前回エントリでスコット・シュリーブの野心的なチャレンジ”Crossover Health”を紹介したが、その後、この新しい医療提供サービスのことをあれこれ考えているうちに、スコット・シュリーブに触発されて、Health2.0が直面するさまざまな問題をかなり明確に把握できるような気がしている。たとえばこれまで私たちは、ともすればHealth2.0をWeb2.0のアナロジーで説明するような、きわめて雑な手つきで扱ってきたのではなかったか。このことは間違いであったと思う。
スコット・シュリーブは、昨年初頭、Pew Internet & American Life Projectのスザンナ・フォックスが発表したエントリ”What’s the point of Health 2.0?”を「非常に限定されたHealth2.0定義に偏っている」と批判し、次のように述べている。
「私は、これまでいつもHealth2.0を”ムーブメント”として見てきた。そして、それはテクノロジーによって多くを定義されるものではなく、むしろテクノロジーが可能とすることによって定義されるものである。”enabler”(イネーブラー:可能とするもの)としてのテクノロジーは、人々が新しいことを新しい方法ですることを助けることができる。しかし私は、テクノロジーそれ自体が、真に医療、健康行動、あるいは医療供給自体を変えるパワーを持つとは信じていない。」(“Getting Real: Can Health 2.0 Stay Relevant?”)
Web2.0のテクノロジーを医療に持ち込めば、お手軽にHealth2.0が出来上がるのではない。それらテクノロジーは「イネーブラー」ではあっても、ただちに医療を変えるものではない。このようなスコット・シュリーブの主張はどこへ向かうのであろうか。Crossover Healthを見る限り、それは医療の提供(供給)方法とファイナンスの革新という方向へ向かっているように思える。すなわち「制度」あるいは「システム」としての医療を、実際に変えてしまうことである。
だが、長年の巨大なイナーシャ(慣性)がついてしまった制度・システムを変えることこそ容易ではない。スコット・シュリーブは、それを一種の業態革新というやりかたで突破しようとしているのである。誰もが着手する前に諦めてしまうようなことを、彼は「従来医療保険の”外部”に位置する会員制医療提供サービス」という新規業態開発によって実現しようとしているのである。
Crossover Healthのビデオを見ればわかるが、診療予約システム、PHR、処方箋システムなど、Health2.0のさまざまなツールが、当たり前のようにさりげなくサービスシステムに組み込まれている。顧客に提供されるのは個々のツールの個々の機能ではなく、システム全体として統合された総合サービスなのである。なぜなら、消費者に取って医療は総合サービスであり、それらを個々の機能に分解しては意味をなさないからだ。
このように考えてくると、たとえばGoogle Healthがなぜ失敗したのか、今やはっきりしている。Google HealthはPHRという単なるツールの単なる機能だけを、医療の総合性から切り離して提供しようとしたから失敗したのだ。だから、たとえばまずPHRだけを単独で作るような発想、あるいは処方箋システムだけを単独で作るような発想。これらはすべて失敗するだろう。それがGoogle Health失敗の教訓である。これらは医療テクノロジー2.0ではあるかもしれないが、真のHealth2.0(医療2.0)ではないだろう。
スコット・シュリーブはCrossover Healthにおいて、まず最初に医療提供方法自体を変えるべく業態開発から着手し、そこへさまざまなツール群をアサインし、従来にない医療総合サービスを創造しようとしている。そのようなやり方でHealth2.0を再構築したのだ。なるほど、これが医療2.0(Health2.0)なのだ。
三宅 啓 INITIATIVE INC.