ブログ四周年に寄せて 2

このブログを始めた頃、まだHealth2.0という明確な旗印は立っていなかったが、すでに米国を中心として、前年のWeb2.0の爆発を受け、医療分野でも新しい動きが出現しはじめていた。私は、2006年夏頃からこれら新しい動きの探索を開始したのだが、当時すでにニューヨークからユニティ・ストークらが”Organized Wisdom”を立ち上げ、患者SNS”Daily Strength”や医療バーティカル検索エンジン”Healthline”も公開されていた。

それ以来、幸運にもHealth2.0の誕生から今日に至る発展過程をすべてリアルタイムに観察し、このブログに記録することができた。PHRからPatientsLikeMeまで、このブログはHealth2.0に関連するほとんど全領域をカバーしており、最大の日本語レビューになっていると自負している。これからHealth2.0を知りたいと考えておられる方は、とにかくこのブログを初めから通読していただくのが一番手っ取り早いだろう。

さて、このブログを支えてきたのは、当方のベンチャー・プレイヤーとしてのプライドであると考えている。2006年当時、Web2.0の影響が必ず医療に波及するだろうという見通しを立てたわけだが、まだ誰も日本でそれに言及する者はいなかった。そうであれば自分で事例を探し出し、分析し、洞察し、記録していくしかない。それをやればいち早く新しい知識情報を獲得でき、新規事業アイデアの想を練ることもできる。だが、獲得した情報は秘匿するのではなく、積極的に公開し、誰でも読めるようにしておく。そうすれば日本においても、いずれHealth2.0プレイヤーが現れるだろう。つまりこのブログ自体がTOBYOというベンチャー・プロジェクトの一環であると同時に、できうれば「将来の日本のHealth2.0」へ向けた戦略情報発信装置という役割も果たしたいと考えていた。 続きを読む

dimensionsの拡張検索エンジン「Xサーチ」

X_Search

dimensions(ディメンションズ)は、大きくディスティラーとXサーチの二つの機能から成っている。これまでこのブログで、何度かディスティラーのことは説明してきたが、Xサーチについてはあまり触れてこなかった。これは「Extended Search」(拡張検索)を短くして名付けたもので、TOBYOで公開しているTOBYO事典の機能を拡張したものだ。

TOBYO事典と異なるところは、検索結果をさまざまな条件でフィルタリングすることができる点である。たとえば「病名」で絞りこむと、特定病名サイトだけの検索結果を見ることができる。TOBYO事典は闘病ユニバースのバーティカル検索エンジンであるが、Xサーチはさらに細かく特定病名だけのバーティカル検索を可能にする。つまり、たとえば乳がん闘病サイト群だけを、フリーワードで検索することが可能である。 続きを読む

知りたくないこと、知らなければならないこと

pills

インターネットが登場して以来、「インターネットと医療」というテーマで今日まで夥しい議論があった。そして、そのほとんどは「インターネットによって医療は変わるだろう」という期待を楽観的に表明するものであった。では実際に何が変わったのだろうか?。そう問うてみると、答えに躊躇する現実がある。変わったのは医療それ自体というよりも、むしろ医療を取り巻く環境と言った方が良いだろう。

たとえば医療記録ということを考えると、従来、もっぱら医療者によってカルテやレセプト等で医療は記録されてきた。患者側の医療記録は「闘病記」などの形式で出版されてはいたが、費用と手間の負担からその数は限られていた。それに「闘病記」を医療記録と呼ぶかといえば、何かそぐわないような気もする。

