全欧州の医療情報共有をめざすepSOS

epsos

ヨーロッパ各国の医療情報システムを相互運用する広域実験プロジェクトが開始される。このプロジェクトはepSOS(European Patient Smart Open Services)と名付けられ、欧州委員会の支援のもとにEU加盟12カ国が参加を表明している。これら各国はそれぞれ自国の国民医療情報システムを持っているが、今回の実験プロジェクトは各国システムを相互に接続し、EU市民がEU域内のどこにいても、自分の医療情報を利用できる環境を提供することをめざしている。背景には、近年、国境を越えた市民の域内移動が活発化しており、これに対応する医療情報システムが必要になっている事情がある。 続きを読む

医療情報システムと国民医療

一昨日のエントリ「医療情報システムの三つの顔」に対して、ganfighterさんが各システムの英語定義を翻訳してくださった。あらためて感謝しておきたい。またynbさんから、各システムの定義について素晴らしい考察をしていただいた。これも感謝しておきたい。なるほど、「データの網羅性」という基準を立てると各システムの差異は一層明確になるはずだ。その際、たしかにEMRは医療現場に一番近いシステムであるだけに、最も広範な「データの網羅性」を持つことになる。かたやPHRは、患者に最も近いシステムとして「患者自身による訴えの記述」までをカバーできる。そうなるとEHRが中途半端な立場に立たされそうだが、ynbさんが言われるように、そのデーターカバレッジは「パブリック」という観点から限定される可能性は高いだろう。だが、そうなるとEHRの経済的基盤はどうなるのだろうか。 続きを読む

医療情報システムの三つの顔(EMR、EHR、PHR)

最近、米国でNAHIT(National Alliance for Health Information Technology)が発表した「EMR、EHR、PHRの定義」がちょっとした話題になっている。なるほど考えてみると、これまでEMRとEHRの差異さえ実は明確ではないうちにPHRが出てきてしまったので、これら三者の関係があいまいなままに放置されているような現状がある。NAHITによるそれぞれの定義は下記のようになっている。

EMR:
The electronic record of health-related information on an individual that is created, gathered, managed, and consulted by licensed clinicians and staff from a single organization who are involved in the individual’s health and care.

EHR:
The aggregate electronic record of health-related information on an individual that is created and gathered cumulatively across more than one health care organization and is managed and consulted by licensed clinicians and staff involved in the individual’s health and care.

ePHR:
An electronic, cumulative record of health-related information on an individual,drawn from multiple sources, that is  created, gathered, and managed by the individual. The integrity of the data in the ePHR and control of access to that data is the responsibility of the individual.

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「完全無欠システム」から「ブリコラージュ」へ

先日、リチャード・マクマナスの「Read Write Web」に「PracticeFusion」の話題が取り上げられていた。当ブログでも昨春エントリで紹介してあるが、PracticeFusion社はGoogleの広告システムAdSenseをウェブベースのEMR(電子カルテシステム)に配信することによって、無料で診療所にEMRを提供するサービスを開始している。米国では、標準的な診療所に電子カルテシステムを導入しようとすると、約2万ドルかかるといわれている。これは経営規模の小さい診療所にとっては大きな負担であり、「医療IT化」が進まないのも導入コストが高すぎるせいだと指摘されてきた。

だが実はPractiseFusion社以外にも、RemedyMD社をはじめ無料のEMRあるいはEHRを提供するシステムベンダは存在する。大規模医療機関などにも対応できるオープンソースのEHRとしてはOpenVistARPMSが有名だ。このように今後の医療IT化は、PracticeFusion社のようなウェブベースの無料システムやOpenVistAのようなオープンソース利用がどんどん進むとみられている。システムの導入と運用にかかわるコストは医療コストに直結するものであるから、これを低く抑えることは国民医療費の削減にも寄与するはずだ。 続きを読む

ペーパーレス医療


EHRベンダーであるAllscripts社が、医療現場へのIT導入によるペーパーレス化促進キャンペーンの一環として、プロモーション・ビデオ「Paperfree Healthcare」をYouTubeにアップした。シンプルなメッセージ訴求型ビデオとして秀逸の出来映えである。医療現場の壁、事務機器などに多数貼りつけられたショートメッセージは、思わず読んでしまうため、オーディエンスのアテンションが散漫に分散することもない。

ところで、このようなビデオを制作しなければならないということは、米国医療界にも、依然として牢固たる「紙頼み」文化が存在していることを逆に示している。日本でも、医師ブログなどで「電子カルテ・アレルギー症候群」とも言うべき症例を散見するが、これはいったい何なんだろう?。「紙頼み」文化から脱出するためには、何が必要なのだろうか?。