今年後半、TOBYOがフォーカスする二つのポイント

TOBYOプロジェクトが、今年後半へ向け取り組もうとしている活動については、エントリ「TOBYOプロジェクト:年内の予定」で数値目標を中心に紹介済みである。一応、初期構想段階で想定していた基本機能に限ってみれば、現状のTOBYOでほぼ完成しているのだが、まだ完成度が低かったりするものもある。

細かいところを省略してしまえば、およそ今年後半の活動は二点に集約されると考えている。まずバーティカル検索エンジン「TOBYO事典」の改善だが、これはTOBYOプロジェクトのコアに位置する機能であるだけに重要だ。現在、着手し始めているのは新しいクローラーの開発である。従来クローラーではサイト取得率の限界があり、これを向上させなければならない。そして、現状の検索結果品質をさらに高めるために、本文抽出機能と重複取得回避機能の改善をしていく。 続きを読む

シェアする権利

昨日に続いてPatientsLikeMe関係の話題になるが、同社経営メンバーであるヘイウッド兄弟の一人ジェームズ・ヘイウッド氏が、最近、同社公式ブログに発表したエントリ「Sharing Is A Right As Well」が話題になっている。

先月、PatientsLikeMeは保健社会福祉省(HHS)人口保健統計委員会(NCVHS)の「プライバシー、守秘義務、セキュリティ小委員会」に召喚され、医療ITとプライバシー問題について証言を求められた。ジェームズ・ヘイウッド氏はこの小委員会に出席し、PatientsLikeMeを代表して同社が考えるプライバシー論を展開したのである。結論から言ってしまえば、従来のプライバシー観に対し、ジェームズ・ヘイウッド氏は人々が互いに「情報をシェアする権利」を対置し、プライバシー至上主義を批判して見せたのである。見事である。 続きを読む

米国患者SNSと欧州製薬メーカーの戦略的提携

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米国の代表的患者SNSであるPatientsLikeMeは、6月15日、ベルギーの製薬メーカーUCB社と共同して癲癇患者プラットフォームを構築する戦略的提携を発表した。このプラットフォームは2010年の早い時期に立ちあげられ、診断・予後・治療計画に関わりなく、とにかく癲癇を患っている患者すべてから得られた情報を収集、分析、研究することをめざしている。

UCB社はベルギーのブリュッセル本社の製薬メーカーだが、特に中枢神経系と免疫不全の分野にフォーカスしており、世界40カ国で1万人の従業員を擁している。同社CEOのRoch Doliveux氏は今回のPatientsLikeMeとの提携について、次のように述べている。

UCBは、長年にわたって過酷な条件にある人々の生活の改善に取り組んできた。今回の提携は、初めて患者に彼らの体験や実環境データで、現在進行中の癲癇研究に貢献することを可能にするという意味でエキサイティングなものだ。

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患者SNSと遺伝子解析サービスの提携

Patient23
米国の代表的患者SNSであるPatientsLikeMeと、Googleの遺伝子解析サービス会社である23andMeが6月9日、パーキンソン病克服プロジェクトで提携することを発表した。すでにこのブログでも取り上げたが、この春、両社はお互いに似たようなプロジェクトを相次いで起動している。PatientsLikeMeは、ALS患者コミュニティ向けに遺伝子検索エンジンの提供を開始し、ALSの原因と結果の解明および治療方法開発を加速化することを発表した。一方、23andMeは全世界から1万人のパーキンソン病患者を集めて大規模コミュニティを立ち上げ、同社の持つ遺伝子解析技術をもとに、パーキンソン病の原因と結果の解明を早めると発表している。

ALSとパーキンソン病と対象疾患は異なるものの、両社のプロジェクトは「遺伝子、コミュニティ」という共通キイワードで括ることができ、しかもまったく同じ目標を持っていたのである。「ここまで似ているのなら、一緒にやればいいのに」と思っていたが、案の定、両社の提携が正式に発表された。 続きを読む

書評:「がんと闘った科学者の記録」(戸塚洋二著、立花隆編、文藝春秋)

Totsuka_Youji

先日エントリでも紹介したが、ノーベル物理賞受賞を確実視されながら大腸がんで亡くなった戸塚洋二氏の闘病ブログが本になった。「がんと闘った科学者の記録」(戸塚洋二著、立花隆編、文藝春秋)。本書は戸塚氏ブログサイトに書かれた闘病記を中心に、戸塚氏と交流があった立花隆氏による長尺の「序文」、そして「文藝春秋」(2008年8月号)に掲載された両氏による対談「がん宣言『余命19カ月の記録』」を収録している。立花氏の「序文」では、氏が戸塚氏に送ったメールが紹介されており、次のような箇所に目がとまった。

医者とのコミュニケーションがいまひとつのご様子心配しています。ただ実際問題として、がんはまだまだわからないことが多すぎて、医者としても質問に答えたくても答えようがないというのがおそらく実情だと思います。そう言う意味からも、患者のブログを沢山集めてデータベース化するというアイデア、大賛成です。

わからないものにぶつかったときは、まずは大量のファクトの集積からはじめるべきで、それも無機的な統計データ的ファクトの集積ではなく、人間という最高の知的センサーの集合体を最大限に利用したファクトの膨大な集積をはかるべきです。

そうでないと個々の医師が持つ貧しい体験知の集積を持ってよしとする(そういう貧しい体験知しか持たない医師が権威とされ、そういう貧しい権威の集まりがガン対策の戦略を決めるのが正しいとされる)袋小路的状況下から抜けられないと思います。(「序文」) 続きを読む