dimensions開発を振り返って

distiller

今日は朝から事務所の大掃除。データ処理をシンガポールのサーバに仕掛け、人間の仕事は終了。思えば今年は、TOBYOプロジェクトにとって大きな転換点となる年だったと思う。新規サービスdimensionsの開発着手と完成によって、TOBYOプロジェクトは新たな段階に達したからだ。

TOBYOが収集した膨大な闘病体験データを、何らかの形で医療関連業界に提供しようというアイデアは昨年暮れに出来上がっていた。「二つの医療コアデータ」「開発シーズとしてのコアデータ」「TOBYOプロジェクトの現状と将来」など一年前の一連のエントリには、dimensionnsへ至る基本アイデアの断片が綴られている。だが年が開けて着手したdimensions開発は、予想を超える難産だった。

まず最初に「DFC」(Direct From Consumer)という考え方を新サービスのコンセプトにしたのだが、結果として見れば、このフレーズで新サービスを定義することは不十分であることが判明した。DFCは製薬業界でおこなわれているDTCの対概念であるが、対概念ゆえに「単独で理解しがたい」という弱さがあり、業界用語という限界も持っていた。またDFCということの意味を考えてみても、単に方向を示しているに過ぎず、おまけにほとんど消費者調査一般と区別できない。これでは新規サービスの独自性と機能を定義するには大雑把すぎたのである。

だが、このことを深く考察することなく開発は着手された。そしてようやく開発終盤に至って「DFC」の再検討にとりかかり、最終的に「闘病体験の多次元分解」というコンセプトにたどり着き、ネームをdimensionsに変えた。このコンセプト精緻化の遅れが、開発全体の遅れに影響していることは否定出来ない。DFCというコンセプトで当初発案したサービス・イメージは、たとえば薬品ごとの患者体験レポートを集約したライブラリーのようなものであったが、DFCというコンセプトから出発すると、こんなコンテツ・サービスみたいなものに収束してしまうのであった。もとより我々はコンテツを作るつもりはまったくなかったので、ウェブ上でデータを処理する「ツール」へと路線変更をおこなった。

コンセプトの不明確さは、夏場の一連の要件定義に影響を与えた。一体どのような機能を最終的に提供するのかが判然とせず、時には当初発案された「レポート」の残滓を引きずってしまった。ここをなんとか無事に切り抜けたのは、アーキテクト奥山の非凡な才能ゆえである。まだ「多次元分解」というコンセプトは見えていなかったが、奥山の直感によって、固有名詞群で闘病体験をスライスする機能が実装された。

このように開発現場は暗中手探りで前進しなければならなかったが、ある意味でTOBYOプロジェクト自体にもともと備わっていた発展方位というものが、開発を領導してくれたのではないかと思うこともある。TOBYOプロジェクトがウェブ上の闘病体験データをどのように処理してきたかと考えると、次の三つの段階があるだろう。

  1. データの構造化
  2. 垂直検索
  3. データの多次元分解

まず最初の段階「データの構造化」だが、これはウェブ上のブログや個人サイトなどUGCから闘病体験を探し出し、サイト単位で評価し、分類し、メタデータを振って記録することである。これによってウェブ全体から、闘病ユニバースという秩序を切り出すことができたわけだ。だが、これはあくまでサイト単位での構造化である。そして次に「垂直検索」だが、これは構造化されたデータを基に闘病サイトだけを対象に検索することである。構造化段階では、まだデータはサイト単位で大括りされるにとどまっていたのが、この垂直検索段階ではサイト横断的に、自由検索ワードによって、目指すデータが存在するページへ直接アクセスすることができる。ここでは既に「サイト」という単位は重要ではない。そして三つめの段階「データの多次元分解」だが、本来、「薬品、治療法、医療機器、医療機関、闘病生活」など多次元構成されているはずの闘病体験データを、それぞれ単独次元へ分解しスライスすることによって、次元ごとの実態や傾向を効率的に把握することができるようになる。

だがやはり、TOBYOプロジェクトの基礎はデータの構造化にあり、そしてデータ量にあるはずだ。現在収録サイト件数は2万5千件を超えるが、最低でも2万件程度のデータサイズがなければ、dimensionsのようなツールが十分機能することはないだろう。

さて大幅に遅れて完成したdimensionsだが、年明け早々から、いろいろな場所でデモンストレーションをおこないたい。dimensionsを広く活用してもらうために、さまざまなパートナーとオープンにコラボレーションしていきたいと考えている。どうか遠慮なくお声がけください。

三宅 啓  INITIATIVE INC.


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