TOBYOからdimensionsへ

TOBYOの収録サイトが2万5千件になった。昨夜は奥山とささやかな乾杯の席を設けた。思えばずいぶん遠くまで来たものだ。TOBYOの可視化領域は拡大し、来年には3万サイトを越えるだろう。「ネット上の全ての闘病体験を可視化し、検索可能にする」というTOBYOのミッションは、少しづつ、一歩一歩、達成されつつある。

しかし、やはり疾走してきたためか、いささか疲れた。ここのところ休日なしで仕事をしてきたので、久しぶりに今日は休暇をとった。ベンチャーは「月月火水木金金」。旧日本海軍みたいなものだ。だが、闘病ユニバースの全容が徐々に可視化されてくるのを、リアルタイムに体験できるのはすばらしいことだ。

闘病ユニバースからデータを多次元に切り出す新しいツール”dimensions”はいよいよ完成。大幅に遅れてしまったが、来年からたくさんの方々に使って頂きたい。TOBYOを立ち上げてからずいぶん時間が経った。TOBYOが可視化する闘病ユニバースに蓄積された膨大な体験データを、これで十分に活用することができるようになる。 続きを読む

知りたくないこと、知らなければならないこと

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インターネットが登場して以来、「インターネットと医療」というテーマで今日まで夥しい議論があった。そして、そのほとんどは「インターネットによって医療は変わるだろう」という期待を楽観的に表明するものであった。では実際に何が変わったのだろうか?。そう問うてみると、答えに躊躇する現実がある。変わったのは医療それ自体というよりも、むしろ医療を取り巻く環境と言った方が良いだろう。

たとえば医療記録ということを考えると、従来、もっぱら医療者によってカルテやレセプト等で医療は記録されてきた。患者側の医療記録は「闘病記」などの形式で出版されてはいたが、費用と手間の負担からその数は限られていた。それに「闘病記」を医療記録と呼ぶかといえば、何かそぐわないような気もする。

インターネットの登場により、患者の手による医療記録が堰を切ったように公開された。当初、私たちもこれらを「ネット版闘病記」と見ていたが、やがて「作品」としてではなく、医療記録もしくはデータとしての価値を正当に評価すべきとの結論に達した。これによって、従来、医療者によって記録され医療界と行政の内部に蓄積され、一般の目には見えにくいものとして保存されてきた医療記録群の外側に、患者による事実体験の記録が新たに膨大な集積を形作り始めたのだ。私たちが「闘病ユニバース」と呼んできたのは、医療を取り巻く形で集積を始めた、これら患者の手による医療記録の集合体のことである。日本医療は、従来の医療界側の医療記録に新たに患者側の医療記録を加え、二つの視点からその事実が記録されるようになったのである。

これら患者側の医療記録集合体の中からほんの一部を取り出し、それを「闘病記」として閲覧に供するような方法では、これら医療記録集合体の持つ価値を十分に活用することはできないと私たちは考えた。そこでTOBYOプロジェクトをはじめたわけだが、TOBYOのようにどんどん闘病ユニバースを可視化し構造化していく手法は、実は、最小のリソース、最小のコスト、最小の時間で、最大の患者体験データベースを構築する方法だと思う。 続きを読む

医療におけるデータフローのグランドデザイン

この秋サンフランシスコで開催されたHealth2.0コンファレンスのビデオが公開されている。これらを見て特に注目されるのは、Health2.0というムーブメントが、徐々に「医療データフローのグランドデザイン」という視点を獲得し始めている点である。UGC、EHR、PHR、行政等からのデータフローが、各種アプリケーションの連携によって有効に医療意思決定をサポートするような、そんなグランドデザインが描かれつつある。

シングル・ソース・データを単独アプリケーションを使ってサービス提供するようなモデルではなく、各種マルチ・ソース・データのフローを前提とした、社会的データ還流システムとして個々の医療情報サービスが統合されていくようなイメージが出てきたことが、今回のコンファレンスの特徴ではないかと思う。

