2011年へ向けて

2011

2010年が終わる。長いような短いような1年だった。例年にない暑い夏から始まった新規ツールdimensions開発は大幅に遅れ、結局、年末に完成した。「暑い夏。音楽を聞いて乗り切ろう」と発注したマーラーのコンプリート・エディションだったが、これも到着したのは12月に入ってから。何か「夏の忘れ物」が届けられたようで不思議な気がした。

今年はまたHealth2.0ムーブメントが国内でも顕在化した年であった。二回にわたるHealth2.0 Tokyo Chapterはいずれも盛況。その勢いを駆って、10月サンフランシスコで開催された年次コンファレンスでは、日本からMedPeerとTOBYOのプレゼンテーションが行われた。だが国内プレイヤーの数が少なすぎるなど、まだその実体は脆弱であり、今後新規参入プレイヤーが多数現れてこない限りかけ声倒れに終わる可能性もある。

また「新規ブーム」に便乗し、煽るような動きもすでに散見される。かつての「ニューメディアブーム」等のように「結局、評論家、学者、コンサルなどがセミナーや本で儲けただけ」という結末を、あるいは迎えることになるのかも知れない。そうならないためには、事業プレイヤー同士の経験交流、意見交換、コラボレーション促進など、あくまでプレイヤー主体の場作りが重要になるのではないか。特にプレイヤー間のコラボレーションを積極的かつ具体的に進めていくことは、日本のHealth2.0シーンの活性化にとって非常に大切なことだと思われる 続きを読む

dimensions開発を振り返って

distiller

今日は朝から事務所の大掃除。データ処理をシンガポールのサーバに仕掛け、人間の仕事は終了。思えば今年は、TOBYOプロジェクトにとって大きな転換点となる年だったと思う。新規サービスdimensionsの開発着手と完成によって、TOBYOプロジェクトは新たな段階に達したからだ。

TOBYOが収集した膨大な闘病体験データを、何らかの形で医療関連業界に提供しようというアイデアは昨年暮れに出来上がっていた。「二つの医療コアデータ」「開発シーズとしてのコアデータ」「TOBYOプロジェクトの現状と将来」など一年前の一連のエントリには、dimensionnsへ至る基本アイデアの断片が綴られている。だが年が開けて着手したdimensions開発は、予想を超える難産だった。

まず最初に「DFC」(Direct From Consumer)という考え方を新サービスのコンセプトにしたのだが、結果として見れば、このフレーズで新サービスを定義することは不十分であることが判明した。DFCは製薬業界でおこなわれているDTCの対概念であるが、対概念ゆえに「単独で理解しがたい」という弱さがあり、業界用語という限界も持っていた。またDFCということの意味を考えてみても、単に方向を示しているに過ぎず、おまけにほとんど消費者調査一般と区別できない。これでは新規サービスの独自性と機能を定義するには大雑把すぎたのである。

だが、このことを深く考察することなく開発は着手された。そしてようやく開発終盤に至って「DFC」の再検討にとりかかり、最終的に「闘病体験の多次元分解」というコンセプトにたどり着き、ネームをdimensionsに変えた。このコンセプト精緻化の遅れが、開発全体の遅れに影響していることは否定出来ない。DFCというコンセプトで当初発案したサービス・イメージは、たとえば薬品ごとの患者体験レポートを集約したライブラリーのようなものであったが、DFCというコンセプトから出発すると、こんなコンテツ・サービスみたいなものに収束してしまうのであった。もとより我々はコンテツを作るつもりはまったくなかったので、ウェブ上でデータを処理する「ツール」へと路線変更をおこなった。 続きを読む

ブログ四周年に寄せて 2

このブログを始めた頃、まだHealth2.0という明確な旗印は立っていなかったが、すでに米国を中心として、前年のWeb2.0の爆発を受け、医療分野でも新しい動きが出現しはじめていた。私は、2006年夏頃からこれら新しい動きの探索を開始したのだが、当時すでにニューヨークからユニティ・ストークらが”Organized Wisdom”を立ち上げ、患者SNS”Daily Strength”や医療バーティカル検索エンジン”Healthline”も公開されていた。

