「評論家」や「啓蒙家」を超えて行け

critic

今日、TOBYO収録の闘病サイト件数は2万件を超えた。二年前、2千件でスタートしたときには、まさか2万件も収録することになろうとは思ってもみなかった。だが決して平坦な道を一目散に疾走してきたわけではない。実はこの間、何度も逡巡を繰り返してきた。「量的拡大だけで良いのか」という問が常にあったからだ。しかし、やがて「ネット上のすべての闘病体験を可視化する」とのプロジェクトミッションが出来上がり、さらに「コアデータに基づく事業化」という事業戦略が明確になってみると、以前のさまざまな逡巡は徐々に吹っ切れたわけだ。

「量から質へ」などと方向転換についてこのブログで書いたこともあった。だが、やはり十分な量の確保がなければ、質だけを抽出することは現実問題として不可能である。このことは直接「闘病ドキュメントの評価方法」の問題に関わってくるのだが、「なるだけクオリティの高いものを選び出したい」と思う反面、自分たちが選考するよりもユーザーに委ねるべきだとも思えた。何度も、このような相矛盾する観点の間を往復し逡巡していたわけだ。 続きを読む

医療へ向けられた新しい視線

佐々木俊尚さんの「ネットがあれば履歴書はいらない」(宝島社新書)には、医療に関するネット利用の問題もいくつか取り上げられていて興味深い。たとえば「プライバシー問題」などについても、「ネット上に自分の病気を公開することのメリット」を強調するなど、世界的な新しい動向を踏まえた記述があり、これまでの医療関係類書にはない「ネット的」な視点が随所に見られ好感を持った。

同書に紹介されたロバート・スコーブルの“Health privacy is dead. Here’s why:”はこのブログでも一年前のエントリ「医療プライバシーは死んだ」 で取り上げたが、たしかに今日のネットではプライバシーを公開するメリットのほうがデメリットを上回る事態が現実のものとなってきている。現にPatientsLikeMeなどはこのような情況を先取りして立ち上げられたサービスであり、従来の硬直的なプライバシー観のもとでは許容されることさえなかったはずだ。同書に指摘されているように、「プライバシー」は普遍的概念ではなく歴史的所産であり、時代の要請によって変化していくものだ。 続きを読む

バザール型医療情報サービスへ

bazaar

TOBYOプロジェクトでは今、DFC(Direct From Consumer)商品の試作品製作に着手している。いろいろ検討したが、当面、統合失調症関連のいくつかの医薬品についてDFCレポート試作品を作る予定だ。今後アイテムを増やしていき、最終的に有料サービス「DFCライブラリー」にまとめ上げる予定。まず医薬品から患者体験によって可視化していくが、今後、医療機関、医療機器、治療法、検査法などへ展開していく予定。

さて、これらDFCとDTCによる事業化のほかに、もうひとつどうしても実現したいことがある。それは「バザール型サービス」である。このブログではこれまでたびたび「伽藍とバザール」というテーマでエントリを書いてきたが、これは言うまでもなくエリック・レイモンドによるオープンソースのソフト開発についての同名の論文 、そして2007年に開催された第一回Health2.0カンファランスにおけるスコット・シュリーブのスピーチに触発されたものである。 続きを読む

TOBYOプロジェクトとコミュニティ

hands

TOBYOプロジェクトは三年目に入ったが、紆余曲折を経てようやく基礎工事が終わったということだと思う。収録サイト2万件というサイズが、事業を進める上での最低ラインであることもここへきて良くわかる。この「2万」という数字自体は、インターネットのスケール感から見てむしろ小さい数字だ。それでもTOBYOプロジェクトの事業化にとっては十分に土台となる。

これまでいろいろな人からいろいろな助言や忠告を受けた。その中で「なぜコミュニケーション機能がないのか」あるいは「なぜコミュニティを持たないのか」という声は常に聞こえてきた。もちろんこの二年間に、そのような機能拡張を考えたことがなかったわけではない。だが、できるかぎりシンプルなツールであることの方が、結局、中途半端な多角化に優るとの確信があった。もちろんリソースの問題もあるが、中途半端なコミュニティは必ず失敗することを私たちは過去の経験で学んできたのである。 続きを読む

2万人の闘病体験

crowd

なんとか来週中にはTOBYO収録の闘病サイトは2万件になるはずだ。これで日本ではじめて2万人が体験した医療事実が可視化され、さらにそれら事実によって「日本医療の現実」が可視化されることになる。日本では医療機関ごとのアウトカム(治療結果)データはほとんど公表されていない。仮に公表されていたとしてもそれは医療機関側の勝手な基準にもとづくデータであり、他の医療機関と比較することはできず、結局、消費者の医療選択にほとんど役立っていない。

アウトカムデータだけでなく、日本では「医療情報過多における医療情報飢餓」という奇妙な事態が起きている。書店には多数の「病院ガイド」本が並び、ネット上にはあふれるほどの「医療情報」がありながら、肝心の医療選択のために必要な具体的データは手に入らないのである。そのため、これまで日本の消費者は病院選択一つとってみても、身内や知人などの狭いクチコミ情報に頼らざるをえなかったのである。

TOBYOが収集した闘病体験は一般論や建前理念などではなく、どれも生身の患者自身が実際に体験した「切れば血の出るような事実」である。とにかくこれら「2万人が体験した事実」を実際の医療選択に活用していただきたい。 続きを読む