患者、家族、医療者の医療体験をビデオで傾聴する新しいリスニング・プラットフォーム“MyHealthStory.me”のベータ版がローンチされた。このプロジェクトはオランダのラドバウド・ナイメーヘン大学医療センターが主催し、Google Healthプロジェクトのリーダーを務めGoogleの医療戦略部門チーフであるロニ・ザイガー、ACOR(Association of Cancer Online Resources)のファウンダーであるジャイルズ・フリードマン、そしてe-patients.netのe-Patient Daveらが参画している。
これまでも「患者の語り」をビデオで公開するサイトはあったが、このMyHealthStoryがユニークなのは、患者、家族、医療者らが自分で撮った医療体験ビデオをYouTubeの自分のアカウントへアップロードし、クローラがそれをアグリゲートした上、最終的に医学生のキュレーションを経てサイト公開する点だ。
YouTubeへアップロードした自分の医療体験ビデオには、ユーザーが“Myhealthstory”とのタグを付け、これをMyHealthStoryのクローラーが自動判別し、ビデオのエンベッド・リンク・データだけを持ち帰るような仕組みになっているようだ。
これらのシンプルでしかもクールな仕組みによって、サイト側で映像データや映像ツールを持つ必要がなく、まさに軽量かつ低コストでサービスが提供できるわけである。もちろんビデオ撮影などにともなう制作費用や時間も、ユーザーが負担するからコスト・ゼロである。つまりUGCのメリットを最大限利用することによって、まさに「患者の語り2.0」を実現しているわけだが、患者だけでなく「医療者の語り」を公開するところも注目される。
一方、英国から始まり日本でもサービスインしている「ディペックス」では、ビデオ収録や編集プロセスにかなり専門的かつ厳密な手続きを課しているらしく、今日では当たり前になっているUGC利用さえ、今だに正当に評価する姿勢もないようだ。だから時間も費用もかかる高コスト体質の「研究プロジェクト」になっており、それを厚労省の科研費でまかなっているが、そのプロジェクト発想もウェブ観も、古すぎて時代遅れになっているのではないか。
(「ディペックス」については故戸塚洋二氏も指摘していたが、組織体として、NPOと研究の境界が不分明な点に強い違和感を持たざるをえない。純粋に学術的な「研究」なのか、それともNPOの「事業」なのかがはっきりせず、不透明感が強い。いったい、研究費(税金)がNPO事業の資金になるという図式が許されるものであろうか。研究や事業をやるのは自由だが、事業は自分達でリスクを取り、自前で資金調達するのが筋である。)
いささか脱線したが、専門家だけが、特権的かつ独占的にコンテツを制作し閲覧に供するような「伽藍の時代」は、Web2.0やHealth2.0のムーブメントによって終わろうとしている。知の創造・共有・交換の「バザールの時代」にあって、今回のMyHealthStoryの誕生はむしろ当然のことであり、日本でもこのようなプロジェクトが医療分野に登場してきて欲しい。というか、時間があれば自分が作ってしまいたい。誰でもすぐにできるはずだ。税金を無駄に費消することなく。
三宅 啓 INITIATIVE INC.