少し前から、必要があってここ10年くらいの日本のネット医療サービスを概観し、あらためてその現状と可能性を検討している。結論から言ってしまえば、日本では米国のWebMDのような巨大総合医療ポータルがいまだ登場していないということだ。WebMDに代表される1.0的な医療ウェブサービスの在り方に対し、Health2.0は消費者参加型サービスを様々に生み出し、この二三年の間に米国のウェブ医療サービスは飛躍的に多様化した。そのような米国のウェブ医療サービスの進化プロセスを見ていると、日本ではいまだ「Health1.0」の段階にも到達していないのではないかとさえ思う。
日本におけるウェブ医療サービスは病院など医療機関検索サービスから出発し、そしていまだにこれが主流になっている。たとえば日本でWebMDに近い位置にあるとおもわれる「ここカラダ」だが、キャッチフレーズは「病院検索ならここカラダ:病院検索など医療の総合情報サイト」であり、まず病院検索サイトであることを自ら公言している。他のクチコミ評価や医療コンテンツなどを取り入れたサイトなども、基本的には病院検索サービスを中心に提供するものであり、このように見てくるとここ10年くらいの間に先行し、現在上位に位置するウェブ医療サービスのほとんどすべてが病院検索サイトであることがわかる。
これら日本のウェブ医療サービスの一極集中ぶりをどう見るかだが、このようなスタイルへと帰結させたものは、あるいはビジネスモデル上の制約かもしれない。端的に言って、収益源というものがきわめて限定されているからだ。そのことにここでは立ち入らないが、これらサイトのトップページを眺めて見れば、そこに或る種の共通点があることに気づくはずだ。だが問題は、ウェブ医療サービスの多様性というものがきわめて貧弱になっている点にある。昨年から、日本でも私たちのTOBYOをはじめいくつか2.0を志向するサイトが誕生したが、まだその数は少なく、多様な医療サービス群をウェブにもたらすほどではない。もっと多様なサイトが登場してほしいが、やはり医療という分野は他のすべての産業セクターよりも遅れているのだろうか。あるいは医療分野の敷居が、他の産業セクターよりも高いように見えるのだろうか。様々な人から医療ウェブサービスの可能性について訊かれるが、それらの問いはあえて「敷居の高さを確認する」ために発せられることが多いような気がする。あらかじめ自分たちで想起した「高い敷居」というものがあり、まるでこの「予断されたる敷居」を再確認するだけで満足しているかのようだ。
以上のように、目下、ここ10年くらいの日本のウェブ医療サービスを総括したり再検討したりしているのだが、もちろんそれもTOBYOプロジェクトの今後の進路を固めるためである。未来は過去と現在を結ぶ延長線上にはないのだが、あらためて日本のウェブ医療サービスを見なおしてみると、今まで気づかなかったいくつかのポイントがあることが分かった。
そして今、闘病記専門検索エンジン「TOBYO事典」の改良バージョン公開へ向け最終段階に来ている。最近、徐々に「TOBYO事典」の使用頻度は高まっているが、このような従来にないバーティカル検索エンジンに対する強いユーザーニーズの存在をあらためて実感している。これからも継続して技術的なパワーアップを図っていくが、一方では用途開発の方も重要性を増していると認識している。世界初ともいえる闘病体験バーティカル検索エンジンを、どのような用途へ展開していくか、これは今後のTOBYOプロジェクトの重要な課題だ。
三宅 啓 INITIATIVE INC.
この議論とても興味があります。
今後、医療システムが更に大きく変わると思いますし、風を読むのが難しいかもしれません。
「治してくれる医師を探す」という意味合いで患者が積極的に検索エンジンを探す場合を想定し、私は入院中に複数の医師にインタビューをしたのですが、病院の個性は、病院の方針ではなく医師(医長)の方針が大きいみたいなので、外部からは見えにくいみたいです。