医療を変える会員制医療提供サービス: Crossover Health


ここ数年、Health2.0ムーブメントをウォッチングしてきたが、今や世界的な広がりを持ち始めたこのムーブメントの中心的理論家は、ファウンダーのマシュー・ホルト氏でもインドゥー・スバイヤ氏でもない。それはスコット・シュリーブ医師である。2006年暮れ、ドミトリー・クルーグリャク氏をはじめとする”Health Train”グループとHealth2.0グループの論争が勃発したが、Health2.0のアウトライン・ロジックを構築し戦略的方向性を提起して論争を征したのがスコット・シュリーブ医師だった。

その後、マシュー・ホルト氏はHealth2.0のコンセプトとして「アンプラットフォーム」を新たに打ち出したが、これはどうも精緻さに欠け、さしたる成果をあげていないように見える。昨年秋、SFカンファレンスで発表されたHealth2.0発展サイクル論も、どうも牽強付会の感が強すぎ、新しいものが何も提起されていないように思えた。

そこで当方など、もっぱらスコット・シュリーブの言動に注目してきたわけだが、昨年来、主だったステージから忽然と姿を消してしまった。だがこの間、スコット・シュリーブはまったく新しい医療提供サービス“Crossover Health”の開発に取り組んでいたのである。

そう言えば、スコット・シュリーブはオープンソースEHR”WorldVista”開発に参画し、またDTC検査サービス“MyMedLab”の起ち上げにも参画していた。卓越した理論家であるばかりでなく、優れた実践家であり起業家でもあるわけだ。

“Crossover Health”は主だったHealth2.0サービスとは違い、単なる医療情報サービスではない。それは新しい医療サービスそのものだ。従来の医療保険からアンバンドリングされた会員制医療サービスと言えばよいのだろうか。そういえばスコット・シュリーブは、Health2.0をテクノロジーだけでなく、ファイナンシングまで含めた広い捉えかたをすべきだと主張していた。情報サービスだけでなく、価格や患者体験、サービス品質まで含めたトータルな新しい医療のあり方を創るムーブメントとしてHealth2.0を考えていたのだ。

そして単にそれらビジョンを言葉で語るだけでなく、実際にワークするサービス実体として作り上げ、新しい医療提供サービスとして現実に起動したところがさすがである。ちなみに昨年末、当方は

Don’t talk about 2.0. Do it!

ということをブログで書いたわけだが、 まさにそのことをスコット・シュリーブが体現してくれたわけだ。

“Crossover Health”のビデオを見ると、「なるほど次世代医療サービスとは、こんなふうなイメージか」と納得させられる。これまでHealth2.0シーンで登場したさまざまな情報サービスを、医療本体を軸として統合したようなイメージだ。いや「イメージ」ではなく、もうすでにこのサービスは現実に運用されているのだ。

あらためて言うまでもなく、本来、医療は総合サービスである。いくら素晴らしい医療情報サービスが登場しても、それは所詮、総合サービスとしての医療を構成する一つのピースに過ぎない。情報サービスによって、ただちに患者の疾患が癒えるわけもない。Health2.0は医療提供自体に結びつくチャネルを持たなければ、迂遠なサービスの集合体で終わってしまうだろう。

このCrossover Healthの登場によって、これまでぼんやりしていたHealth2.0のビジョンが視界良好となった。価格からサービス品質まで含め、ここから本当に医療が変わるような予感がする。会員制総合医療サービス。素晴らしい!

三宅 啓  INITIATIVE INC.


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