書評:「インフォコモンズ」佐々木俊尚、講談社

まず、タイトルがピシッと決まっているのが気持ち良い。「佐々木本」はこれまでその内容に比して、あまりにも書名がダサ過ぎた。おそらく書名でずいぶん損をしてきたのではないか。今回の「インフォコモンズ」という書名は、佐々木氏の造語であるが、本の中身のまさにエクスプリシトな要約として秀逸である。この本は、いわばこの書名自身が自己展開され、様々な周辺概念を紡ぎ出しながら、独特の力動感を読み手に伝えることに成功していると思った。

インフォコモンズとは「情報共有圏」と説明されているが、これは当方がたびたび主張してきた「闘病ネットワーク圏」と通底する概念であり、その意味で著者の論考に共感するところは多い。ただしインフォコモンズは、たとえば検索エンジンによって検索ごとに可視化されるようなアドホックに生成される領域であり、これは情報探索者の能動的な検索行為のいわば「結果」として立ち現れる(emergence)可変的な領域と言えるだろう。それに対し、闘病者の情報共有圏である「闘病ネットワーク圏」は、闘病者による闘病体験の能動的なアウトプットによって自生的に作られてきた、一定の量と広さを持つ情報共有圏である。そのような差異はあるが、それよりも「パブリックな領域」として情報共有圏が位置づけられているところなど、当方の問題意識と共通する点は多い。 続きを読む