視線逆転の考察

Line_of_Sight

ここ10年程の日本のウェブ医療サービスを眺めてみると、昨日エントリで指摘したような特定サービス(病院検索)への集中の他に、医療情報の扱い方の変化に触れないわけにはいかないだろう。10年前を振り返ってみると、とにかく「医療情報の信頼性」ということが特に問題にされていたと思う。ここから医療関連サイトの認証、レギュレーションコード、認定マーク制定などが提起されたのだが、これらはウェブ上の医療情報フローに規制の枠をはめようとするものであった。

今にして振り返ってみると、これら医療情報規制論には、一定の方向性を持つ一つの「視線」というものが前提とされていたように思える。当時新しく登場したウェブと医療の関係性をどのように考えるかを問う際に、「医療界からウェブへ向けられた視線」がいわばアプリオリに、暗黙裡に前提されていたのではなかったか。従来医療を従来どおり継続する上で、ウェブがどのように利用でき、どのように不都合であるかを医療界から発せられた視線で見ていたのではなかったか。このような方向を持つ視線の上に、伽藍的な「医療情報規制論」が成立していたと考える。これら規制論は医療情報を供給する側の論理に立脚するものであり、医療情報を利用する側の論理やニーズは無視されていたのである。

さらに重要な問題は、このような視線に立つ限り、ウェブは医療を変えるいかなる可能性も持つことはできないということだ。ウェブ医療サービスが誕生しようとした時期に、先行するかたちで規制論が跋扈し、結果として新しいチャレンジを委縮させてしまったことは、日本のウェブ医療サービスの進化発展にとって非常に不幸なことであった。現状のような日本におけるウェブ医療サービスの貧困、あるいは昨日エントリで指摘したような病院検索サービス等への集中などは、この時期に準備されたことだと思う。ウェブ医療サービスに関心を持つ者に、いわば「暗黙的な敷居の高さ」を植え付けてしまったということだ。

さてそれから10年が経過し、さらに世界各地で台頭するHealth2.0ムーブメントを経て、今度は以上のような「視線」を逆転させることにより、逆にウェブから、あるいは消費者からの視線で医療を見ることになった。そのような視線から見れば、「Web as Health Care Platform」という新しいウェブと医療の関係が見えてくる。さらに新しいウェブ医療サービスが、今度は医療情報を利用する側の論理に立脚して構築されるのだ。

そしてTOBYOプロジェクトに即して言わせてもらえるなら、この視線の逆転は「医療を利用する側(消費者、闘病者)が作り出す情報」の価値を認め、それを共有し、それを最大限に活用することの可能性を可視化した。医療界から社会にフローする医療情報に対して、もう一つの情報流を作り出し、利用者視点から医療を見ることが、最終的に医療を変えることになるはずなのだ。TOBYOは、このような視線を可能にするためのツールをめざしている。

三宅 啓  INITIATIVE INC.


視線逆転の考察” への1件のコメント

  1. Health2.0ムーブメントは私も注目しております。
    専門家としての医療者は、外圧による動揺を極度に嫌がる風潮があるので、患者にとっても医療者にとっても「利」となる媒体が、医療側と患者側を繋げるに至るのだと想像します。

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