Across The Universe


もう9月。早いなあ。あっという間に夏が立ち去って行った。今年ももう三分の二が過ぎた。暑い夏だったが、TOBYOプロジェクトは着実に前進した。dimensionsは7月にサービスインしたものの、その後、マシン・リソースを見なおし、マシン構成を組み替えてきたが、システム全体がスムーズに稼働するまでにかなり時間を要した。特にディスティラーがかなり計算パワーを費消することがわかったが、あえて「こちら側」に計算マシンを配置することで乗り切った。24時間マシン稼働体制なので、夜間の排熱には気を使った。暑い夏の夜が一層熱くなったわけで、秋風が吹きはじめてほっとしている。

またこの夏、dimensionsのプレゼンを何回かやったが、そのたびにスライドを修正することになった。それは主として闘病ユニバースの扱いをめぐってであり、TOBYOプロジェクトの原点とも言うべきこの闘病ユニバースの重要性は、いくら強調しても強調しすぎることはない。TOBYOプロジェクトが他の医療情報サービスと異なるのは、この闘病ユニバースというまさにネット的な存在に立脚しているところだと思う。

私たちはこれまでよく「医療からネットを見るのではなく、ネットから医療を見る」という言い方をしてきた。従来から医療周辺にあったいろいろなものを、単にネットで再現したり伝達したりするのではなく、従来はなかったがネットによってはじめて出現したものから、逆に批判的に従来の存在物を見るということが必要だと考えた。

たとえば従来からあった「闘病記」ではなく、新たにネット上に出現した闘病サイトの「新しさ」をどう評価するかのほうが、はるかに私たちには重要だったのだ。そしてそれら闘病サイトが、全体としてルースなコミュニティへ向け自己組織的に発展している光景を目の当たりにして、従来の患者会やコミュニティではない、医療に関する新しい知識集合体が形成されていることを確信したのだ。

 強力な、地球規模の対話が始まっている。インターネットによって、知識情報を共有する新しい方法が、目の眩むような速度で発見され、創りだされている。結果として、市場はより賢くなっている。企業よりも速いスピードで賢くなっている。

かつては企業が市場の編成に貢献していたが、情報化された市場はそういった企業よりも速く自己編成しはじめている。WEBのおかげで、市場はより情報化され、賢くなり、そして現在ほとんどの企業に欠けている質をより厳しく求めるようになっている。

ウェブ・マーケティングのバイブルと言われる”The Cluetrain Manifesto”の冒頭は、以上のように宣言している。同じことが医療でも起きていることを認識しなければ、医療分野で新しいことを始めることはできない。凡庸で退屈なネット理解で、「ネット上の医療情報の正しさ」とか「著作権」などと寝言を言って済ましている時代は、もうとっくに終わっていることに気づかなければならない。

闘病ユニバースというまさにEmergencingな現象を見てわかるのは、患者が情報共有と相互学習によってますます賢くなっていることである。病気に立ち向かい克服するための知恵が誰にでも開かれており、また、誰もが自分の体験したことや、そこから自分が得た知恵を自由に知識集合体に付け加えることができるのである。

そして闘病ユニバースは、どうやら新しい発展段階に来ていると思われる。これまで闘病ユニバースの最小単位は闘病サイトやブログであり、相互接続は限定的であったが、もう少し積極的にそれら同士を結ぶ線が引かれる段階に来ているのかも知れぬ。それはひょっとしてツイッターやFacebookによって結ばれていくことになるのか、あるいはまだ見ぬ新たなサービスによって結ばれるのか。いずれにせよ、闘病ユニバースの今後の姿を思い描く時期に来ているような気がする。

TOBYOプロジェクトの次のテーマも、その辺りにあるのかもしれない。この夏を通して、いろいろ考えをめぐらしていた。

“Across The Universe” by The Beatles

三宅 啓  INITIATIVE INC.


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