Health2.0ブロード・ビジョンと市場機能

health2.0broadvision

Health2.0の定義については、まずスコット・シュリーブ医師の労作があげられるが、他にもさまざまな人々によるHealth2.0定義が発表されている。もとよりHealth2.0は、Web2.0の流儀に基づいて発展しており、教条的な定義や硬直した権威とは無縁のムーブメントである。それゆえ単一の「定義」にこだわる必要はあまりないとは言え、何か新しい考え方や世界観を説明するには、やはり相応の共通認識を作り上げていく努力も求められる。

先週発表されたブライアン・クレッパー氏とジェーン・サラソーン・カーン氏の共同作業による”A Broad Vision of Health 2.0″は、Health2.0の定義というよりは、Health2.0を構成する主要パーツとそれらを結ぶデータフローの大枠を示した一枚もののシンプルな全体像である。

副題には「透明性のためのデータ再公式化、意思決定支援、そして医療市場再活性化」とあるが、この副題にクレッパー氏とカーン氏が考えるHealth2.0像が要約されている。ともすれば、われわれはHealth2.0をこの図の右上に配置されているUser-Generated Content周辺のサービスに限定してしまいがちであるが、スコット・シュリーブ氏と同じくこの両氏も「医療全体を変革するムーブメントとしてのHealth2.0」という考え方をしている。ではどのようにして医療変革をおこなうのか。端的に言って「市場機能」を有効に使ってである。

スコット・シュリーブ氏なども含めHealth2.0の論客たちにシェアされている共通認識がある。それは、米国医療の「高コスト、低パフォーマンス体質」という問題が、米国医療業界の「市場」としての機能不全に起因する、という認識である。さらにその市場機能不全を招来している原因は、「価格とパフォーマンスの不透明さ」にあると指摘されている。価格とパフォーマンスが不透明であるから、サービス購買者はいわば目隠し状態で医療機関、医師、治療方法を選択せざるをえない。つまり米国医療は、圧倒的に「売り手優位、買い手劣位」の市場になっているというわけだ。

「医療過程の結果を見る、そして知ることができないことが、医療を構成するすべての分野でご都合主義カルチャーをはびこらせてきたのだ。これら(Health2.0によって実現される機能)に由来する今までに例のない透明性は、患者、医療者、ヘルス・マネジャー、購買者らのための意思決定支援機能と同じく、他の業界の市場を支配しているのと同じルールに医療を従わせ始めているのである。医療ステークホルダーに充実したデータに基づくインフォームド・ディシジョンが可能となったとき、コストとクォリティに対するインパクトが変わるかもしれないのだ」。(A Broad Vision of Health 2.0,Brian Klepper and Jane Sarasohn-Kahn.カッコ内は筆者加筆)

日本でこのような医療ビジョンを言うとすると、すぐさま「市場原理主義」とか「ネオリベラリズム」といったレッテル張りと批難の大合唱が起きそうである。だが、医療をサービスとして考えると、そこには売り手と買い手が存在し、価格があり、結果があるということは当然のことではないだろうか。

また、もしも、売り手と買い手の間に極端な情報の非対称性があるとすれば、それは「目隠し購買」と同じである。このような状態では、買い手側は常にリスキーな選択をせまられ、猜疑の眼を売り手に向けるのも当然である。

“A Broad Vision of Health 2.0″の詳細については、またあらためて報告したい。

<関連情報>

Health2.0ブロードビジョン:ノート1

Health2.0ブロードビジョン:ノート2

Health2.0ブロードビジョン:ノート3


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