Health2.0の再構築: スコット・シュリーブの場合

CrossoverHealth

前回エントリでスコット・シュリーブの野心的なチャレンジ”Crossover Health”を紹介したが、その後、この新しい医療提供サービスのことをあれこれ考えているうちに、スコット・シュリーブに触発されて、Health2.0が直面するさまざまな問題をかなり明確に把握できるような気がしている。たとえばこれまで私たちは、ともすればHealth2.0をWeb2.0のアナロジーで説明するような、きわめて雑な手つきで扱ってきたのではなかったか。このことは間違いであったと思う。

スコット・シュリーブは、昨年初頭、Pew Internet & American Life Projectのスザンナ・フォックスが発表したエントリ”What’s the point of Health 2.0?”を「非常に限定されたHealth2.0定義に偏っている」と批判し、次のように述べている。

「私は、これまでいつもHealth2.0を”ムーブメント”として見てきた。そして、それはテクノロジーによって多くを定義されるものではなく、むしろテクノロジーが可能とすることによって定義されるものである。”enabler”(イネーブラー:可能とするもの)としてのテクノロジーは、人々が新しいことを新しい方法ですることを助けることができる。しかし私は、テクノロジーそれ自体が、真に医療、健康行動、あるいは医療供給自体を変えるパワーを持つとは信じていない。」(“Getting Real: Can Health 2.0 Stay Relevant?”

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医療を変える会員制医療提供サービス: Crossover Health


ここ数年、Health2.0ムーブメントをウォッチングしてきたが、今や世界的な広がりを持ち始めたこのムーブメントの中心的理論家は、ファウンダーのマシュー・ホルト氏でもインドゥー・スバイヤ氏でもない。それはスコット・シュリーブ医師である。2006年暮れ、ドミトリー・クルーグリャク氏をはじめとする”Health Train”グループとHealth2.0グループの論争が勃発したが、Health2.0のアウトライン・ロジックを構築し戦略的方向性を提起して論争を征したのがスコット・シュリーブ医師だった。

その後、マシュー・ホルト氏はHealth2.0のコンセプトとして「アンプラットフォーム」を新たに打ち出したが、これはどうも精緻さに欠け、さしたる成果をあげていないように見える。昨年秋、SFカンファレンスで発表されたHealth2.0発展サイクル論も、どうも牽強付会の感が強すぎ、新しいものが何も提起されていないように思えた。

そこで当方など、もっぱらスコット・シュリーブの言動に注目してきたわけだが、昨年来、主だったステージから忽然と姿を消してしまった。だがこの間、スコット・シュリーブはまったく新しい医療提供サービス“Crossover Health”の開発に取り組んでいたのである。

そう言えば、スコット・シュリーブはオープンソースEHR”WorldVista”開発に参画し、またDTC検査サービス“MyMedLab”の起ち上げにも参画していた。卓越した理論家であるばかりでなく、優れた実践家であり起業家でもあるわけだ。 続きを読む

Across The Universe


もう9月。早いなあ。あっという間に夏が立ち去って行った。今年ももう三分の二が過ぎた。暑い夏だったが、TOBYOプロジェクトは着実に前進した。dimensionsは7月にサービスインしたものの、その後、マシン・リソースを見なおし、マシン構成を組み替えてきたが、システム全体がスムーズに稼働するまでにかなり時間を要した。特にディスティラーがかなり計算パワーを費消することがわかったが、あえて「こちら側」に計算マシンを配置することで乗り切った。24時間マシン稼働体制なので、夜間の排熱には気を使った。暑い夏の夜が一層熱くなったわけで、秋風が吹きはじめてほっとしている。

またこの夏、dimensionsのプレゼンを何回かやったが、そのたびにスライドを修正することになった。それは主として闘病ユニバースの扱いをめぐってであり、TOBYOプロジェクトの原点とも言うべきこの闘病ユニバースの重要性は、いくら強調しても強調しすぎることはない。TOBYOプロジェクトが他の医療情報サービスと異なるのは、この闘病ユニバースというまさにネット的な存在に立脚しているところだと思う。 続きを読む

dimensionsと日本の医療マーケティングの現状

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いろいろなところへお邪魔し、Mac Book Airでプレゼンしているが、相手先プロジェクタとのマッチングに手間取ることがある。ほとんどの企業ではXGAがデフォルトの解像度設定であり、WXGAなどワイド画面対応はまだ少ないようだ。春以来、プレゼンはすべてKeynoteのワイドモード画面で作っているので、今更、「4:3」画面に戻るのもめんどうだし、Lionの新機能を使って、複数のデスクトップ間とアプリ全画面表示をスピーディーに切り替えたり、Safariでページを高速移動することができず、テンポのある見せ方ができなくなってしまう。困ったものだ。

さて、この夏、dimensionsのサービス構成を見なおしてきた。いろいろな方々からのご要望を傾聴し、また価格メニューなどはっきりしていなかった部分を明確化した。それによって、dimensionsのサービスメニューは大きく「dimensions BASIC」と「dimensions CUSTOM」に分けることになった。

「BASIC」では、広大な闘病ユニバースの中を、ユーザーが縦横に探索するための汎用ツールを提供する。当面の提供ツールはディスティラーとX-サーチだが、これは今後増やしていきたい。「CUSTOM」だが、こっちは文字通り、カスタム・ソリューションのためのデータ集計および出力などのサービス群から成っている。二つにサービスを分けることは、これまでもぼんやりとイメージしていたのだが、あらためて明確化したほうが良いと判斷した。 続きを読む

新サービス「闘病CHART」: 患者話題ランキングとバーティカル検索の連動

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暑い。日本全国、夏休み。それでも熱く仕事は続く。熱気を帯びて湯気の出るアイデア創発も続く。冷蔵庫で美味しそうにゴロンと冷えているビールとスイカが力源だ。

先月サービスインしたdimensionsは、おかげさまで早速各方面から強い関心とお声がけを頂戴している。ところで先日エントリ「dimensionsの基本フレーム」 でも触れたが、実際にシステムを運用ベースにのせてみると、かなりのリソースが必要になることが分かってきた。特に全体としてデータ処理のスピードアップが求められるため、目下、従来のリソース・システムを組み替え、新システムへ移行中である。

さて表題の「闘病CHART」であるが、これはdimensions開発の成果を、今度はTOBYOや他の患者向けサービスへ転用しようというものだ。たとえば「乳がん患者が話題にしている薬品ベスト20」、「アトピーの患者が話題にしている治療法ベスト20」、「胃がん患者が話題にしている病院ベスト20」など病名別チャートを設置し、チャートインしたアイテムをクリックすればバーティカル検索をかけ、即座に薬品名など各アイテムについての患者の体験とレビューを表示するサービスだ。

これは、dimensionsのディスティラー(Distiller)が実現しているキイワード抽出およびリスティング機能に基づいている。ディスティラーでは病名ごとに上図のようなリストを作っているが、ある時、このリストを見ながらその意味を考えているうちに、これが患者がネット上で言及している「薬品、治療法、医療機関、検査・機器」分野それぞれの話題ランキングであることに気づいた。

これらのランキングはTOBYOのサイト属性データをベースとしており、特定病名ごとの患者ドキュメントを正確に切り出すことができる。つまり、たとえば乳がんの患者だけ、肺がんの患者だけ、関節リウマチ患者だけの話題薬品ランキングを最新チャートとして提供できる。そしてこのチャートとTOBYO事典を組み合わせることで、チャートインした個別アイテムの患者体験検索が即座に可能となる。 続きを読む