医療情報の生態系 2

innocently

前回エントリでは、日本語ウェブ上の医療情報について、量よりも質を先に論じるような「問題」の立て方自体がおかしいと指摘した。医療界や行政などから出てくる医療情報量の少なさを見ずに、個人や民間企業の「怪しげな情報」だけを取り上げて警戒心を煽るような「問題」の立て方こそが問題なのだ。本来、医療界や行政側の医療情報が量的にもっと充実していれば、「怪しげな情報」の突出も後退するはずだ。医療情報を生態系として捉える視点とは、全体のバランスを考量する視点であり、一方を指弾する視点ではないだろう。

では、これから医療情報生態系はどのような進化をとげるのだろう。そろそろ今後のビジョンを思いめぐらす時期に来ているのかも知れないと、最近考えることが多い。というのは、ここ数年ウェブを支配してきたWeb2.0がそろそろ終わるかもしれないからだ。その兆候として、すでにSBMやRSSの関連サービスの衰退が指摘されている。数年前に一世を風靡したdiggの大規模リストラが伝えられるご時世なのだ。確かにSBMやニュース・アグリゲーターなどは、早晩、ツイッターに代替される可能性が高い。また、2.0に代わってソーシャルウェブという言葉が語られることも増えてきている。

欲しい情報へ到達する手段が、検索エンジンやSBMからツイッターやFacebookにシフトする可能性も論じられている。これらツールやサービスの消長の先にどんなウェブがあり、そしてどんな医療情報の生態系があるのだろうか。そんなことを考えはじめている。 続きを読む

医療情報の生態系

ecosystem

先週10月20日付け朝日新聞朝刊に「ネットの医療情報、見極める」と題する記事が掲載され、ネットにも公開された 。TOBYOや当方コメントも紹介してもらったが、ネット医療情報の現状に対する多様な声を、ポイントを押さえながらも非常にコンパクトにまとめ上げてあり良い記事だと思った。この記事によって諸関係者の布置が俯瞰され、TOBYOプロジェクトが置かれている現下の位置がよくわかったのである。

しかしながら、ネット上の医療情報の信頼性にかかわる問題は、かれこれ10年も前から同じような議論が繰り返され、一向に前進していないように思われる。これはなぜなのか。記事には「ただ日本では、検索エンジンで上位に並ぶのは企業や個人のサイトが多い。怪しげな治療法を勧めるサイトもあって問題だ」(CNJ関係者)との発言もあり、このあたりを調べてみると「ネット上の医療情報の質の日米比較」論文まで書かれているようだ。(CNJの参考ビデオ)。それによれば、米国よりも日本の方が圧倒的に「ネット医療情報の質」は劣るとのことだ。だが、どうして「量」の前に「質」を論じてしまうのだろう。逆ではないのか。 続きを読む

TOBYO in San Francisco

サンフランシスコ・ヒルトンで開催されたHealth2.0_SF_2010の二日目(10月8日)、午後のセッション”Health 2.0 Tools Around the World”で、TOBYOとDFCのプレゼンテーションをメディカル・インサイトの鈴木さんにお願いした。このセッションには日本からTOBYOとMedPeer、インドから2社、イタリアから1社が参加した。鈴木さんのすばらしいプレゼンテーションによって、TOBYOとDFCは世界に登場することができた。とにかく、早くDFCアルファ版を完成させなければならない。10月中の完成をめざしている。

なおこのビデオは、MedPeerさんのご好意によって提供していただいたもの。MedPeerの皆さん、ありがとうございます。

三宅 啓  INITIATIVE INC.

ShareCare: Social Q&A Platform

ShareCare201010

今回のHealth2.0_SF2010で一番注目を集めたShereCare だが、すでにサイトは稼働している。マシュー・ホルトがブログで「今回、ShareCareのためにルールを破った」と告白しているが、それほどまでに別格扱いされているのは何故か。おそらくそれは、CEOのジェフ・アーノルドをはじめ豪華メンバーとクリーブランドクリニックなど豪華ブランドの結集、そして破格の投資額によるところが大きいのだろう。

しかしこう書いてくると、強い既視感を抑えることができない。あの”Revolution Health”(以後RHと略す)の登場シーンとダブって見えるのは、いたしかたないことだろう。だがRHは”Revolution”を起こすことも、さしたる成果を収めることもなく、EveryDayHealthに売却されてしまった。熱狂、興奮、そして失望。2007年から始まったHealth2.0のほんの短い歴史において、これは最初の一つのサイクルの終りを告げる事件であった。 続きを読む

First Life ResearchとTOBYO_DFC


昨夕、メディカル・インサイトの鈴木さんの来訪あり。先週サンフランシスコで開催された「Health2.0 SF 2010」について詳しくお話しを聞いた。TOBYOプレゼンをはじめとして、今回の鈴木さんのご活躍には本当に頭が下がる。その後、当方の「オフィシャル・レストラン」である随園別館に場所を移し、ピータン豆腐、切り干し大根卵炒め、水餃子、羊のしゃぶしゃぶなど食べながら、美味しい瓶だし紹興酒をぐいぐい飲んで楽しく歓談したが、TOBYOプロジェクトにとって今回のカンファレンスが非常に意義深いものであったことをあらためて確認した。

ポイントはたくさんあるのだが、その中でも、とにかく私たちのDFCのライバル”First Life Research”(以後FLRと略す)の登場が特筆される。このFLRの登場によって、「私たちの発想は決して孤立してはいなかったのだ」と意を強くした。このような医療における「ソーシャル・リサーチ」とも呼べる新しいサービスが、同時期に日本とイスラエルから登場したことがおもしろい。

だが同じ発想に基づきながらも、DFCとFLRはかなり違う。DFCが薬剤だけでなく医療機器、医療機関、治療法など医療マターを広範囲にカバーしているのに対し、FLRはあくまで薬剤だけに特化している。DFCは闘病ブログなど患者体験ドキュメントを収集しているが、FLRは患者コミュニティや掲示板のポストまで収集しているようだ。また分析手法も異なる。SF2010でのFLRのプレゼン・ビデオ(上図)が公開されたが、これを見て、想定していたよりマイニング技術の投入が少ないように思った。どうやらGoogleTrendsみたいな薬剤名出現の時系列把握、そして薬剤ごとの話題出現マトリクスがFLRの肝であるようだ。 続きを読む