医療サービス流通の新しい波

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医療分野のアルファーブロガーとして知られるエイミー・テンダリッチ氏が主催する“Diabetes Mine”に、昨日11日、”Express-Checkout Diabetes Care?”と題するエントリーがポストされた。このエントリーを読みながら、新しい医療サービス流通の可能性について考えさせられた。

エイミー・テンダリッチ氏はこのエントリーで、近年のリテールクリニックの伸長に触れ、そのメリットを次のように要約している。

  • 予約要らず
  • 一週間7日営業
  • たいていの医療保険が適用可能
  • 毎日インフルエンザ予防接種

そしてブログの読者に次のように呼びかけている。

「そこでみんな。糖尿病にMinuteClinic(注:リテールクリニックのチェーンブランド)のコンセプトはどうだろう。私には、特に何百万人のタイプ2患者に極めて有効に思える。この患者たちは、彼らが必要とする治療と指導を得るために、たいていはアクセス問題で苦労しているのだ」。

エイミー・テンダリッチ氏はさらに、この考え方に賛同してくれる糖尿病専門家として、ピッツバーグ大学糖尿病研究所のリンダ・シミネリオ博士を挙げ、その論文を紹介している。

「糖尿病の教育とマネジメントのセンターは、MedExpress(注:リテールクリニックのチェーンブランド)モデルに基づいて設立されるかもしれない。必要な時に、人々はそこへサービスを利用しに来ることができる。このようなセンターはショッピング・モールやウォルマート・ストアに設置されることもありえるだろう。薬剤師と看護師は教育者として従事し、薬剤、検査機器、ダイエットと運動についての質問に答えるだろう。看護師は薬物を調整したり、コントロールに取り組む人々にライフスタイルを変えることを提案したりできるように訓練されるかもしれない。当分は、医師がこれらの決定をしなければならないのだが」。

このシミネリオ博士の考察をもとに、テンダリッチ氏は次のように述べている。

「ロウコスト糖尿病ケアを提供する、特化型コビニエンス・クリニックの新しいビジネスモデルはどうだろう。そこには確かに、非常に大きな市場がある。2020年までにアメリカの糖尿病患者は5000万人に達するという推定があるのだ。」
「そして、立地が良く、どうせショッピングをすることになるまさにその場所で、糖尿病検査、薬剤処方、栄養アドバイスなどのワン・ストップ・ショップを持てたら、なんとすばらしいことか。」

リテールクリニックは、まさにテンダリッチ氏が上記に述べているような理由で、米国全土で急速に拡大し始めている。リテールクリニックは消費者の医療ニーズをインサイトし、これに対応する利便性を軸とする新たな価値を生み出すことに成功しているのだ。

対して米国医師会は不快の念を示し、リテールクリニック反対のロビー活動まで展開し始めた。これら一連の動きを見ていると、かつて70年代-80年代に日本で起きた「大規模流通チェーン対地場商店街」という流通戦争が想起される。その後、この流通戦争がいかなる道筋をたどり、いかなる結末を招来したかは、あらためてここで言うまでもない。消費者は一度は大規模チェーンの利便性を選択しながら、さらにその消費ニーズを高度化させていき、それに追いつけなかったダイエーのような「かつての覇者」は転落を余儀なくされたのである。

米国リテールクリニックはまだ導入期にあるとはいえ、すぐ目前に成長期は見えている。どうやら医療業界において「流通革命」が30年-40年遅れではあれ、ようやく始まったのではないだろうか。エイミー・テンダリッチ氏のエントリーは、リテールクリニックがいかに糖尿病患者のニーズに即応できる可能性を秘めているかを指摘している。

どうやら、医療サービスの「流通革命」は、リアルの世界におけるリテールクリニックのような大規模多店舗展開チェーンの出現、そしてバーチャルの世界におけるウェブ医療情報流通革新、という二つの側面が同時に進行するような、そんな図式が徐々に見えてきているのではないだろうか。そしてこのリアルとバーチャルは、徐々に、そして相互に一体結合化されていくのだろう。

たとえばリテールクリニックは、「規模の経済性」と「要員装備の軽装化」(医師は不在)によるロウコスト・オペレーションを実現するビジネスモデルであるが、ウェブなどIT装備によってさらに提供サービスの高度化を追及していくはずだ。

三宅 啓  INITIATIVE INC.


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