日本のHealth2.0: 2.0を語るな。2.0をやれ。

light_tower

「日本のHealth2.0」というイシューが語られるようになったのは、今年の夏、六本木ヒルズで開催されたHealth2.0 Tokyo Chapter2からだと思う。当日、私もパネルディスカッションに参加し意見を述べたが、現状を見れば事業プレイヤーの数の少なさは覆うべくもない。

私たちのTOBYOは、米国におけるHealth2.0ムーブメントに大きな刺激を受けてきた。2006年以来、米国のHealth2.0シーンはウェブ医療サービスの実験場であり、ありとあらゆるビジネスモデルが登場しては消えていった。一説では2,000社のスタートアップ企業がローンチしたとも言われている。その中で成功したとされる企業は数少ないが、とにかく膨大な量のチャレンジがこの分野に集中したのだ。成功したケースに学ぶことは必要だが、多くの失敗ケースもまた貴重な教訓をあとに続くものに語ってくれている。

その中で徐々に、「このケースはうまくいくが、このケースが成立する余地は少ない」というふうに、いくらか見通しが立てられるような状況が生まれている。だが、米国と日本では医療制度がかなり異なり、事業のフィージビリティを同一視できるわけでもない。米国における実験に学びながら、日本固有の状況に適応していく必要もある。

「日本のHealth2.0」というイシューがいくばくかの有効性を持つためには、まず何をおいてもプレイヤーの量が増えることが大前提となるだろう。20代、30代の若いファウンダーがこの分野でどんどん出現してくるような状況が必要なのだ。それがイメージできないのなら、このイシューはなんの現実的な基盤も持たず、単なる同好の士の趣味談義と変わるところはない。 続きを読む

Health2.0 SF 2010の冒頭イントロで紹介されたTOBYO


先月サンフランシスコで開催されたHealth2.0 SF 2010の公式ビデオがアップされ始めた。その中で、第一日目冒頭”Welcome and Introduction to Health 2.0″のインドゥー・スバイヤ氏の発言を見ていたのだが、なんとTOBYOのことが触れられていた。

ビデオ開始から4分48秒あたりからインドゥー・スバイヤ氏が”What’s changed in Health2.0″について「四つのステージ」の説明を始める。そのうちの第一ステージ”User Generated Healthcare”において、ブログなどUGCに着目した新しいサービスとして、データ・マイニング・アプリケーションを使ったもの、そして検索エンジンを使い広範囲のブログをインデックス化しデータを構造化し可視化するもの、と二つのサービスに言及している。これを聞いてドキッとしたが、続いてインドゥー・スバイヤ氏は「二つの企業が今日デビューする。一つは日本から、一つはイスラエルから」とアナウンスした。これはもちろんTOBYOとイスラエルの「ファースト・ライフ・リサーチ」のことである。

このようにHealth2.0コンファレンス冒頭で紹介してもらえるとは、まさに光栄の至りである。(ただ、欲をいえば「TOBYO」と実名で紹介して欲しかったなぁ)。そしてまた、私たちのTOBYOやDFCのコンセプトが、世界へ持って行っても即座に理解され評価してもらえたということが本当に嬉しい。そして、ほぼ同時期にイスラエルから登場したファースト・ライフ・リサーチとTOBYOやDFCが、UGCに着目した新しい医療情報サービスのイノベーションであることをあらためて確信した。 続きを読む

「フラット化する医療情報」時代のリテラシー

HealthLiteracy

11月12日付け毎日新聞、東京版朝刊の記事「健康情報:見極めるには リスク、便益、費用…比べ選択 事例、還元し学び合う環境を」で、ほんの少しだがTOBYOが紹介されている。この毎日新聞記事は、先月掲載された朝日新聞記事「ネットの医療情報、見極める」とほとんど同じテーマを扱っている。おそらく朝日の記事に触発されたのだろう。

