ブログ衝動

impulse

これがこのブログの802件目のエントリとなる。いつの間にか800エントリを越えていたのだが、そういえばこのブログも来月3周年を迎えることになる。「TOBYO開発ブログ」の名の通り、このブログはTOBYOプロジェクトを開発するためにアイデアやニュースを書き留めたものである。そのうち既に実現したものもあるし、まだ実現のめどが立たないものもある。

しかし、プロジェクト開発のための覚書きと思考実験のためだけにブログを書き始めたのではなかった。その事に先立って、「書く」という行為の方へ自分を衝き動かしたものがあったはずなのだ。あるいはそれを「ブログ衝動」と呼ぶことができるかもしれない。今にして考えてみると、800エントリを書かせた「ブログ衝動」とは、ある種の「違和感」であり「苛立ち」であったと思う。そしてその違和感や苛立ちは、医療界およびその周辺で語られる言説に対するものである。 続きを読む

医薬品の検索連動広告規制に対するGoogleの提案

先週、米国FDAが医薬品ネット広告規制についての公聴会を開催した。FDAはこの春、製薬会社14社に対し、Googleなどの検索連動広告を使っての医薬品広告が、法律が定めるリスク情報表示を含んでいないと公開書簡で警告した。その後、FDAはインターネットとソーシャルメディアにおける医薬品のプロモーション活動に関する政策決定へ向けた検討を始めているが、今回の公聴会はその一環である。

この公聴会でGoogleはプレゼンテーションをおこない、FDAの意向に沿う新しい検索連動広告の標準テンプレートを提案した。Googleによれば、春以降、FDA書簡による指導によって、医薬品の検索連動広告は大幅にクリックスルーレートを落としているとのことである。

どうやらFDAは、これまで「グレーゾーン」であった医薬品の検索連動広告やFacebookなどのSNS内広告の規制に本格的に乗り出すようだ。

三宅 啓  INITIATIVE INC.

Googleがインフルエンザワクチンのファインダーツールを公開

Flu_Shot_Finder

GoogleはHHS(米国保健社会福祉省)と協同し、GoogleMapを使って、新型インフルエンザと季節インフルエンザのワクチンを接種できる場所を探すツール「Flu Shot Finder」を公開した。郵便番号か都市名を入力すると、周辺地図に赤と青の注射器マークがマッピングされる。赤は季節インフルエンザ、青は新型インフルエンザ、そして赤青混在は両方のインフルエンザンのワクチン接種拠点を示している。

上図はシカゴ周辺のワクチンマップだが、通常の医療機関だけでなく、MinuteClinicのようなリテールクリニックやWalGreensなど薬局量販店などもワクチン提供拠点になっている。なお、このワクチンマップはまだ全米の20州しかカバーしておらず、また各拠点のワクチン在庫情報表示も遅れがちだということだが、HHSから最新情報の提供を受けて漸次改善していくそうだ。

これは先に公開されたアウトブレークマップと共に、すぐに役立つ便利なサービスだ。これまで医療情報システムと言えば、何か重厚長大でべらぼうにお金のかかるシステムを想像しがちだったが、実際には、こんなふうに状況に機敏に対応する小さくて軽いサービスこそが必要なのだ。

三宅 啓  INITIATIVE INC.

視線逆転の考察

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ここ10年程の日本のウェブ医療サービスを眺めてみると、昨日エントリで指摘したような特定サービス(病院検索)への集中の他に、医療情報の扱い方の変化に触れないわけにはいかないだろう。10年前を振り返ってみると、とにかく「医療情報の信頼性」ということが特に問題にされていたと思う。ここから医療関連サイトの認証、レギュレーションコード、認定マーク制定などが提起されたのだが、これらはウェブ上の医療情報フローに規制の枠をはめようとするものであった。

今にして振り返ってみると、これら医療情報規制論には、一定の方向性を持つ一つの「視線」というものが前提とされていたように思える。当時新しく登場したウェブと医療の関係性をどのように考えるかを問う際に、「医療界からウェブへ向けられた視線」がいわばアプリオリに、暗黙裡に前提されていたのではなかったか。従来医療を従来どおり継続する上で、ウェブがどのように利用でき、どのように不都合であるかを医療界から発せられた視線で見ていたのではなかったか。このような方向を持つ視線の上に、伽藍的な「医療情報規制論」が成立していたと考える。これら規制論は医療情報を供給する側の論理に立脚するものであり、医療情報を利用する側の論理やニーズは無視されていたのである。 続きを読む

過去、現在、そして未来

Shinjuku0911

少し前から、必要があってここ10年くらいの日本のネット医療サービスを概観し、あらためてその現状と可能性を検討している。結論から言ってしまえば、日本では米国のWebMDのような巨大総合医療ポータルがいまだ登場していないということだ。WebMDに代表される1.0的な医療ウェブサービスの在り方に対し、Health2.0は消費者参加型サービスを様々に生み出し、この二三年の間に米国のウェブ医療サービスは飛躍的に多様化した。そのような米国のウェブ医療サービスの進化プロセスを見ていると、日本ではいまだ「Health1.0」の段階にも到達していないのではないかとさえ思う。

日本におけるウェブ医療サービスは病院など医療機関検索サービスから出発し、そしていまだにこれが主流になっている。たとえば日本でWebMDに近い位置にあるとおもわれる「ここカラダ」だが、キャッチフレーズは「病院検索ならここカラダ:病院検索など医療の総合情報サイト」であり、まず病院検索サイトであることを自ら公言している。他のクチコミ評価や医療コンテンツなどを取り入れたサイトなども、基本的には病院検索サービスを中心に提供するものであり、このように見てくるとここ10年くらいの間に先行し、現在上位に位置するウェブ医療サービスのほとんどすべてが病院検索サイトであることがわかる。

これら日本のウェブ医療サービスの一極集中ぶりをどう見るかだが、このようなスタイルへと帰結させたものは、あるいはビジネスモデル上の制約かもしれない。端的に言って、収益源というものがきわめて限定されているからだ。そのことにここでは立ち入らないが、これらサイトのトップページを眺めて見れば、そこに或る種の共通点があることに気づくはずだ。だが問題は、ウェブ医療サービスの多様性というものがきわめて貧弱になっている点にある。 続きを読む