ブログ四周年に寄せて

101218

今日でこのブログは四周年を迎えた。この四年間に約1000エントリをポストしたが、これはほぼ原稿用紙3千枚~4千枚の分量に匹敵する。たまに音楽をはじめ身辺雑記など綴ることもあったが、ほとんどはTOBYOプロジェクトと医療IT関連をテーマに書き続けてきた。「これほどの分量をよくも書いて来たものだな」というのが率直な感想である。

作家フローベールは「ボヴァリー夫人は私だ」と語ったが、その伝で行くと「TOBYO開発ブログとは私だ」ということになる。TOBYO開発に着手することを決めた当時、「オリジナルのしっかりした理論武装が必要になる」と考えこのブログを始めたわけだが、たしかにこのブログには、かなりの独断と偏見に満ちた独特の医療観が展開されていると思う。中立性を欠いたそれら「独断、偏見、断定」の言説集合体と、そのバイアス強度こそが私自身なのだ。

さらに言わせてもらうと、これら独断と偏見とバイアスそして挑発こそが「ベンチャー心」をドライブするものだと考えている。逆に、「無難、中庸、平均、ニュートラル」など行儀正しい思考形式は、従来の世界観を反芻するだけの、失敗することも成功することもない、退屈で生産性の低い安全な言説だと考えてきた。論理的「正しさ」を競うのではなく、論理的整合性を装うのでもなく、いささか物騒でも思考実験自体の面白さを純粋に追求してきたのかもしれない。 続きを読む

dimensionsの拡張検索エンジン「Xサーチ」

X_Search

dimensions(ディメンションズ)は、大きくディスティラーとXサーチの二つの機能から成っている。これまでこのブログで、何度かディスティラーのことは説明してきたが、Xサーチについてはあまり触れてこなかった。これは「Extended Search」(拡張検索)を短くして名付けたもので、TOBYOで公開しているTOBYO事典の機能を拡張したものだ。

TOBYO事典と異なるところは、検索結果をさまざまな条件でフィルタリングすることができる点である。たとえば「病名」で絞りこむと、特定病名サイトだけの検索結果を見ることができる。TOBYO事典は闘病ユニバースのバーティカル検索エンジンであるが、Xサーチはさらに細かく特定病名だけのバーティカル検索を可能にする。つまり、たとえば乳がん闘病サイト群だけを、フリーワードで検索することが可能である。 続きを読む

TOBYOからdimensionsへ

TOBYOの収録サイトが2万5千件になった。昨夜は奥山とささやかな乾杯の席を設けた。思えばずいぶん遠くまで来たものだ。TOBYOの可視化領域は拡大し、来年には3万サイトを越えるだろう。「ネット上の全ての闘病体験を可視化し、検索可能にする」というTOBYOのミッションは、少しづつ、一歩一歩、達成されつつある。

しかし、やはり疾走してきたためか、いささか疲れた。ここのところ休日なしで仕事をしてきたので、久しぶりに今日は休暇をとった。ベンチャーは「月月火水木金金」。旧日本海軍みたいなものだ。だが、闘病ユニバースの全容が徐々に可視化されてくるのを、リアルタイムに体験できるのはすばらしいことだ。

闘病ユニバースからデータを多次元に切り出す新しいツール”dimensions”はいよいよ完成。大幅に遅れてしまったが、来年からたくさんの方々に使って頂きたい。TOBYOを立ち上げてからずいぶん時間が経った。TOBYOが可視化する闘病ユニバースに蓄積された膨大な体験データを、これで十分に活用することができるようになる。 続きを読む

知りたくないこと、知らなければならないこと

pills

インターネットが登場して以来、「インターネットと医療」というテーマで今日まで夥しい議論があった。そして、そのほとんどは「インターネットによって医療は変わるだろう」という期待を楽観的に表明するものであった。では実際に何が変わったのだろうか?。そう問うてみると、答えに躊躇する現実がある。変わったのは医療それ自体というよりも、むしろ医療を取り巻く環境と言った方が良いだろう。

たとえば医療記録ということを考えると、従来、もっぱら医療者によってカルテやレセプト等で医療は記録されてきた。患者側の医療記録は「闘病記」などの形式で出版されてはいたが、費用と手間の負担からその数は限られていた。それに「闘病記」を医療記録と呼ぶかといえば、何かそぐわないような気もする。

インターネットの登場により、患者の手による医療記録が堰を切ったように公開された。当初、私たちもこれらを「ネット版闘病記」と見ていたが、やがて「作品」としてではなく、医療記録もしくはデータとしての価値を正当に評価すべきとの結論に達した。これによって、従来、医療者によって記録され医療界と行政の内部に蓄積され、一般の目には見えにくいものとして保存されてきた医療記録群の外側に、患者による事実体験の記録が新たに膨大な集積を形作り始めたのだ。私たちが「闘病ユニバース」と呼んできたのは、医療を取り巻く形で集積を始めた、これら患者の手による医療記録の集合体のことである。日本医療は、従来の医療界側の医療記録に新たに患者側の医療記録を加え、二つの視点からその事実が記録されるようになったのである。

これら患者側の医療記録集合体の中からほんの一部を取り出し、それを「闘病記」として閲覧に供するような方法では、これら医療記録集合体の持つ価値を十分に活用することはできないと私たちは考えた。そこでTOBYOプロジェクトをはじめたわけだが、TOBYOのようにどんどん闘病ユニバースを可視化し構造化していく手法は、実は、最小のリソース、最小のコスト、最小の時間で、最大の患者体験データベースを構築する方法だと思う。 続きを読む

The system formerly named as “DFC”

dimensions_logo

これまで「DFC」と呼んできた開発中の新システム”Dimensins”(ディメンションズ)のロゴが決まった。前回エントリでネームは

“Patient Experience Dimensions”

とアナウンスしたが、いささか長ったらしいのでシンプルに”Dimensions”と言い切った。

フルネームとシステム・コンセプトは”Patient Experience Dimensions”。ネット上の膨大な患者体験空間を構成する諸次元(医療機関、治療方法、医薬品他)を分解し切り出すシステム。

まず、ネット上に自分の闘病体験を公開してくれた、たくさんの闘病者の皆さんに感謝します。皆さんがネットに闘病体験を公開してくれなかったら、このようなイノベーションが実現することはなかったでしょう。そしてウェブとテクノロージーに敬意を表し感謝します。

ところでこのエントリー 「内定をくれない企業を恨む前に」は本当に実にいい話だ。深く共感した。私たちもまた、ネットとテクノロジーが好きだし、人一倍その素晴らしさを感じている。Health2.0もまた、ネットやテクノロジーが好きで、その素晴らしさを医療に活かしたいというプリミティブな情動がその基底にあるはずなのだ。だが、ネットに対する愛情のないHealth 2.0論や、陳腐なHealth2.0論が目につきだした。また他方では、ネットやテクノロジーに対する愛情も敬意も感じさせない医療関連サイトが多い。ネットへ出てきて「ネットは怖いところで危険だ」などと発言するなど、何かおかしいのではないか。本当にネットやテクノロジーが好きで、リスペクトを抱いている人間こそがHealth2.0の担い手であるはずだ。
続きを読む