二つの医療コアデータ

nanten

今月でこのブログも開設三周年を迎える。いや、とにかく時間のたつのは早い。三年前の2006年12月のエントリタイトルを改めて見てみると、やはり「闘病体験の共有」や「闘病記の考察」など、TOBYOプロジェクトのコンセプトを固めるために書かれたものが多い。

これまで何度も書いてきたが、私たちはTOBYOプロジェクトにたどり着く前に、ピッカー研究所の調査メソッドをモデルに「患者体験調査」システム開発を模索していた。患者が実際に体験した事実に基づいて医療機関を評価しようと考えていたのだが、この「患者が実際に体験した事実」というものが、わざわざ新たに調査するまでもなく、既にブログや個人サイトの「闘病記」として大量に公開されていたのである。つまり調査システムを新たに開発する必要はなく、既にネット上に存在する体験ドキュメントを参照すれば済むことに気づいたわけである。

このように思い返してみると、私たちは最初から調査データという側面で闘病体験ドキュメントを捉えてきており、それは今日にいたるまで変わっていない。その後このブログでは、「闘病記」という括りで闘病体験ドキュメントを見ることから徐々に離れていくことになる。「闘病記」というリアルパッケージのメタファーでのみウェブ上の闘病体験を捉えるとすれば、新しい医療サービスの創造などは見えず、むしろ「闘病記」の評論や研究や出版サービスなどの方向へ進むことになっただろう。むろん、闘病記の評論や研究などは自由であり、否定するつもりはない。だが、私たちが進む道はそれらではないのだ。 続きを読む

どうして医療ソフトウェアがタダになるのか?

FREE

話題の書「フリー <無料>からお金を生み出す新戦略」(クリス・アンダーソン)を大変興味深く読んでいる。医療関連のケーススタディとしては、このブログでも紹介した「無料EHR」のPractiseFusion社が取り上げられている。

2007年11月以降、サンフランシスコに拠点を置く新興企業のプラクティス・フュージョン社の無料ソフトウェアに、数千人の医師がサインアップして、電子カルテと医療業務管理ツールのシステムを利用している。そうしたソフトウェア製品は通常5万ドルはする。なぜ同社は電子カルテシステムを無料で提供できるのだろうか?(同書、139ページ)

この問に対する答えは次のようなものである。

データを売るほうが、ソフトを売るよりも儲かる

医師一人当たり250人の患者を受け持つとすれば、最初のユーザー医師2,000人から50万件の医療データが集められる。このデータを匿名化し医学研究機関に売ると1件あたり50ドルから500ドルで売れる。もしも1件あたり500ドルであれば売上総額は2.5億ドルになる。これは医師2,000人に対し、5万ドルのEHRシステムを売って得られる1億ドルよりも大きな収入である。また、PractiseFusion社のEHRはAdSenseなど広告掲載タイプが無料、広告なしタイプが月額使用料100ドルという「フリーミアム+広告」モデルであり、この両者からの収入も加算されるわけだ。 続きを読む

成長するリテールクリニック(コンビニ診療所)

RetailClinic2014

ここ数年、米国で医療の新業態として脚光を浴びてきたリテールクリニックだが、昨年の大不況の影響もあってかその成長は遅々として進んでいない。だが、今月になって大手コンサルティングのデロイト社が発表した予測レポートによれば、2011年頃からの成長期が見込まれ、2010年時点の全米1,00件程度が2014年には3,000件を越えるとのことである。

よく「コンビニ診療所」と言われるリーテールクリニックだが、医師に代わり看護師の診療でコストダウンをはかり、ショッピングセンター立地で24時間365日営業など、消費者に利便性とリーズナブルな医療を提供しようというもの。現在、市場はMinuteClinicとTakeCareの両チェーンで72%のシェアを取るなど寡占状態だが、WalMartグループなどは地元ローカル診療所との提携を進めており、さらに薬局との併設を追求するチェーンもあり、今後多様化が進展すると言われている。 続きを読む

中心空洞論

ここのところ日本のウェブ医療サービスについて、その過去から現在までをあらためて見直したりしている。細かいことは置くとして、結局、一言要約すれば「『ど真ん中』がポッカリ空いている」という感想に尽きる。

日本のウェブ医療サービスの先行ポータル組は、なぜか総合医療ポータルへは進化せずに、「病院検索サイト」というカルデサックへ迷い込んでしまったようである。そのために日本においては、いまだにYahooや楽天やmixiなどと肩を並べるブランド認知を持つ医療・健康ポータルは登場していないのである。なぜか日本のウェブ医療サービス界は中心が空洞のまま、さしたる話題もなくこの10数年を過ごしてきたのである。なぜこうなったのか。

たとえば近年、米国でWebMDに果敢な戦いを挑んだスティーブ・ケース率いるRevolutionHealthだが、開発投資総額は約5億ドルであった。これに対し日本のウェブ医療サービスでは、まとまった開発投資をするプレイヤーが結局いなかったということか。3-4年前に商社などが参画して立ち上げ、少しばかり話題になった「医療・健康ポータル」でも、たしかRevolutionHealthの投資総額と比べると2ケタほども違いがあったような・・・・・。 続きを読む

読売新聞の医療サイト「yomiDr.」(ヨミドクター)

yomidr先月29日、読売新聞は医療・介護・健康情報サイト「ヨミドクター」を開設した。新聞社の医療情報サイトはこれまで各紙が展開してきているが、この「ヨミドクター」はいくつかユニークな特徴を打ち出している。なかでも「病院の実力」は「病院選びの強い味方」をキャッチフレーズに、アウトカム情報に一歩近づいた医療評価データを提供しており注目される。

全国約3,000病院の独自調査をもとに、病名と地域を選ぶことで、病院ごとの患者数や手術件数、専門スタッフなどが一覧で見られるサービスです。データを自由に並べ替えることができ、地方発の病院情報もネットで初めて提供する目玉コーナーです。(プレスリリース「読売新聞が、頼れる・役に立つ医療サイト「ヨミドクター」をオープン」より)

これは上の画面写真のようなスプレッドシート形式で、病名・疾患ごとに病院の治療状況を一覧比較できるもの。画面写真はおそらく「乳がん」治療の実施状況の画面だろうが、全摘手術から温存療法までの各治療法構成比率を、病院間で比較することができる。これまで、単に手術件数を病院ごとに集計するムックなどはあったが、この「病院の実力」はそこからさらに踏み込んで、詳細な病院ごとの治療状況を提供している。 続きを読む