりビジネスモデルに深い関心が寄せられているのだが、HIMSSでの記者会見では、エリック・シュミット氏はあっさりと広告モデルの可能性を否定してみせたのである。一方、昨秋、Googleのマリッサ・メイヤーVPはユーザー課金の可能性を示したが、まさかこれはないだろう。Google Healthを取り巻く競争環境は、マイクロソフトのHealth Vaultやインテル陣営のDOSSIAとの「三すくみ状況」になっており、Google Healthだけがユーザー課金するわけには行かないはずだ。
ところで、今月13日の米国ZDnetの「Tom Foremskiブログ」に興味深いエントリがポストされ、ちょっとした話題になっている。それによれば、来る19日(月)にマウンテンビューの本拠Googleplexに幹部召集がかけられ、Google検索サービスとGoogle Healthの現状が検討されるようである。当然、Google Healthのビジネスモデルも議論されるのだろうが、Tom Foremski氏は有力なビジネスモデルとして、製薬メーカー広告による広告モデルを予測している。
米国の製薬メーカーの年間広告費は約5兆8千億円であり、これは日本の年間総広告費7兆円のおよそ8割強に達する規模である。Googleの年間売り上げは約2兆円だから、Googleにとっても製薬メーカーの広告費は魅力的な規模である。また、Google Healthは製薬メーカーにとって恰好の広告媒体となるはずだが、しかし、難問もある。
Google HealthはPHRであり、基本は個人の医療情報を扱うサービスである。だから、個人医療情報サービスが製薬メーカーの広告費によって運営されることに対する、ユーザーや社会からの反発が予想され、最悪の場合、法的な責任問題にまで発展する可能性もあるのだ。これまでGoogleは広告に関して、Gmailをはじめ個人のプライバシー問題に直面しながら、その都度うまく批判をかわしてきたと言えるだろう。だが、もしもGoogle Healthに製薬メーカーの広告を誘致するとすれば、従来よりも強い社会的反発を受けることを覚悟しなければならないだろう。
もちろんこれらは、まだ憶測の域を出ない部分もあるのだが、やはり当方もGoogle Healthが広告モデルで運営されるはずだとは思う。しかし、ウェブのビジネスモデルで「広告モデル」と言うと、「なぁーんだ広告か」と、何か一気に気勢を削がれるような空気が流れてしまうのは、これは一体なぜなのか?。当方は以前から不思議に思っていたのだが、それはひょっとして、前世紀からいまだに延命している「マス広告」に対する、反発や抵抗感、はたまた罪悪感に根ざしているものなのか?。だが仮にそうだとしても、Google以降のウェブ広告は前世紀の広告観を根底から覆しているのであり、前世紀の「負の記憶」に束縛される必要は少しもない。
むしろ「新しい広告」の可能性を、徹底的に考察し実践する価値の方が大きいはずだ。だから、Google Healthが広告ベースであることに違和感はないが、「個人医療情報と製薬メーカー広告の併存」に存在する社会的違和感を、Googleがどのように解決するかが問題である。
三宅 啓 INITIATIVE INC.