Google Health を予想する(1)

GH

最初に「Googleが医療分野で画期的なシステムをリリースする」というニュースを目にしたのは、昨年5月だったと思う。たしか”USA Today”だったと記憶しているが、「Googleは以前から医療に強い関心を持っており、さまざまな可能性を検討してきたが、今月、サービスを開始する」と報じていた。だが、しばらくたって公表されたのは、全く予想外の”Google Co-op”であった。”Co-op”にも医療セクションはあるのだが、これは医療特化型バーティカル検索の試みというべきものであった。

その後、GoogleHealthの話題は下火となったが、昨年末からGoogleのVPでGoogleHealthの開発責任者と目されるアダム・ボスワース氏がコンファレンスや公式ブログなどに登場し、GoogleHealthについて断片的で間接的ではあるが発言し始めたのである。これらボスワース氏の発言はこのブログでも追跡してきた。以下にリストを挙げる。

PHRとグーグルの「患者URL」

医療情報検索と格闘するGoogle

Google医療情報検索の機能強化プロジェクト起動

Google、医療情報の「消費者権利」を提起

GoogleHealth 再び?

Google Health: 消費者の三つのコア・アビリティー

さて、これらボスワース氏や他の開発チームメンバーがこれまで発言した情報を元に、最近、各方面でGoogleHealth(GHと略す)の予想をめぐって議論が盛り上がっている。そして徐々に焦点を結び始めたのは「GHはPHRである」ということである。PHR(Personal Health Records)は、日本では過小評価されているが、どうやら医療ITの鍵を握るシステムであるらしいことが、だんだんと明らかになってきている。そしてGHは、米国で既に200は存在するPHRを一掃するほどの強力なPHRなのではないかと言われはじめているのだ。
これらはあくまで予想の域を出ないとはいえ、今日の医療ITの問題点に関する考察を含むものであり、充分検討に値するものだと思われるので、その抜粋を記しておきたい。なおこの予想梗概は、Vince Kuraitis氏が主催する
”e-CareManagementBlog”の予想エントリーを元に作成した。

1.個人医療情報をめぐる情勢

個人の医療情報の現状は以下のように要約されるだろう。

1)情報はあちこちに散在している
2)情報は、適切な標準フォーマットにはなっていない

第一に、個人医療情報はあちこちに散在している。「患者の観点からすると、そのある部分は電子的に保存されているかもしれないが、その大部分は紙の上にある。この情報は医師、病院、薬局、検査機関、画像センター、セラピーセンター、カウンセラー、他の記録の中にある。そのうちのいくつかは私の頭の中にさえある」

Googleのアダム・ボスワース氏は昨年12月7日のコンファレンスで、これに関し次のように語っている。

「個人にとって、自分の包括的な医療情報を入手しに行くところがない。この包括的な情報へのアクセスは、適切でタイムリーな患者の診断には不可欠であり、患者が出来るだけ最良の治療を受けるために不可欠であり、そして、たぶんときには見落とされるのだが、とりわけ慢性疾患の患者にとっては、最初の治療のあと最良のケアを受けるために不可欠である。」

第二に、情報は散在しているだけでなく、データを定義し共有するための基準がまだ発展途上である。基準が存在する場合も、それらの多くはインターネット以前のものである。情報を一貫して定義する方法に関する基準(臨床基準)と、情報の伝送や交換する方法に関する基準(技術基準)はまだ正式に合意されていないのだ。

「これらのすべての試行(CCHIT、HL7、IHE、ASTM、EHRVA、HITSP)にもかかわらず、基準を定義すべき方法や、情報コミュニケーション技術の最善の社会的利用を保証するための設計ガイドの方法についての一般的な原理が存在していないのである。同じく重要なのは、医療ITの相互運用をサポートするために必要なすべての基準を、誰も確認していないことである」
[National Bureau of Economic Research, May 2007]

2.GHの技術モデル

GHが採用するであろう技術モデルを予想するためには、アダム・ボスワース氏の発言にしばしば現れる、GHの技術注力ポイントに関連すると思われるキイワードに注目すべきだろう。それらをリストに整理すると下記のようになる。

・患者中心
・パーソナルヘルスURL
・個人医療情報を集め保存する自動データ処理
・相互運用技術基準:XMLとCCR(Continuity of Care Record)基準
・ユーザー・インターフェース
・適切なセキュリティと機密保持の手段
・機能の付加価値(長期的な)

主だったところを見ておこう。まず「患者中心」ということについてアダム・ボスワース氏は先月のコンファレンスで次のように語っている。

「医療の未来に関するこのビジョンは、消費者自身が完全に個人的な医療と健康のデータ(私はこれをPHWと短く呼んでいる)を持つべきである、との前提から出発している。そして保険業者でも、政府でも、雇用者でも、そして医師さえでもなく、ただ消費者だけがその情報がどのように使われるかについて、完全にコントロールする権利を持つべきなのだ。」

「個人医療情報を集め保存する自動データ処理」に関しては次のように語っている。

「あなたが行った検査所、あなたに調合された処方箋、そしてあなた自身の身体の写真さえも、普通、あなたには電子フォームで利用できないのだ。たとえそれらデータが、結局人々がお金を支払ってもらうために、ネットを通じて高速で保険企業やPharmacy Benefit Managers (PBMs)や処方集へとフローしてもだ。消費者はもしもこの情報がフローしているなら、それは彼らにもフローしてくるべきであると要求する権利を持っていると、われわれは信じる。」

これに関連し、コンサルタントのデイビッド・ウイリアムス氏は指摘している。
「Googleは医師とヘルスプラン間、医師とPBM間、検査所、医師間そしてその他などのトランザクションデータを彼らのPHRに含めたいと考えている。Googleはこのことをおこなうために、医師のEHRからの(データ)供給を当てにはしていない。(中略)しかし支払いの流れの中に、直接プラグを差し込もうとしている。」[David Williams, World Health Care Blog]

XMLとCCRを標準フォーマットに採用

そしてGH技術モデルで採用される標準化基準であるが、どうやらXMLとCCR(Continuity of Care Record)が有力だとの指摘が多い。XMLは、かつてアダム・ボスワース氏自身が直接開発にかかわったこともあり、GHで採用される確率はかなり高そうである。ボスワース氏自身も次のように発言している。

「われわれは国中の指導的な医療提供者や研究者に語りかけてきた。われわれは、人々が一貫性のある基準を構築することや、データを移動させる共通操作方法を定義することが非常に困難であると言うのを聞いた。それは違う。10年前、全世界を横断してデータを共有するための一貫した基準を構築することが、いかに困難かについて、同じように人々が言うのを聞いた。私は少数の人々と、どのような情報でも共有できる基準-XMLを構築することを開始した。」

また一方、同時にGHはCCRを利用するだろうと予想されている。すでにCCR基準は主要な標準化団体によって承認済みであり、11のスポンサー組織を持ち、HIMSSをはじめ、アメリカ家庭医師学界、アメリカ小児科学界、アメリカ医師会、そしてその他がメンバーとなっている。
(続く)

関連ページ
Google Health を予想する(2)

Google Health を予想する(3)

三宅 啓  INITIATIVE INC.


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