読売新聞の医療サイト「yomiDr.」(ヨミドクター)

yomidr先月29日、読売新聞は医療・介護・健康情報サイト「ヨミドクター」を開設した。新聞社の医療情報サイトはこれまで各紙が展開してきているが、この「ヨミドクター」はいくつかユニークな特徴を打ち出している。なかでも「病院の実力」は「病院選びの強い味方」をキャッチフレーズに、アウトカム情報に一歩近づいた医療評価データを提供しており注目される。

全国約3,000病院の独自調査をもとに、病名と地域を選ぶことで、病院ごとの患者数や手術件数、専門スタッフなどが一覧で見られるサービスです。データを自由に並べ替えることができ、地方発の病院情報もネットで初めて提供する目玉コーナーです。(プレスリリース「読売新聞が、頼れる・役に立つ医療サイト「ヨミドクター」をオープン」より)

これは上の画面写真のようなスプレッドシート形式で、病名・疾患ごとに病院の治療状況を一覧比較できるもの。画面写真はおそらく「乳がん」治療の実施状況の画面だろうが、全摘手術から温存療法までの各治療法構成比率を、病院間で比較することができる。これまで、単に手術件数を病院ごとに集計するムックなどはあったが、この「病院の実力」はそこからさらに踏み込んで、詳細な病院ごとの治療状況を提供している。病院の医療品質の可視化は、アウトカム(結果)情報の公開によってのみ可能になるのだが、この点で日本は米国などに比べ大きく後れをとっている。病院および医師ごとの手術成功率や死亡率などまでカバーしなくてはアウトカム情報とは言えないのだが、とりあえずそこへ向けたチャレンジとして「病院の実力」は評価できるのではないだろうか。

日本の病院比較のための客観指標公開は、非常に貧弱な状態にある。米国では病院および医師個人のレーティング・サービスがあり、消費者は簡単に様々な比較情報を入手できるのだが、日本では皆無に等しい。消費者が一番欲しがっているのは病院や医師個人のアウトカム情報だが、今のところこれはクチコミでしか入手できない情報になっている。

厚労省は「医療水準均てん化の推進」などと「医療格差」を認めない方針を打ち出しているようだが、一方で「病院の実力」の差は厳として存在する。であるならば、むしろこの「実力差」の現実を客観指標で把握公開したうえで、「均てん化」とやらをめざすべきではないのか。また医療界側はこれまで「患者の重篤度の違い」など、アウトカム情報の補正技術の困難性などを理由に情報開示を渋ってきたが、なぜ、既にノウハウと実績を持つ米国に学ばないのか。

また、アウトカム情報は手術成功率など医療自体のパフォーマンス測定データと、患者満足度や患者体験など消費者視点での医療評価データの二つの側面がある。日本ではアウトカム情報と言えばパフォーマンス測定データだけを論じる傾向が強いが、米国HCAHPSや英国CHIのような消費者視点の医療評価プロジェクトの存在にもっと注目すべきだと思う。

そういえば、米国で1990年代初頭からアウトカム情報が積極的に公開されたきっかけは、ニューヨークタイムズなど新聞社が、独自に医療機関のアウトカム情報を収集し公開したからだと言われている。その意味で今回の読売新聞社の取り組みと、今後の各新聞社の情報収集活動に注目したい。

三宅 啓  INITIATIVE INC.


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