コンファレンス冒頭に行われたマシュー・ホルトとインドゥー・スバイヤのプレゼンテーションを見ればわかるが、とにかく徹底的にデータとそのフローを考察することによってHealth2.0の全体ビジョンを見通そうとしている。もはや個別サービスよりも、データとそのフロー、そしてそれらを含む全体像のほうにこそ焦点が合わせられている。医療ITシステムの基礎がデータであることを、あらためて示すものであるとも言えよう。今後、データとそのフローの全体像をイメージできないと、Health2.0を理解することは困難になるだろう。 続きを読む

The system formerly named as “DFC”

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これまで「DFC」と呼んできた開発中の新システム”Dimensins”(ディメンションズ)のロゴが決まった。前回エントリでネームは

“Patient Experience Dimensions”

とアナウンスしたが、いささか長ったらしいのでシンプルに”Dimensions”と言い切った。

フルネームとシステム・コンセプトは”Patient Experience Dimensions”。ネット上の膨大な患者体験空間を構成する諸次元(医療機関、治療方法、医薬品他)を分解し切り出すシステム。

まず、ネット上に自分の闘病体験を公開してくれた、たくさんの闘病者の皆さんに感謝します。皆さんがネットに闘病体験を公開してくれなかったら、このようなイノベーションが実現することはなかったでしょう。そしてウェブとテクノロージーに敬意を表し感謝します。

ところでこのエントリー 「内定をくれない企業を恨む前に」は本当に実にいい話だ。深く共感した。私たちもまた、ネットとテクノロジーが好きだし、人一倍その素晴らしさを感じている。Health2.0もまた、ネットやテクノロジーが好きで、その素晴らしさを医療に活かしたいというプリミティブな情動がその基底にあるはずなのだ。だが、ネットに対する愛情のないHealth 2.0論や、陳腐なHealth2.0論が目につきだした。また他方では、ネットやテクノロジーに対する愛情も敬意も感じさせない医療関連サイトが多い。ネットへ出てきて「ネットは怖いところで危険だ」などと発言するなど、何かおかしいのではないか。本当にネットやテクノロジーが好きで、リスペクトを抱いている人間こそがHealth2.0の担い手であるはずだ。
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日本のHealth2.0: 2.0を語るな。2.0をやれ。

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「日本のHealth2.0」というイシューが語られるようになったのは、今年の夏、六本木ヒルズで開催されたHealth2.0 Tokyo Chapter2からだと思う。当日、私もパネルディスカッションに参加し意見を述べたが、現状を見れば事業プレイヤーの数の少なさは覆うべくもない。

私たちのTOBYOは、米国におけるHealth2.0ムーブメントに大きな刺激を受けてきた。2006年以来、米国のHealth2.0シーンはウェブ医療サービスの実験場であり、ありとあらゆるビジネスモデルが登場しては消えていった。一説では2,000社のスタートアップ企業がローンチしたとも言われている。その中で成功したとされる企業は数少ないが、とにかく膨大な量のチャレンジがこの分野に集中したのだ。成功したケースに学ぶことは必要だが、多くの失敗ケースもまた貴重な教訓をあとに続くものに語ってくれている。

その中で徐々に、「このケースはうまくいくが、このケースが成立する余地は少ない」というふうに、いくらか見通しが立てられるような状況が生まれている。だが、米国と日本では医療制度がかなり異なり、事業のフィージビリティを同一視できるわけでもない。米国における実験に学びながら、日本固有の状況に適応していく必要もある。

「日本のHealth2.0」というイシューがいくばくかの有効性を持つためには、まず何をおいてもプレイヤーの量が増えることが大前提となるだろう。20代、30代の若いファウンダーがこの分野でどんどん出現してくるような状況が必要なのだ。それがイメージできないのなら、このイシューはなんの現実的な基盤も持たず、単なる同好の士の趣味談義と変わるところはない。 続きを読む