2万人の闘病体験

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なんとか来週中にはTOBYO収録の闘病サイトは2万件になるはずだ。これで日本ではじめて2万人が体験した医療事実が可視化され、さらにそれら事実によって「日本医療の現実」が可視化されることになる。日本では医療機関ごとのアウトカム(治療結果)データはほとんど公表されていない。仮に公表されていたとしてもそれは医療機関側の勝手な基準にもとづくデータであり、他の医療機関と比較することはできず、結局、消費者の医療選択にほとんど役立っていない。

アウトカムデータだけでなく、日本では「医療情報過多における医療情報飢餓」という奇妙な事態が起きている。書店には多数の「病院ガイド」本が並び、ネット上にはあふれるほどの「医療情報」がありながら、肝心の医療選択のために必要な具体的データは手に入らないのである。そのため、これまで日本の消費者は病院選択一つとってみても、身内や知人などの狭いクチコミ情報に頼らざるをえなかったのである。

TOBYOが収集した闘病体験は一般論や建前理念などではなく、どれも生身の患者自身が実際に体験した「切れば血の出るような事実」である。とにかくこれら「2万人が体験した事実」を実際の医療選択に活用していただきたい。 続きを読む

PatientsLikeMeが疼痛管理サイトReliefInSiteを買収


2月16日、米国トップ患者SNSサイトであるPatientsLikeMeが、疼痛管理サービスを運営するReliefInSiteの買収を発表した。ReliefInSiteについては以前このブログでも紹介してあるので詳細は「患者と医師を結ぶウェブ疼痛日記:ReliefInsite.com」をご参照あれ。

Health2.0のマシュー・ホルトなどは「今後、患者SNSはツールと統合していく」との予測をしていたが、「今回の買収合併は自論を裏付けるもの」とコメントしている。たしかに患者SNSは単なる同病同士の人的交流の場にとどまらず、ますます「患者の問題解決」を具体的に支援する方向へ進化していくと思う。その代表格がPatientsLikeMeであるのだが、この買収によってPatientsLikeMeは会員の疼痛管理ツールを手に入れ、一層、会員の問題解決に寄与できることになる。なんといっても疼痛管理は、患者の闘病生活において大きな比重を占めているからだ。

患者SNSは早急に汎用SNSとの差別化を図らなければ生き残ることは難しい。その際、患者が求める機能を実現するツール開発は、今後ますます重要になるだろう。

ReliefInsite.comの具体的な使用例が、ビデオで公開されているので紹介しておきたい。このビデオではRSD(反射性交感神経性ジストロフィー)患者の女性が、ReliefInsiteを使って実際に疼痛管理をしている。

三宅 啓  INITIATIVE INC.

闘病ドキュメントを医療評価に活用する

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昨日のエントリをポストした後、何かモヤモヤした気分でDenise Silber氏の「レーティング対ナラティブ」という図式のことを考えていた。そして結局彼が言いたかったことは、「ナラティブという形での医療評価もある」ということに尽きると思い至った。そしてそのことは、この間、当方の問題意識が「闘病記」というパッケージから次第に離れてきたこととも関連すると気づいた。

近年、様々な形で闘病ドキュメントに対する関心が高まってきているが、それらの多くは「闘病記」というパッケージとして闘病 ドキュメントを見たり、「患者の語り」という部分に特別の拘りを示したりするような見方が多かった。本来、どのように見ようと自由なのだが、これらの見方は闘病ドキュメントの可能性を限定し捨象するもののように当方の目には映ったのである。

ネット上に出現した闘病UGCは、紙や映像メディ アにパッケージ化されるような従来の「闘病記」ではない。そこに「作品性」や「物語性」を見るのではなく、闘病者をはじめ医療プロバイダーやサプライヤー など医療関連諸集団に対し、なんらかの実践的な問題解決を生み出す力があると見るべきだ。 続きを読む

医療評価の二つの顔: レーティング 対 ナラティブ ?

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4月6日-7日にパリで開催される“Health2.0 Europe”  の概要が固まってきたようだ。 今回、ヨーロッパ側のホストを務めるのはフランスの医療ITコンサルタント会社Basil Strategies のDenise Silber氏だが、先週「Health2.0ブログ」に「レーティングかナラティブか?それが問題だ」 と題するエントリを寄稿している。

このエントリを一読してみて、まず「レーティングとナラティブ」という対比が当方には意外だった。このような対比が問題提起されたのは、おそらくはじめてではなかろうか。だが、このような対比が持ち出されたのは、あえて「米国vs欧州」という対立図式をつくりだすためではないかと思われる。すなわち

「米国=レーティング」 対 「欧州=ナラティブ」

という図式のもとに、Health2.0議論を豊富化したいとの意図があってのことだろう。

そう考えると一応は納得できるのだが、でははたして「欧州=ナラティブ」というのは事実なのか。Denise Silber氏は、英国の患者による医療機関評価サイト“Patient Opinion”とフランスの“Guide Sante” を「ナラティブ」の実例としてあげている。”Patient Opinion”は初期の当方ブログで紹介したこともあるが、まさかこれが「ナラティブ」つまり「患者の語り」サイトだと考えたことはなかった。 続きを読む

TOBYO2周年: ビジネスモデルと商品化の考察

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(「フリー」P263、クリス・アンダーソン、NHK出版、より)

TOBYOは今週の木曜日(2月18日)、アルファ版公開から2周年を迎える。2年前、収録疾患数約120件、収録闘病サイト数約2千件、検索インデックス30万ページでスタートしたが、現在は疾患数870件、闘病サイト数約2万件、検索インデックス300万ページになっている。

ところでTOBYOは、トップページタイトルの「β版」表示をまだ外していない。これは「永遠のベータ(Perpetual beta)」という2.0の考え方を踏襲する意味もあるが、一方では「まだ準備段階」であることをそのまま示してきたわけだ。そして2年が経った今、ようやく「準備」を終えることができたと考えている。ずいぶん時間はかかったが、これから事業化や商品化を本格的に始動する段階に来た。 続きを読む