PED (Patient Experience Dimensions)

shinjuku_101202

12月。新システム開発は依然として続く。いろいろと新たな難所が「こんにちは!」と顔を出してきているが、一つ一つ解決していくほかない。むろんシステム開発の遅れは、身体にも精神にも良い影響を及ぼさない。しかし、遅れることによって得られる知恵やアイデアもある。むしろサバサバした明鏡止水の心境で、これまで熟慮できていなかった諸点を考え直してみるのも良いだろう。

まず「DFC」があまりにも直截に新システムの概念規定をしてくれたように思えたので、これまであまりシステムの具体的な機能やその意味を、立ち止まって深く考えることはなかった。だが、徐々にシステムが現実に姿を表すようになってくると、次第に、むしろシステムが持つ具体的機能自体を表現する言葉が必要だと思うようになった。単に「医療消費者の生の声を直接エキスパートへ」ということでは、まだこの私たちのシステムの新しい機能や可能性を十分に言い尽くしていないと感じるようになった。

だが。この新システムの機能を説明することは容易ではなかった。このようなシステムが、これまでどこにも存在しなかったからだ。夏場にようやく仕様設計書が完成し打ち合わせをしたとき、設計者である奥山の説明にプログラマーもデザイナーもどことなく腑に落ちない顔をしていたのを思い出す。また、私自身も振り返ってみると、ブログリサーチのシステムに影響されたせいもあるが、あのファースト・ライフ・リサーチ社のように「時間軸」というものを過度に重視していたので、変な話だが、このシステムの本当の芯に位置する価値とその意味を十分には把握できていなかった。 続きを読む

TOBYOプロジェクトの現在

11月最後の日曜日。今月を振り返ると、医療情報に関する話題が多かったような気がする。日本語圏ウェブにおける医療情報の現状は、まさに「悪貨は良貨を駆逐する」ような状況にある。全体として医療界や行政などから配信される医療情報の絶対量が不足しており、根拠の定かでない情報が圧倒的に多い。ネット上の医療情報の不確かさに注意喚起するだけでなく、とにかく医療界および行政側の医療情報配信の量的拡充が望まれている。そんなことを強く考えさせられた。

さて今月、TOBYOの収録疾患数は1000件を越え、乳がん闘病サイトの収録件数は1800件を越えた。国内で1800人の乳がん体験へアクセスできるのはTOBYOだけだ。1800人の乳がん体験に、今すぐ即座にアクセスすることができる。これはGoogleなど従来の検索エンジンでは実現できないことだ。乳がんのみならず、他の疾患においても、TOBYOはすでに国内最大の闘病サイト件数を収録している。サイト総収録件数は2万5千件に近づいているが、ようやくTOBYOは闘病者のニーズに十分に応えられる量的規模に達してきたと考えている。

また1800人の乳がん闘病サイトの中から、年齢層、サイト開設年次で絞り込み、さらに治療方法、現住地、薬剤などタグで細かくフィルタリングすることによって、自分と同じような体験者の記録を簡単に見つけることができる。TOBYOが実装している機能は非常にシンプルだが、データ量が十分に確保されるにつれ、そのシンプルさが活きてくる。 続きを読む

Health2.0 SF 2010の冒頭イントロで紹介されたTOBYO


先月サンフランシスコで開催されたHealth2.0 SF 2010の公式ビデオがアップされ始めた。その中で、第一日目冒頭”Welcome and Introduction to Health 2.0″のインドゥー・スバイヤ氏の発言を見ていたのだが、なんとTOBYOのことが触れられていた。

ビデオ開始から4分48秒あたりからインドゥー・スバイヤ氏が”What’s changed in Health2.0″について「四つのステージ」の説明を始める。そのうちの第一ステージ”User Generated Healthcare”において、ブログなどUGCに着目した新しいサービスとして、データ・マイニング・アプリケーションを使ったもの、そして検索エンジンを使い広範囲のブログをインデックス化しデータを構造化し可視化するもの、と二つのサービスに言及している。これを聞いてドキッとしたが、続いてインドゥー・スバイヤ氏は「二つの企業が今日デビューする。一つは日本から、一つはイスラエルから」とアナウンスした。これはもちろんTOBYOとイスラエルの「ファースト・ライフ・リサーチ」のことである。

