医療におけるデータフローのグランドデザイン

この秋サンフランシスコで開催されたHealth2.0コンファレンスのビデオが公開されている。これらを見て特に注目されるのは、Health2.0というムーブメントが、徐々に「医療データフローのグランドデザイン」という視点を獲得し始めている点である。UGC、EHR、PHR、行政等からのデータフローが、各種アプリケーションの連携によって有効に医療意思決定をサポートするような、そんなグランドデザインが描かれつつある。

シングル・ソース・データを単独アプリケーションを使ってサービス提供するようなモデルではなく、各種マルチ・ソース・データのフローを前提とした、社会的データ還流システムとして個々の医療情報サービスが統合されていくようなイメージが出てきたことが、今回のコンファレンスの特徴ではないかと思う。

コンファレンス冒頭に行われたマシュー・ホルトとインドゥー・スバイヤのプレゼンテーションを見ればわかるが、とにかく徹底的にデータとそのフローを考察することによってHealth2.0の全体ビジョンを見通そうとしている。もはや個別サービスよりも、データとそのフロー、そしてそれらを含む全体像のほうにこそ焦点が合わせられている。医療ITシステムの基礎がデータであることを、あらためて示すものであるとも言えよう。今後、データとそのフローの全体像をイメージできないと、Health2.0を理解することは困難になるだろう。

もはやHealth2.0は、これまでのように単に医療の2.0系サービスを総称するものではなくなってきている。また特に、社会的なデータ還流というグランドデザインが医療において登場してきたことが興味深い。従来、医療機関、行政、検査機関、研究機関、個人サイトなどに個別隔離され、デッド・ストック化されていた医療データを、もっと自由にフローさせ利用促進することが社会にとって必要になっている。

鍵はオープン・データ・ムーブメントやAPIの公開だろう。特にAPIによるアプリケーション間の相互連携やデータ相互利用がますます重要になる。私たちのTOBYOも、検索エンジンやディメンションズのAPIをいずれ公開したいと考えている。当然ながらストックするのではなく、フローさせるほうがデータの価値は高まる。

ところで、日本の「Health2.0」論だが・・・・・。クチコミとか、コミュニケーションとか、コミュニティとか、今だにそんなことを言っているようではダメだろう。そんなふうに矮小化してもらっては困る。日本のHealth2.0シーンも、いつまでも海外Health2.0をネタに手前味噌を並べたり我田引水するわけにもいかないだろう。日本医療に適応した独自2.0のビジョンを打ち出すとか、行政が持つ医療情報のオープン化をやるとか、API公開と相互連携によるエコシステムを作るとか、もっと大きな発想も必要かも知れない。

三宅 啓  INITIATIVE INC.


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