Google Health を予想する(2)

GH2

2.技術モデル(前承)

ユーザーインターフェイス

Googleはどのサービスでも基本機能から出発し、やがて機能追加していくことで知られている。GH(GoogleHealth)のユーザーインターフェース開発には三つのオプションがある。

1)GHはそれ自身のユーザーインターフェースを構築する
2)GHは既存のPHRやEHR企業を買収しそのインターフェースを採用する
3)GHは最初それ自身の粗野なユーザーインタフェースを開発し、既存のPHRやEHR企業により洗練されたユーザーインターフェースの提供を競争させる

付加価値機能

ボスワース氏のこれまでのGHに関する発言から、以下のような機能がGHに装備される可能性が強い。

・エビデンスベースのガイドラインに比較対照された病状表示
・薬剤相互作用の警告
・医学的に信頼できる健康情報の提供
・患者固有の基準に合致する医療提供者(医師、病院)の推薦
・医師、病院のクォリティ評価情報
・ヘルスコーチング・ツール
・意思決定支援ツール
・その他

3.今後カギを握る三つの項目

GHの想定されるコンセプトは、下記のような三つに集約されると予想されている。

●GHコンセプト・ビルディング・ブロック

・GHは次世代PHR市場を創造すると同時に支配する
・GHは現在のPHRのアキレス腱(PHRへのデータ入力という難問)を克服する
・GHビジネスモデル:
ネットワーク効果を利用して一気にユーザー数を増やし、デファクト・スタンダードとなる

それぞれを少し詳しく検討しよう。

1)GHは次世代PHR市場を創造すると同時に支配する

第一世代のPHRには二つのカテゴリーがあり、その機能は非常に限定されている。

a.スタンドアローンPHR
b.ロープでつながれたPHR

「スタンドアローンPHR」はPC上に孤立しており、患者のうち少数だけが個人医療情報を集めることにやる気と関心を持つ。そしてその情報は1)あちこちに散在し、2)適切な標準フォーマットではない、ということを想起してもらいたい。

「ロープでつながれたPHR」はスポンサーを持っている。通常はヘルスプラン、雇用者、医療提供システムである。この場合、取り得はスポンサーがしばしば「いくつか」のデータをPHRに入力してくれるということ。医療機関の場合はEHRデータであり、ヘルスプランの場合はクレームデータであるだろう。しかし、概してこの種のデータは共同利用も可搬性もないのである。データは複数の提供者を越えて移動することはない。だから患者がスポンサーを離れたとき、自分のデータを連れて行くことは出来ない。

次世代PHR

次世代PHRとは何か?。第一世代PHRは、それ自体が目的であるようなアプリケーションであったが、次世代PHRはそれに加え、個人医療情報を保存しアクセスする「場所」である。つまり次世代PHRは、アプリケーションとプラットフォームの両方と考えるべきである。

「実際PHRのパワーは、アラート、リマインダーズ、そしてその他のディシジョン・サポートツールの一体化によるものであり、それらは人々の健康を改善し症状を管理する行動の助けとなるのである。この観点から、個人医療記録はより広いPHRシステムの部分として見なされなければならない」[Overview―Personal Health Records, RWJF Project Health Design]

The Markle Foundationも、PHRの進化について雄弁に語っている。彼らのコンセプト「ネットワークPHR」は下図参照。この図で「パーソナルヘルスレコード」の代わりに、「GH」と入れてみればGHの姿形を想像できる。

netphr

(TheMarkleFoundation “Connecting Americans to Their Health Care: A Common Framework for Networked Personal Health Information”)

2)GHは現在のPHRのアキレス腱を克服する。-PHRへのデータ入力という難問

これまで見たように、個人医療情報の基本的な問題が

1)あちこちに散在している
2)適切で標準化されたフォーマットではない

ということを思い出してほしい。今日のPHRの最大難問の一つは、個人医療情報をPHRに入力しデータを更新していくということにつきる。データ入力がPHRのアキレス腱だったのである。GHはデータ入力問題を解決するためのシステムと基準を作るだろう。そのために次のような施策が予想される。

ⅰ)GHは個人医療情報を集め保存する自動データ処理を提供するだろう
ⅱ)GHはCCRを個人医療情報のMP3にするだろう

上記ⅰ)は当然のことだが、ⅱ)は前回エントリーでも触れたCCRを別の角度から見たもの。デイビッド・キッベ医師はCCR基準の開発者の一人としてよく知られているが、彼はCCR基準をMP3オーディオフォーマットになぞらえている。MP3は音質的には他よりも劣るフォーマットであるが、結局、Web上で音楽配信の標準フォーマットになった。ピュア・オーディオ・ファンから馬鹿にされるようなクオリティであっても、一般のユーザーにとっては必要にして充分なフォーマットであったからだ。

同様にCCRも他の基準から見ると不十分な点はたくさんあるが、下記のようなメリットがあり、当面GHにとっては充分なフォーマットのだ。

・頻繁な記録更新ができる
・可搬性がある
・広い範囲の機器やメディアを通じてアクセスできる

3)GHビジネスモデル: ネットワーク効果を利用し、一気にユーザー数を増やす

『イノベーションのジレンマ』の著者であるクレイトン・クリステンセン教授は、「技術自身は破壊をもたらさない。破壊効果を創造する正しいビジネスモデルを持つ必要がある」と述べた。GHの「正しいビジネスモデル」とは何だろう?。それはおそらくネットワーク効果とデファクト・スタンダード化の二つの上に成立するのではないか。

まずGHは強力なネットワーク効果を利用するだろう。下の図に見るように、市場におけるネットワーク効果はユーザー数の指数関数的成長に依存する。

neteffect

(“Network Effects” Carl Shapiro,Hal R. Varian, University of California, Berkeley)
また、適切で標準化された医療情報技術基準が欠落していることは、GHがデファクト・スタンダードになる機会を提供しているとも言えよう。GHがネットワーク効果を活かし、デファクトスタンダードとなる可能性は大きい。あとは適切なビジネスモデルが設定されれば、クリステンセン教授が言うように、医療における「破壊的イノベーション」となるかもしれないのである。

GHが採用するマーケティング戦略は、以下のようなポイントを利用して、一気に高い参入障壁を築くことになるだろう。

・無料で消費者に提供
・特許
・規模の経済性
・顧客ロックインとスイッチングコストによる先行者利得の利用

GHは、優れた検索技術、強力なブランド、現行収益モデル、パートナーシップ、そして市場力など、既にGoogleが保有する現行技術と競争優位の上に構築されるだろう。収益を生み出す多数のチャンスがあるだろうが、Googleの現行収益モデル(広告販売)は疑いなくGHの収益モデルの基本となるだろう。どの程度までGoogleが個人医療情報に、パーソナライズされターゲット化された広告を付加できるかということが、まだ明確になっていないが、GHの収益モデルは、インターネット検索をコアビジネスにしていない競合他社から簡単に模倣されることはないだろう。

だが、これらはあくまでも「予想」である。ネットワーク効果は確かに強力だが、GHが簡単にこれを手に入れられる保証はどこにもない。念のため。
(続く)

関連ページ

Google Health を予想する(1)

Google Health を予想する(3)

三宅 啓  INITIATIVE INC.


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