このようにHealth2.0コンファレンス冒頭で紹介してもらえるとは、まさに光栄の至りである。(ただ、欲をいえば「TOBYO」と実名で紹介して欲しかったなぁ)。そしてまた、私たちのTOBYOやDFCのコンセプトが、世界へ持って行っても即座に理解され評価してもらえたということが本当に嬉しい。そして、ほぼ同時期にイスラエルから登場したファースト・ライフ・リサーチとTOBYOやDFCが、UGCに着目した新しい医療情報サービスのイノベーションであることをあらためて確信した。 続きを読む

UGCソースのリサーチシステムについて

DFC_101115

開発中のDFCだが、医薬品、医療機関、医療機器、治療法など固有名詞の出現状況をテストしている。まだ全体を把握するところまできていないが、やはり基礎となるデータ量の十分な確保が何を置いても前提になることが痛感される。TOBYOの収録サイト数は今年中に2万5千件を超える見込みだが、今後も継続して積み上げを図っていくことになる。

私たちのDFCと同じような発想で開発されているイスラエルのFirst Life Researchは「16万サイト、100億レポート」を豪語しているが、掲示板やSNSなどにある闘病体験まで片っ端からクロールしているようだ。もちろんデータは多ければ多いほど良い。私たちの経験からすれば、マーケティング・リサーチに十分対応するシステムを作ろうとすると、最低でも300万ページ以上のUGCデータが必要だ。しばしば、「信頼性などデータの質の問題をどう考えているのか?」と訊かれることがあるが、UGCソース、あるいはソーシャルメディア・ソースのリサーチというものへ一歩踏み出すためには、当然、従来の「データの質」の見方も変わってくるだろう。

「量は少ないけれど質は高い」みたいなデータ観ではなく、UGCやソーシャルメディアの時代には「大量のデータを確保すれば、そこに含まれる良質のデータの絶対量も多いはずだ」というデータ観が必要になっている。データを集めるコストは劇的に下がっているのだから、前提となるのはあくまで「量」となっている。はじめから一つ一つデータの「質」を吟味するよりは、とにかく大量にデータを収集し、あとで選り分ける方が効率的だ。First Life Researchなどはこの考え方を徹底的につきつめたシステムだと言える。 続きを読む

銀杏、ハクセキレイ、システム開発

Ginnan1011

ここ数日、秋晴れの日が続いている。昨日の強風のためだろうが、昼休みに新宿御苑遊歩道を歩くと銀杏が多数散乱していた。(写真)。それを皆ばりばりと踏み潰して行くから、周囲は銀杏の匂いでいっぱいとなる。それでも、風が爽やかなので気にならない。しばらく歩いていると、見かけない小鳥が道端に降りて、何か不思議なものでも見るかのように、じっとこちらをうかがっている。小鳥の好奇心の対象になるというのも、なにか変なものだ。その仕草と鳴き声に、おもわずハチドリを想起したが、まさか、こんなところにいるわけもない。あとで調べるとハクセキレイであった。3メートルほどの間隔をおいて、双方、しばらくにらみ合い状態が続いたが、後方から多くの人が歩いてきたので近くの木陰へ飛び込んでいった。

11月に入っても、まだ延々とDFCシステム開発はつづいている。当初計画からずいぶん遅れてしまったが、まあこんなものか。とにかくこんなシステムは今までどこにも存在しなかったのだし、それに新しいチャレンジゆえの試行錯誤もあったりで、やむをえないところも多々ある。だがどうしてもストレスはたまり、ときとして爆発することもある。だから、つとめて晴れた日は新宿御苑を歩きまわることにしている。コサギやクロウなどが池で遊んでいるが、それらを見ているとストレスも減る。

12月上旬に開催が予定されているあるセミナーで「本邦初お目見え」する予定。DFCのデモンストレーションをおこなう。ま、それまでには間に合うだろうが、一日も早いに越したことはない。

三宅 啓  INITIATIVE INC.