患者の語り2.0: MyHealthStory.me


患者、家族、医療者の医療体験をビデオで傾聴する新しいリスニング・プラットフォーム“MyHealthStory.me”のベータ版がローンチされた。このプロジェクトはオランダのラドバウド・ナイメーヘン大学医療センターが主催し、Google Healthプロジェクトのリーダーを務めGoogleの医療戦略部門チーフであるロニ・ザイガー、ACOR(Association of Cancer Online Resources)のファウンダーであるジャイルズ・フリードマン、そしてe-patients.netのe-Patient Daveらが参画している。

これまでも「患者の語り」をビデオで公開するサイトはあったが、このMyHealthStoryがユニークなのは、患者、家族、医療者らが自分で撮った医療体験ビデオをYouTubeの自分のアカウントへアップロードし、クローラがそれをアグリゲートした上、最終的に医学生のキュレーションを経てサイト公開する点だ。

YouTubeへアップロードした自分の医療体験ビデオには、ユーザーが“Myhealthstory”とのタグを付け、これをMyHealthStoryのクローラーが自動判別し、ビデオのエンベッド・リンク・データだけを持ち帰るような仕組みになっているようだ。

これらのシンプルでしかもクールな仕組みによって、サイト側で映像データや映像ツールを持つ必要がなく、まさに軽量かつ低コストでサービスが提供できるわけである。もちろんビデオ撮影などにともなう制作費用や時間も、ユーザーが負担するからコスト・ゼロである。つまりUGCのメリットを最大限利用することによって、まさに「患者の語り2.0」を実現しているわけだが、患者だけでなく「医療者の語り」を公開するところも注目される。 続きを読む

データ・ルネッサンス

Big_Data2

スティーブ・ジョブズ逝く。享年56歳。その偉大なチャレンジ精神に敬意を表し、ご冥福を祈りたい。

この春からMacBook Airを使いはじめたが、たしかにこのユーザー・エクスペリエンスは、Windowsマシンで得られることはないものだ。そう言えば、昔、AppleⅡ j-Plusを大枚はたいて買って以来だから、実はもう30年近いAppleユーザーであるとも言えるのだが、その間、長期にわたってDOS→Windowsがメインになっていた。AppleⅡはまだ押入れにしまったままで、「そのうち定年になって時間ができたら、いろいろいじって遊んでみよう」などと考えていた。しかし、その「定年」近い年齢になって、まさか「ベンチャー」をやっていようとは思ってもいなかった。

さてdimensionsはやっとありがたくも成約段階まで来たが、その後いくつか改善点が判明し、現在そのための最終チューニングに取り組んでいる。また昨年来、このブログであれこれdimensionsの価値や意義というものを思考実験してきたが、最近考えているのは前回エントリでも触れた「ビッグ・データ」との関係である。

たしかに、TOBYOからdimensionsへ続く私たちのプロジェクトは、ビッグ・データをめぐる今日の「データ・ルネッサンス」と交差していくことになるだろう。日々、おびただしい量の患者体験ドキュメントが生み出されネットに公開されているが、このような人間が作る医療データだけではなく、今後は各種センサーやガジェット類など、機械が医療データを量産し、ネット上に大量に自動送出することになるだろう。この両方の医療ビッグ・データをアグリゲートし構造化するサービスが求められるわけだが、もちろん私たちのdimensionsはその一翼を担うものであると考えている。

続きを読む

「ビッグ・データ」の胎動

Big_Data

今週サンフランシスコで開催されたHealth2.0カンファレンスで、「ビッグ・データ」という言葉に注目が集まったらしい。そう言えば、この春頃からこの言葉はあちこちで目につき、気になっていたのだが、どうやらその出所はマッキンゼー・グローバル・インスティチュートが5月に発表したレポート“Big data:The next frontier for innovation,competition,and productivity”であるようだ。 このレポートでは特に医療におけるビッグ・データの価値について言及しており、米国医療における潜在的な価値は年間3000億ドル、医療支出削減効果は年間8%としている。

今回のHealth2.0カンファレンスでは、主催者のインドゥー・スバイヤ氏がビッグ・データについて特に発言し次のように述べている。

“This year at Health 2.0 I think we’re beginning to see technologies really for the first time doing that intelligent mining, archiving, presenting and visualizing of this information,” (Health2.0 News “Experts Weigh In on Big Data Tools”)

続きを読む

Patients 2.0

Patients2.0

先週は台風のため大阪で立ち往生した。帰りの新幹線が全面ストップとなり、やむなく大阪で一泊することになった。それでもかつての後輩と、久しぶりに楽しくビールを飲みながら語り合えてよかった。中之島界隈は高層ビルが立ち並び、すっかり景観が変わってしまい驚いた。

さて、昨日からサンフランシスコではHealth2.0カンファレンスが開幕している。今年は新たにPatients2.0というムーブメントが立ち上げられたようだ。これはサンディエゴの春季カンファレンスでキックオフされたムーブメントで、「ブランディング・ワークグループ、データ・ワークグループ、ペイシェンツ・ニーズ・ワークグループ」の三つのワークグループから成っている。Health2.0ではおなじみのジェーン・サラソーン=カーンがまとめ役をしているようだ。

なかなかユニークなムーブメントで、従来の患者会等とはだいぶイメージが異なるようだが、今更言うまでもなく、本来Health2.0の主役にして中心に位置するのは患者であるべきはずだ。しかしどちらかと言えば、これまでのカンファレンスでは患者は単独の主役としては登場していなかった。それがようやく「主役」として登場しようとしている。これはHealth2.0ムーブメントにとって大きな出来事だ。Patients2.0ムーブメントの今後に注目したい。

日本でも来月、第三回目となる”Health2.0 Tokyo Chapter”が開催される。昨夏、六本木ヒルズで開かれて以来、久しぶりの開催となる。その後、どんな新しいスタートアップ企業が登場しているか楽しみである。またこれは当方の勝手な希望だが、可能であれば何らかの形で「主役」の患者が登場して欲しいと思う。

三宅 啓  INITIATIVE INC.

Health2.0の再構築: スコット・シュリーブの場合

CrossoverHealth

前回エントリでスコット・シュリーブの野心的なチャレンジ”Crossover Health”を紹介したが、その後、この新しい医療提供サービスのことをあれこれ考えているうちに、スコット・シュリーブに触発されて、Health2.0が直面するさまざまな問題をかなり明確に把握できるような気がしている。たとえばこれまで私たちは、ともすればHealth2.0をWeb2.0のアナロジーで説明するような、きわめて雑な手つきで扱ってきたのではなかったか。このことは間違いであったと思う。

スコット・シュリーブは、昨年初頭、Pew Internet & American Life Projectのスザンナ・フォックスが発表したエントリ”What’s the point of Health 2.0?”を「非常に限定されたHealth2.0定義に偏っている」と批判し、次のように述べている。

「私は、これまでいつもHealth2.0を”ムーブメント”として見てきた。そして、それはテクノロジーによって多くを定義されるものではなく、むしろテクノロジーが可能とすることによって定義されるものである。”enabler”(イネーブラー:可能とするもの)としてのテクノロジーは、人々が新しいことを新しい方法ですることを助けることができる。しかし私は、テクノロジーそれ自体が、真に医療、健康行動、あるいは医療供給自体を変えるパワーを持つとは信じていない。」(“Getting Real: Can Health 2.0 Stay Relevant?”

続きを読む