「痛み」は患者の日常生活に非常に大きなインパクトを持つ。仕事をはじめ、普通の日常生活の営みを阻害するものが「痛み」であり、闘病者(患者とその家族)にとって「痛み」をどう管理するかは、闘病生活の最も大きな課題の一つである。
ReliefInsite.comは、はやく言えばウェブ版患者ペイン・ダイアリー(疼痛日記)である。患者はカレンダー形式の日記で、毎日経験した痛みを記録していく。「疼痛日記」という入りやすい入口から、ひとりでに無理なく疼痛管理を患者がしていけるような、そんなツールがReliefInsite.comなのである。
記録の主な方法は、痛みの場所を記録するには「ボディーマップ」でマッピングし、同時に痛みの強度を記録する。痛みの性質に関しては、「突き刺すような」とか「持続性のある」など痛みを表す語を選択し、その程度を5点尺度で記入する。痛みが持つ微妙な感じを、患者が表現しにくいことも考慮し、フリーアンサーではなく選択語から選ぶようになっている。また痛みの兆候について、これもあらかじめ用意された語群から該当するものを選択し、その程度を5点尺度で評価するようになっている。このほかにも痛みが日常生活に与える影響を記録する「ライフスタイル」、薬剤使用記録とその評価記録など、患者の痛みを多面的に記録することができる。
「患者が疼痛日記で痛みを自己記録していくということは、疼痛管理にとって決定的に重要な意味を持つ」とReliefInsite.comは述べている。「医師あるいは看護師として、あなたには時間が限られている」のであり、確かに医療者の患者疼痛管理には時間的制約と限界がある。これまで限られた診療時間で対応せざるを得なかったのだが、患者にしてみれば診療室以外の時と場所、すなわち自分の日常生活でこそ疼痛管理が必要であったのだ。
医療提供側の医療現場における「時間と場所の有限性」に対し、患者が必要とするのは「いつでもどこでも」、すなわち時間と場所を問わない疼痛管理である。つまり、この医療提供側と医療消費側の需給ギャップを埋めるツールを目指しているのがReliefInsite.comであると言えよう。言うまでもなく、ウェブは「時間と場所の制約」から人を解き放つのである。
患者によって作成された「疼痛日記」は、インターネットを通じて医療者と共有される。患者から見れば、自分の「痛み」をより詳しく正確に医療者に伝えるツールとして利用価値があり、また医療者から見れば、患者の疼痛モニタリングを常時利用することによって、診察室での時間をより有効に使え、提供するケアの品質向上に役立つのである。
他の秀逸なHealth2.0アプリケーションと同じように、このReliefInsite.comも非常にシンプルな機能構成をしており、鬼面人を驚かせるようなタネも仕掛けもない。だがそれは、患者と医療者双方のニーズをよくインサイトしえている。ともすれば「機能主義」に傾斜しがちな2.0関係のアプリケーションだが、ユーザーのニーズを徹底的に洞察することこそが基本であることを、このReliefInsite.comは教えてくれるのである。
三宅 啓 INITIATIVE INC.