記事では、「二人の中山教授」による医療情報リテラシー解説が中心になっているが、特に中山和弘・聖路加看護大教授の下記コメントに共感した。禿同。

似た境遇にある人同士の体験情報の共有は「社会的なヘルスリテラシーを上げることにもつながる」と期待する。「自分だけ良い情報をもらって良い意思決定をしようというのは難しい。成功例や失敗例を還元し、学び合う環境をみんなでつくっていく意識が必要だ」

インターネットの登場により、『上意下達式に「正しい医療情報」を拝受する』という情報パターナリズムが過去のものになり、医療情報がフラット化してしまった以上、ネット上にオープンになった情報を「ユーザーが評価し、共有し、活用し、さらに評価する」という実践的利用サイクルをまわしていくことが重要になっている。極論すれば医療情報は「伽藍」からありがたくも説教されるものではなくなり、「バザール」でオープンに価値付けされ交換され共有されるものになった。「独占的に上から降ってくるもの」ではなく、「フラットに評価・共有されるもの」へと変わったのだ。これらの結果として、「個のエンパワーメント」が強化された反面、ユーザー一人ひとりの自己責任に帰せられる部分も増えた。 続きを読む

医療SNSを簡単に、手軽に、安く作る方法

ALSUntangled

“ALSUntangled.com”は難病ALS(筋萎縮性側索硬化症)の国際研究コミュニティ。米ノースカロライナ州のデューク大学病院ALSクリニックによって主催されており、現在、世界6カ国のALS研究者とALS患者が参加し、着々と研究成果を上げている。この研究コミュニティの知識情報共有を支えているのはツイッターとSNSだが、SNSとしてあの“NING”を採用している。

もう五年ほど前になるだろうか、当時のWeb2.0ムーブメントの中でもひときわ注目されていたのがこの”NING”であった。これは高機能なSNSホスティング・サービスで、自分の思い通りにカスタマイズしたSNSを簡単に立ち上げることができる。久しぶりにNINGサイトをのぞいてみたが、トップページは完全に日本語化されていた。だがいろいろ調べてみると、どうやら広告のビジネスモデルがうまく行かなかったようで、有料サービスに移行していた。それでも利用料金は月額$2.95-$49.95と安い。ちなみに月額49.95ドル(約4000円)で提供される機能は次のようなもの。 続きを読む

ビジョンと教訓

11月に入った。夏場から開発してきたDFCをいよいよ仕上げる段階。開発の山はおおよそ越えられたものの、全体として工程は遅れ気味。。来年早々の稼働へ向け準備を進めていく。

昨日エントリの「メディラシージャーナル」だが、本日、全サイトを閉鎖したとのこと。思い切った決断に敬意を表したい。主催者ブログに「お詫び」エントリー がポストされた。「科学的根拠のない医療情報発信」、「科学的根拠のない広告が表示」との理由だが、それよりもっと基本的な「責任所在の明確化:主催者名、住所」、「広告とコンテンツの明示的区分」、「掲載情報の引用出典の明示」などが問題だったと思う。

案外、この件で改めて浮き彫りになった問題は、医療関連のコンテンツ連動広告や検索連動広告などのありかたかもしれない。従来野放しであったこれらの広告に対し、最近、一部のNPOが違法事例報告などを開始している。たしかにメディラシージャーナルのアドセンス掲出方法はやり過ぎの感が強く、「荒稼ぎ」批判も上がったが、結局一番儲けているのはGoogleなのである。いずれ、他社も含め違法医療関連広告の配信責任を問う声が起こってくるだろう。

もう一つ重要なことは、このメディラシー事件の一連の推移の中で「医療者以外は医療情報をあつかうな」という声が起きた点である。これは極端すぎるのではないか。もしも、こんなふうにウェブ上の医療情報配信が規制されるなら、闘病者が闘病体験を公開することもできなくなってしまうだろう。これを敷衍すれば「素人は医療に口出しするな」というところに行き着くはずだ。これはまさに患者参加型医療とは正反対のパターナリズム(父権主義)回帰である。メディラシー事件は、大衆の中に存在するパターナリズム回帰心情を顕に呼び出してしまった。医療を取り巻く私たちの現実は、このように可逆的で流動的な危うさを内包している。 続きを読む