それ以来、幸運にもHealth2.0の誕生から今日に至る発展過程をすべてリアルタイムに観察し、このブログに記録することができた。PHRからPatientsLikeMeまで、このブログはHealth2.0に関連するほとんど全領域をカバーしており、最大の日本語レビューになっていると自負している。これからHealth2.0を知りたいと考えておられる方は、とにかくこのブログを初めから通読していただくのが一番手っ取り早いだろう。

さて、このブログを支えてきたのは、当方のベンチャー・プレイヤーとしてのプライドであると考えている。2006年当時、Web2.0の影響が必ず医療に波及するだろうという見通しを立てたわけだが、まだ誰も日本でそれに言及する者はいなかった。そうであれば自分で事例を探し出し、分析し、洞察し、記録していくしかない。それをやればいち早く新しい知識情報を獲得でき、新規事業アイデアの想を練ることもできる。だが、獲得した情報は秘匿するのではなく、積極的に公開し、誰でも読めるようにしておく。そうすれば日本においても、いずれHealth2.0プレイヤーが現れるだろう。つまりこのブログ自体がTOBYOというベンチャー・プロジェクトの一環であると同時に、できうれば「将来の日本のHealth2.0」へ向けた戦略情報発信装置という役割も果たしたいと考えていた。 続きを読む

ブログ四周年に寄せて

101218

今日でこのブログは四周年を迎えた。この四年間に約1000エントリをポストしたが、これはほぼ原稿用紙3千枚~4千枚の分量に匹敵する。たまに音楽をはじめ身辺雑記など綴ることもあったが、ほとんどはTOBYOプロジェクトと医療IT関連をテーマに書き続けてきた。「これほどの分量をよくも書いて来たものだな」というのが率直な感想である。

作家フローベールは「ボヴァリー夫人は私だ」と語ったが、その伝で行くと「TOBYO開発ブログとは私だ」ということになる。TOBYO開発に着手することを決めた当時、「オリジナルのしっかりした理論武装が必要になる」と考えこのブログを始めたわけだが、たしかにこのブログには、かなりの独断と偏見に満ちた独特の医療観が展開されていると思う。中立性を欠いたそれら「独断、偏見、断定」の言説集合体と、そのバイアス強度こそが私自身なのだ。

さらに言わせてもらうと、これら独断と偏見とバイアスそして挑発こそが「ベンチャー心」をドライブするものだと考えている。逆に、「無難、中庸、平均、ニュートラル」など行儀正しい思考形式は、従来の世界観を反芻するだけの、失敗することも成功することもない、退屈で生産性の低い安全な言説だと考えてきた。論理的「正しさ」を競うのではなく、論理的整合性を装うのでもなく、いささか物騒でも思考実験自体の面白さを純粋に追求してきたのかもしれない。 続きを読む

dimensionsの拡張検索エンジン「Xサーチ」

X_Search

dimensions(ディメンションズ)は、大きくディスティラーとXサーチの二つの機能から成っている。これまでこのブログで、何度かディスティラーのことは説明してきたが、Xサーチについてはあまり触れてこなかった。これは「Extended Search」(拡張検索)を短くして名付けたもので、TOBYOで公開しているTOBYO事典の機能を拡張したものだ。

TOBYO事典と異なるところは、検索結果をさまざまな条件でフィルタリングすることができる点である。たとえば「病名」で絞りこむと、特定病名サイトだけの検索結果を見ることができる。TOBYO事典は闘病ユニバースのバーティカル検索エンジンであるが、Xサーチはさらに細かく特定病名だけのバーティカル検索を可能にする。つまり、たとえば乳がん闘病サイト群だけを、フリーワードで検索することが可能である。 続きを読む