インターネットの登場により、患者の手による医療記録が堰を切ったように公開された。当初、私たちもこれらを「ネット版闘病記」と見ていたが、やがて「作品」としてではなく、医療記録もしくはデータとしての価値を正当に評価すべきとの結論に達した。これによって、従来、医療者によって記録され医療界と行政の内部に蓄積され、一般の目には見えにくいものとして保存されてきた医療記録群の外側に、患者による事実体験の記録が新たに膨大な集積を形作り始めたのだ。私たちが「闘病ユニバース」と呼んできたのは、医療を取り巻く形で集積を始めた、これら患者の手による医療記録の集合体のことである。日本医療は、従来の医療界側の医療記録に新たに患者側の医療記録を加え、二つの視点からその事実が記録されるようになったのである。

これら患者側の医療記録集合体の中からほんの一部を取り出し、それを「闘病記」として閲覧に供するような方法では、これら医療記録集合体の持つ価値を十分に活用することはできないと私たちは考えた。そこでTOBYOプロジェクトをはじめたわけだが、TOBYOのようにどんどん闘病ユニバースを可視化し構造化していく手法は、実は、最小のリソース、最小のコスト、最小の時間で、最大の患者体験データベースを構築する方法だと思う。 続きを読む

医療におけるデータフローのグランドデザイン

この秋サンフランシスコで開催されたHealth2.0コンファレンスのビデオが公開されている。これらを見て特に注目されるのは、Health2.0というムーブメントが、徐々に「医療データフローのグランドデザイン」という視点を獲得し始めている点である。UGC、EHR、PHR、行政等からのデータフローが、各種アプリケーションの連携によって有効に医療意思決定をサポートするような、そんなグランドデザインが描かれつつある。

シングル・ソース・データを単独アプリケーションを使ってサービス提供するようなモデルではなく、各種マルチ・ソース・データのフローを前提とした、社会的データ還流システムとして個々の医療情報サービスが統合されていくようなイメージが出てきたことが、今回のコンファレンスの特徴ではないかと思う。

コンファレンス冒頭に行われたマシュー・ホルトとインドゥー・スバイヤのプレゼンテーションを見ればわかるが、とにかく徹底的にデータとそのフローを考察することによってHealth2.0の全体ビジョンを見通そうとしている。もはや個別サービスよりも、データとそのフロー、そしてそれらを含む全体像のほうにこそ焦点が合わせられている。医療ITシステムの基礎がデータであることを、あらためて示すものであるとも言えよう。今後、データとそのフローの全体像をイメージできないと、Health2.0を理解することは困難になるだろう。 続きを読む

The system formerly named as “DFC”

dimensions_logo

これまで「DFC」と呼んできた開発中の新システム”Dimensins”(ディメンションズ)のロゴが決まった。前回エントリでネームは

“Patient Experience Dimensions”

とアナウンスしたが、いささか長ったらしいのでシンプルに”Dimensions”と言い切った。

フルネームとシステム・コンセプトは”Patient Experience Dimensions”。ネット上の膨大な患者体験空間を構成する諸次元(医療機関、治療方法、医薬品他)を分解し切り出すシステム。

まず、ネット上に自分の闘病体験を公開してくれた、たくさんの闘病者の皆さんに感謝します。皆さんがネットに闘病体験を公開してくれなかったら、このようなイノベーションが実現することはなかったでしょう。そしてウェブとテクノロージーに敬意を表し感謝します。

ところでこのエントリー 「内定をくれない企業を恨む前に」は本当に実にいい話だ。深く共感した。私たちもまた、ネットとテクノロジーが好きだし、人一倍その素晴らしさを感じている。Health2.0もまた、ネットやテクノロジーが好きで、その素晴らしさを医療に活かしたいというプリミティブな情動がその基底にあるはずなのだ。だが、ネットに対する愛情のないHealth 2.0論や、陳腐なHealth2.0論が目につきだした。また他方では、ネットやテクノロジーに対する愛情も敬意も感じさせない医療関連サイトが多い。ネットへ出てきて「ネットは怖いところで危険だ」などと発言するなど、何かおかしいのではないか。本当にネットやテクノロジーが好きで、リスペクトを抱いている人間こそがHealth2.0の担い手であるはずだ。
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