医師コミュニティの考察: SermoとQuantiaMDをめぐって

この前ご紹介したQuantiaMD Japanに「プライベート・ディスカッションズ」機能が追加された。これは招待制のディスカッション・ルームで、使い方として「自分の診断に対してセカンドオピニオンが欲しいとき。同じグループで患者に関するディスカッションが必要なとき。院内の連絡事項やニュースの共有。書類の共有。知り合いの医師と連絡を取りたいとき。」などを想定しているようだ。

最初、このサービスはSlideShareの医療版のように見え、コミュニティ機能は弱いように思えたが、今回の「プライベート・ディスカッションズ」の追加によって医師SNSとしての基本的体裁は整えられた。「SlideShareの医療版」という点も、単純でありがちな着想に見えるが、実は非常にイノベーティブなアイデアだと思う。エントリやコメント単位ではなく、プレゼン・スライドという情報単位が医学情報に親和性が高いからである。プレゼン・スライドであれば、文字情報だけでなく図、写真、動画、音声などの情報を簡単に取り込むことができる。これらプレゼン・スライドをデータベース化すれば、ビジュアルな医学百科事典ができあがるだろう。

またQuantiaMDは、収載スライドを一般ユーザーにも公開している。これまでの医師コミュニティは一般ユーザーをシャットアウトし、中でどんな新しい医学的知見が配信・共有されているかを見ることはできなかった。QuantiaMDでは公開スライドを通して、患者が自分の病気について最新の医学情報を学ぶことができる。患者向けのスライドやツールも用意されている。以前も言ったことがあるが「Health is SOCIAL」なのだ。医学情報は密室コミュニティに封印するのではなく、広く社会的公開をめざすべきだろう。その意味で、あくまでこれは当方の希望的観測だが、今後、医師SNSは密室コミュニティから、患者や社会との接点を意識したオープン型コミュニティへ移行するのではないか。つまりSermo型の「医師だけのコミュニティ」の時代は終わり、社会に開かれた医師コミュニティの時代の到来を、このQuantiaMDの登場は告げていると考えられる。 続きを読む

Welby糖尿病クラウド

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クラウド・ベースの糖尿病治療管理サービスが登場。Welby糖尿病クラウド。シンプルで分かりやすく、使いやすそうなアプリだ。よく出来ている。昨日(1月24日)のNHK「おはよう日本」でも紹介されたようだ。

ウェブ医療サービスも、これまでは情報提供型サービスが多かったが、これからは具体的に治療に接点を持つツールや、治療に関わるサービスが増えてくるのではないかと思う。話題になっているうつ病サイトの“U2plus”なども、これらの流れが具現化したものの一つだろう。「コミュニティ」という点で見ても、”U2plus”は従来の「患者コミュニティ」とは違った位置づけになっていると思う。

ところで、このWelby糖尿病クラウドを開発したのは、メドピアに在籍しておられた比木さんである。比木さん、独立され、幸先良いスタートを切られてよかったですね。サービスインおめでとうございます。果敢なチャレンジに敬意を表し、今後のご活躍、ご健闘をお祈り申し上げます。

三宅 啓  INITIATIVE INC.

全米最大のオンライン・モバイル医師コミュニティが日本へ:QuantiaMD Japan

昨夏から日本語サービスが始まったQuantiaMD。今年から、日本人医療者のコンテンツが配信されている。QuantiaMDは「医師コミュニティ」と銘打っているものの、医師エキスパートのプレゼンテーションによるオンライン学習と最新の医療情報提供サービスがメインになっている。だが患者向けコンテンツも提供されており、このあたりが従来の医師SNSと違うところ。また「症例クイズ」や「CME」(ポイント・システム)などユニークなコンテンツやサービスも用意されている。

今後、医師SNSが国境を越えて展開されることは大いにありうるだろう。すでに英語圏では医療情報は国境を越えているが、国際的な医療情報の共有が、医療の進化に加速度をつけることはまちがいない。

三宅 啓  INITIATIVE INC.

診療の現場をまるごと可視化: ダイアローグ・リサーチ

Verilogue

早いもので10月も今日が最後。明日から11月だ。夜毎に虫の声も少なくなったが、静かな秋の夜長をゆっくり過ごすのも楽しいものだ。

さて、私たちが開発したTOBYO dimensionsは、端的に言えばネット上に患者が公開したドキュメントに基づく患者体験データベースであり、また、日々更新され膨張を続ける闘病ユニバースを継続的に傾聴するためのリスニング・プラットフォームでもある。このような医療情報の集め方は従来にないものだが、医療を可視化するという意味では、他にも方法はあるはずだと考えたりしていたが、とうとう画期的な方法が登場した。

それは「ダイアローグ・リサーチ」つまり「対話」の調査である。この「対話」とは、診察室で実際に交わされる患者と医師の対話のことだ。2007年に起業したVerilogue社は、診察室でやりとりされる「患者-医師」対話をまるごと録音し、そのデータをインサイトへ変換し”point-of-practice”との商標のもとに製薬企業や医療マーケティング企業へ提供している。「診療の現場」というこれまで人目に触れなかった「聖域」まで可視化するという意味では、最近日本で議論されている「検察や警察の取調べ現場の可視化」と通底するものがあるかもしれない。

同社ではすでに70疾患、6万件の診察室での「患者-医師」対話データを蓄積しており、現在40社以上の製薬企業をビジネスパートナーとして獲得している。また一方ではB2Cビジネスとして、これらデータを使って「CareCoach」 という消費者向けサービスもはじめている。なるほど「患者-医師」対話データは、プロフェッショナルだけではなく、たしかに消費者・患者にも役立つデータだ。 続きを読む

医療をロックするインキュベータ: Rock Health

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前エントリで米国Health2.0シーンの活況ぶりに触れたが、その後出たデータを見ると、第三四半期(7月-9月)におけるベンチャーキャピタルの医療ITスタートアップに対する投資総額は2億3百万ドルで、これは第二四半期(4月-6月)の6千6百万ドルの約三倍になっている。同時に、医療IT企業間のM&Aも活発に行われており、第三四半期は総額47億ドルに達している。

第三四半期における、主な医療ITスタートアップのVCからの資金調達は以下のとおり。

  • ZocDoc          7500万ドル
  • Awarepoint       2700万ドル
  • CareCloud        2010万ドル
  • One Medical Group  2000万ドル
  • SeeChange Health   2000万ドル

おもわずヨダレが出そうな状況だが、これに加え、米国政府のスタートアップ支援によるイノベーション促進政策を追い風として、医療ITスタートアップ支援へ向けたインキュベータ組織&個人が次々に立ち上がっている。

・The Startup Health, Jerry Levin

・Entrepreneur and philanthropist Esther Dyson

・Digitas Health Co-founder Linda Holliday

・Health 2.0 co-founders Matthew Holt and Indu Subaiya

・Blueprint Health

・Health technology startup accelerators Rock Health

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